夢   

berg: three pieces for orchestra
mahler: symphony no.7
esa-pekka salonen / po @royal festival hall


夢の都市、ウィーンの今シーズンの最後は、ベルクのオーケストラのための3つの小品とマーラーの交響曲第7番です。このシリーズはあと1回。来シーズン始めに演奏会形式のヴォツェックで幕です。それにしてもこのシリーズに対するサロネンさんの意気込みって半端じゃありません。毎回毎回、素晴らしい演奏を聴かせてくれます。今回もきっとステキなものになるに違いないと聴く前からわくわく。といいつつ会場に着いたのは開演3分前。実はチューブがストで、でもわたしの利用する線は動いてたんだけど、途中乗り換えするのがめんどうで、お天気もいいし、ロンドン橋から歩いちゃえっていうことで、お散歩かたがたのんきに歩いてきたのでした(意外に距離あった)。
さて、いきなりの曲はベルクのオーケストラのための3つの小品です。小品といいつつ、たくさんの打楽器を含む大オーケストラ。実はこの曲、CDを持ってるくせにほとんど聴いたことなかったのでした。なのでよく分からない曲。でも、ベルクって新ウィーン学派の3人の中では一番マーラーの影響を受けてた人ですね(一番熱狂的だったのは意外にもウェーベルンだったみたいだけど)。まさに無調の音楽をマーラーが書いたらこんな感じになるだろうってオーケストラの響きでした。そして、サロネンさんとフィルハーモニアは思いっきり力一杯演奏してくれました。木管楽器、特にオーボエがめちゃくちゃステキな音色で、それから、こんなにがんばったら金管楽器、マーラーまでもたないんじゃないかしらと心配になっちゃうくらい。熱に浮かされた取り付く先がなくて浮遊感のある音楽は夢。突然ハンマーが打ち下ろされてびっくりしたけど、ああそう言えばこの曲ってマーラーの交響曲第6番へのオマージュだったのね。ハンマーは第3曲の山場で3回、そして、マーラーでは消された、最後にもう一度打ち下ろされました。これはぐさりときました。死んじゃうのかな。で、ふと思ったのが、サロネンさんはどうしてこの曲とマーラーの交響曲第6番を組み合わせなかったんだろう?3つの小品/交響曲第6番、ヴァイオリン協奏曲/交響曲第7番っていう組み合わせでも良かったんじゃないかって。
休憩のあとのマーラーの交響曲第7番は、マーラーの作品の中ではあまり人気のない曲。でも、わたし、高校生の頃、マーラーの中では交響曲第7番が一番って主張してた変わり者。あとでもっと聴き進めるうちに第6番や第9番、第10番の良さがしみじみ分かるようになっていったんですけど(高校生で交響曲第9番に共感できる人は人生を踏み外しているか、何も分かってないか、そんな気がします)。でもやっぱり第7は掛け買いのない曲です。6番にない艶やかな色があるし、幻想的できれい。そしてサロネンさん、この曲と相性よさそうって思うのですね。スマートでかっこいい演奏するから。この曲に染みついちゃってる妙な哲学的な澱を取り去ってくれると思うんです。
ドキドキしながら集中していきます。始まりのテノールチューバの旋律は短い音符を鋭くきりっと。対旋律が出てくるところではそちらは柔らかくという対称が面白かったです。深刻ではないけれども暗めの雰囲気。そのままの雰囲気で主部に突入。暗いけれども深刻さがそれほど感じられないのはこれが死の音楽ではないから。深い森にさまよい迷ったときのどきどき感。見えない世界への畏怖みたいものでしょうか。トランペットのファンファーレも戦闘というより自分の気持ちを鼓舞するような内に向けた感じ。そして幻覚的な第2主題。大きく歌うところでは大きくテンポを落として音楽を描き分けていきます。これは夢の中?夢の音楽?どうしてこんなふうに聞こえるんでしょう?サロネンさんの表現は音の抜き方がとっても上手くて足場を失ったような無重力感を表出します。それに音の立ち上げ方がとってもスムーズで何もない彼方から音がふわりと立ち現れるよう(といってもピアニッシモからクレッシェンドするのではないのですが)。これだけの表現ができてしまうフィルハーモニアの上手さにも舌を巻くばかりです。ここまで幻想的なこの第1楽章はあったでしょうか。会場の雰囲気が変わったているのを肌で感じました。この音楽会シリーズのプログラムには、マーラーのこの音楽はおとぎ話的な世界を表出していると書かれていました。予想外のねじれや展開、現実と幻想の混沌とするおとぎ話の世界はマーラーのこの音楽の空気と共通するって。なんていう慧眼なんでしょう。深刻でない暗さ、夜の世界にさまようどきどき感、魔法使いが出てきそうな影の踊り、月下のセレナード、突然の真昼の爆発。子供目線のおとぎ話に還元すればすべてが嵌ります。この音楽をおとぎ話と読み解いたのは、わたしの知ってる限り初めてです。そして、当日のこの演奏もまさしくその世界でした。プログラムを書かれた方が誰なのか分かりませんが(記名されていなかった)、もしかしてサロネンさんと議論した上で書かれたのでしょうか。あまりに符丁が合いすぎてます。夜の行進曲である最初の夜曲も、夜の影!?のちょっと怖いけど決してグロテスクではないスケルツォの表現もセレナードも夢の世界と現実が行き来してます。サロネンさんはそういうふうに演奏していたと思います。ひとつひとつの音をとっても丁寧に扱って。わたしの好みでは夜曲はどちらももう少しゆったりが好きなんですけど、スケルツォの影の踊り、本当に質量感のない幻想的な表現には鳥肌が立ちました。そして白昼夢。敢えて夢という字を加えます。真昼は現実なのでしょうか、まだ夢の中なのでしょうか。音楽はわたしをどこかに連れ去ったようです。さすがに、オーケストラに疲れが見えて、アンサンブルが雑になってしまったところはあるのですが、それでもここでの大爆発はステキでした。ティンパニの叩き方に癖みたいのがあって、ティンパニストの表現なんだわって(そう言えばこの間の第6番やチャイコフスキーの交響曲第5番の演奏でも同じような叩き方をしていたから)、でも実はわたし、気に入ってます、打楽器群は最後の壮大なクレッシェンドがすごかったです。ハープの人たち、耳に手を当てていましたもん。演奏後はブラボーの嵐。満席ではなかったけど、音楽をよく知っているお客さんが入っている感じでした。この音楽に心からの大きな拍手は気持ちの良いものでした。
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by zerbinetta | 2009-06-11 07:58 | フィルハーモニア | Comments(2)

Commented by 藤井 at 2009-06-21 01:27 x
zerbinettaさん、Mahler第七番聞きました。響きがクリアーで本当に美しいですね。たっぷり時間を掛けて調和の取れたポリフォニー音楽を構築し、とても洗練された「おとぎ話」の世界を描き出してくれていると思いました。終楽章の力強い弾け方も良かったですね。前の6番に比べると、ややスリリング(刺激的)な場面が少なかったような気がしましたが、それでも大変美しく面白い演奏でした。会場での体験と、録音で聞くのとは印象が違うと書かれていますね。私も最近ライブに目覚めています。来シーズンデトロイト交響楽団が7番を演奏するので、しっかりと体験してみたいと思います。
Commented by zerbinetta at 2009-06-22 07:31
マーラーの第7番、藤井さんも聴かれたんですね。感想どうもありがとうございます。確かに、この間の第6番のような凄まじいばかりの緊張感はありませんでしたが、これはこの音楽の性質なのかもしれませんね。音楽が多方向に拡散しつつ共存してるので綿菓子のようにふわふわな甘さがあるのかもしれません。でも、会場で聴いたときは、音の出し方や抜き方、音の残し方などはっとする瞬間がたくさんあったのです。残念ながらマイクを通してるとそれが分かりづらいような気がします。もしCDで出るとするとそういうところは加工されると思うので現場に近い感じになるのではないでしょうか。あの放送ではずいぶんとデッドに感じました。
マーラーの音楽はほんと録音では捉えきれない部分が多くあるのでぜひ生で聴かれてみてくださいね。藤井さんはどんな演奏からもポジティヴな部分を聴き出せる方なので絶対楽しめると思いますよ。

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