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タコ八〜〜   

rachmaninov: piano concerto no.2
shostakovich: symphony no.8
helene grimaud (pf), vladimir ashkenazy / po @royal festival hall


フィルハーモニアもロンドンフィルもシーズンまとめてチケット取ったんだけど(まとめて取ると割引になるので)、チケット・オフィスのコンピューターに問題があったらしく、割引されず定価でチケットが発券されちゃいました。なのでチケット・オフィスにクレームを入れて割引を得るためにチケットを返送したのだけど、新しいチケットがまだ手元に届いてな〜い。ので、チケット・オフィスで発券してもらうことにして行ってきました。フィルハーモニアのシーズン・オープニング。特別な行事があるわけではなく普通の音楽会です。チケットは前に取ったのでなんの曲を演るのか前の日に調べて、おおおタコ八〜〜〜。タコ好きのわたしにはたまりません。しかも8番。タコの交響曲の中でも13番に次いで大好きな曲。しかし不人気なのか滅多に音楽会にかかりません。ラッキー。そしてもうひとつはラフマニノフのピアノ協奏曲。グリモーさんのピアノです。グリモーさんは昨シーズンも2回聴いてるからここでは3回目。かなりの高頻度(確か今シーズンもう1回聴きます)。そして指揮者はアシュケナージさん。これってわたしが気に入って聴いているCDの演奏とオーケストラを含めて同じメンバーじゃない。なんとなくCDも聴いたりして予習なんかしてみたり。期待が高まります。
グリモーさんのピアノは低音をしっかり強調して割と堅めのタッチで相変わらず男らしい。音のつぶつぶが固いから弾けるようにクリアで曖昧さがなくて、ラフマニノフの持つ甘やかな叙情性を一見拒否するような厳しさがある。でもそこに秘かに感じられる夢のような抒情が際だつのよね。厳しい人がふと見せた優しい笑みのような本物の優しさみたいな。彼女のラフマニノフを聴くのは2回目だけどいつも変わらない。アシュケナージさんのオーケストラは上手いですね。さすがフィルハーモニア。卒がありません。特にヴァイオリンのいとを引くような感じがステキでした。会場は大きな拍手。ここでもグリモーさんは大人気です。
休憩を挟んでいよいよタコ。タコというのはもちろんショスタコーヴィチですよん。曲は暗い低弦の叫びから始まります。音の最後を絞り出すように膨らませて弾き切ってなかなか気合い入ってるなって感じ。弦楽合奏の透明な響きに時折トランペットが重なって、CDで聴いてたときはうっかり気がつかなかった〜、オーケストラとしては聴かせどころというかとっても神経を使うところだと思うんだけど、各パートが完全に一本の線になって聞こえるのはさすがアンサンブルの上手いフィルハーモニア。中声部の刻みの和音の丁寧なこと。神経の行き届いた美しい演奏です。タコ8はショスタコーヴィチの交響曲の中では第11番と共に最も凍てつく寒色系の音楽だと思うのだけど、フィルハーモニアの澄んでいるけれどもほのかな暖かみを持つ音色は、この曲を極寒のさらさらと固い雪にせず、さらさらとしているけど少し柔らかな雪に留め置いています。これは音楽の純粋な美しさを表現したいアシュケナージさんの欲しい音色にまさにぴったりなんじゃないかと思います。それにしてもショスタコーヴィチはマーラー以降の大交響曲作家として大きな交響曲を書いてきたと思っていたけど、今日のステージのオーケストラはそんなに大きくないし、考えてみると彼の交響曲って7番の例外を除いてCD1枚に収まるっていうかブラームスと同じようなサイズなのですね。それに打楽器や金管楽器が勇ましく鳴って重厚なのかと思いきや、高音重視でわりと軽いことに気がつきました。アシュケナージさんの音楽は、第2楽章後半で徐々にテンポを速くして狂気に満ちた表現はあったけれども、スコアに書かれた音を純粋に音楽にして美しく奏でるということに徹底していたように思えます。マーラーでは楽譜の後ろにある19世紀的などろどろしたものを取り去って純粋に楽譜を音にすることで、新しい音楽に光を当てるような演奏が近年流行っていて成功してると思うけど、アシュケナージさんがショスタコーヴィチにとった方法はこの方法ではないかと考えるんです。ただ、この方法がショスタコーヴィチに対して成功するかについては評価の分かれるところで、彼独特の皮肉や逆説、痛烈な風刺が感じられず、素直すぎるんじゃないかしらとも思うのです。多分、アシュケナージさんが表裏のないとっても純粋な人で、皮肉を言ったり人を疑ったりすることがない方なんじゃないかとさえ思えるのです。ソヴィエトから亡命して、彼の存在はソヴィエトから抹殺されたこともあってうんと大変な人生を送っていらっしゃると思うのに、こんなに素直な気持ちを保ち続けることができることが不思議でなりません。少しは皮肉も言ってやろうか、とかわたしなら考えるのにね。そこがアシュケナージさんの音楽とショスタコーヴィチの音楽の決定的な違いだと思うんですが、もちろん、楽譜に書かれた音を純粋に美しく表現するのですから、とってもステキだし、わたしも実はアシュケナージさんのショスタコーヴィチってCDも何枚か持っていて大好きなんですけど、音楽が終わったあとこんなに爽やかな気持ちで聞き終えて良かったんだろうかとも思ってしまったのは事実です。彼のショスタコーヴィチへの愛は十分すぎるほど伝わってきましたが。それにしてもアシュケナージさんってお茶目な方なんですね。終演後のステージでの振る舞いがちっとも偉ぶってなくて、なんか軽くて、ほんとに愛すべき人なんだなぁって思いました。

by zerbinetta | 2009-09-22 07:31 | フィルハーモニア

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