音色へのこだわり   

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jörg widmann: violin concerto
mahler: symphony no.6
christian tetzlaff (vn), daniel harding / lso @barbican hall


しばらく前はブルックナーづいてたんだけど、最近はマーラーづいてきました。この間は歌曲や花の章でしたが、今日は大曲、交響曲第6番。マーラーの中で傑作中の傑作と言って誰も異論を唱えないでしょう。そんな作品。でも、若きスーパー・スター、ハーディングさんが振るロンドン・シンフォニーでも入りは悪くて6、7割方の入り。一番安いチケットで入って一番高い席に座って聴きました。へへへ。

最初はテツラフさんをソリストに迎えて、若いドイツの作曲家ウィドマンさんのヴァイオリン協奏曲。2007年の作品です。ヴァイオリンの独奏で音楽が始まった後、まあ粘る粘る。約30分間無限に続くメロディ。途中でゲネラルパウゼが2回あるんですけど、それ以外は音が途切れることなく旋律が続いていきます。そして、ヴァイオリンの独奏も弾きっつめ。これ絶対しんどそう。ヴァイオリン協奏曲のソリストに譜めくりの人が付いたのも珍しい。曲の感じはベルクの協奏曲をワグナー風に拡大したみたいで、調性感のある12音って感じで、わたしにとっては聴き安めな音楽でした。1回聴いただけでちゃんとは評価できないのですが、悪くないです。でも、今って何でもありなのかなぁ、ネオクラシックに、ネオロマン、ネオルネッサンスにネオ無調、そのうちネオ現代音楽。何でもありな分、何にもないような気がして、ちょっと複雑な気持ち。いったいわたしたちの音楽はどこに行くのでしょう。

休憩の後はマーラー。すごいすごい、人がたくさん。大編成のオーケストラ、壮観です。実はわたし、ハーディングさんとは実演を聴いて以来、あまりウマが合わないのです。なので、今日も心配していました。でも、これはわたしの感覚で彼の実力は世評の通りですよね。若い頃のラトルさんもわたしは苦手でしたし。でも、そんな迷いは始まりの瞬間から吹き飛んでしまいました。何という強烈な意志を持ったコントラバスのリズム。少し速めのテンポででも、重く激しくリズムを刻んでいく。今日の演奏はとってもリズム感が良かったのです。盛り上がりの部分のテンポももたつくほど落とすことなく、場合によっては反対に加速をかけたりして、煽るように。息をつかせぬ緊張感。これが最後まで持続して、ふうっと弛むことがないんです。オーケストラを完全に自分の楽器として鳴らしていました。第2楽章はアンダンテ。CDではよく聴いているアバドさんの演奏がそうなっているのですが、実演でこの順番で聴くのは初めてです。わたし自身は、スケルツォーアンダンテの順番の方がをどちらかというと聞き慣れているので、マーラーの判断がアンダンテースケルツォの順番だとしても(順番についてマーラーは悩んでいたという記述もまだ見られますが、彼はこの順番でしか演奏していないし、音にしてからは悩んでいる形跡は見られないのです)今まではちょっぴり違和感も残っていたのですが、今日の演奏はそれが全くなかった! それは多分、若いワーディングさんがこの曲をこの順番でしか演奏したことがないからなんだと思います。迷うことがないんですね。そして第1楽章の完全燃焼から、すうっと静寂の世界に入っていけた。アンダンテの最初はむしろ無表情と言えるくらいのトランクイロ。でもそれが幽玄感を醸し出していて、抑えに抑えた音楽を作っている。でもこちらが作者(もしくは音楽の中の主人公)の現実なんですね。第1楽章のカウベルが遠くで(ステージの外)で鳴っていたのに今はステージの上。もしくは反対で作者は夢の中を彷徨っている。そして第1楽章と第4楽章の現実の世界では、安らぎのある場所は夢の中。スケルツォは少し重め。リズムの出し入れを強調するとか、対位法の妙を強調すると言うより、楽譜に書かれていることを素直に表現した感じ。そして最終楽章は再び高い緊張感の中、ドラマを余すところなく表現。全く隙のない演奏。わたしは音楽の中にあるデモーニッシュな狂気、絶望をもっと聴きたいのですが、それは将来のハーディングさんに期待しましょう。30歳そこそこ(34歳)で、人生の絶望なんて表現されても困りますから。でも、ハーディングさんは音楽に磨きをかけることで、マーラーが表現したかった音の高みに達していたと思います。知的で発見に満ちたマーラー。
ハーディングさんの演奏で特筆したいのは、音色の表現。この曲はマーラーの交響曲の中では一番の完成度があるとも言われてるけれども、実はまだ実験途中ではなかったのかしら。第4交響曲で見せた対位法の実験、第5交響曲では形式の実験、そして第6交響曲でマーラーが行っていたのは、音色の実験。(多分、第7番ではそれらを総合させた到達点を書こうとしてたんじゃないかしら。) そんなことをハーディングさんの演奏を聴いて感じました。ものすごく音色を丁寧に扱っている。ヴィヴィットに鳴る打楽器群、フィナーレのシンバル3人は知ってたけど、第1楽章の最後の方ではトライアングル3人なんですね、めちゃくちゃ。ハンマーは普通の叩き方じゃなくて、ハンマーを横向きにして打ち下ろしてたし。そして、木管楽器の絶妙な配合、ミュートを付けた金管楽器の不思議な音色、低音弦楽器のコルレーニョ。普段CDでは全く聴いたことのないような音がいくつも聞こえてびっくり。それにこの曲、ひとつの旋律を違う楽器群に演奏させることが多くて、ウェーベルンの音色旋律の先駆けみたい。それにしても、いつも実演を聴くごとに新たな発見があります。まだまだ知らないこと、気がつかないことばかり。音楽って面白いですね。

そうそう、ハーディングさんがマーラーについて語る短いインタヴゥーがlsoのサイトで観られるんですけど、ハーディングさんって意外と口べたなんですね。ちょっと親しみを持ってしまいました。
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by zerbinetta | 2009-11-12 00:25 | ロンドン交響楽団 | Comments(0)

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