どうして音楽って一瞬で消えていってしまうんだろう   

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mendelssohn: violin concerto
mahler/cooke: symphony no.10
christian tetzlaff (vn), daniel harding / lso @barbican hall


音楽室にあったメンデルスゾーンの肖像画、なんだかなよっとした感じの優男ですよね。柔らかで甘美なメロディの彼の音楽を聴くと確かに肖像画の通りって感じもします。特にヴァイオリン協奏曲なんかはメロディのとっても美しい音楽として有名ですし、ロマンティックな音楽であることは間違いがないと思うんですね。一歩踏み外しちゃうと空っぽなムード音楽のようになってしまう危うさも併せ持つ。という勝手な印象を持って聴き始めたんですけど、これがなんと。熱く熱のこもった。わりとステージのそばに座ってみたんですけど、ハーディングさん、うなるうなる。この人こんなに声を出す系の人だとは今日初めて知りました。そしてオーケストラを煽りまくり。対してテツラフさん。彼は冷静な学級委員長タイプの人だと思っていたんですが、この人も熱い。といっても、お二人ともロマンティック協奏曲を歌いまくるわけではなく、もっと漢な感じ。なんと口で言って良いのか分からないんですけど(なんて書いたら音楽会ブログ失格ですね)、硬派なロマンティックというか、バンカラな青春というか、浪花節じゃないんだけど夕日に向かって叫ぶとか、好きな女の子なのに無視した風を決め込んで、でもあっちを向いて熱い魂を見せつけてるというか、なんだかわけ分からなくなってきましたがそんな感じ。正直、聴き終わったあとちょっと訳が分からなくなっていました。お二人とも実は体育会系だったんですか。ふたりの音楽の方向は完全に一致。ハーディングさんは音楽が終わったとたん、テツラフさんに向かって小声でブラヴォーと言っていました。テツラフさんはアンコールに応えてバッハの無伴奏からかわいらしいガヴォットをステキに弾いてくれました。

さあ、今日のメインはマーラー/クックの交響曲第10番。この曲、生で聴くのは初めてなので楽しみにしていたんです。この夏のプロムスで、シャイーさんとゲヴァントハウスが演奏しているんですけど、聴きに行かなかったし。それに、わたしは未聴なんですけど、ハーディングさんのCDとっても評判良いみたいです。さらになにより、わたしはこの曲がマーラーの中では一番好きかもっていうくらい大好き。そんな期待のかたまりすぎて、実は演奏聴いたあと、ぷしゅーと空気が抜けたような状態になってしまって良く覚えていないんです。とっても良かった、凄かったっていうのは間違いないんですけど。。。何だろううううやっぱり言葉が出てこない。
始まりのヴィオラは意外と深く暖かい音。そして遅めのテンポ。続くアダージョもたっぷりとふくよかな響きで、実は予想していた乾いた20世紀側から見た解釈ではないのでは、と気づきました。もっと第9番よりのむしろ19世紀寄りな感じ。皮肉っぽい無機質な感じの聞こえることの多いトリルを含んだ主題もアダージョの主部に取り込まれたように(と言ってテンポは速くなってますが)、柔らか。第1楽章全体がアダージョの気分に支配されていました。クック版はこの楽章にも改訂を加えているので、何回か聴いた全集版のアダージョよりも対旋律が多くて音楽も豊か。対向配置にしたヴァイオリン群が絡み合って面白い。やっぱりわたしはマーラーの残した不完全なスコアよりもこちらの方が好きだな。全体の柔らかな印象は例の不協和音の叫びでも変わらず、不協和音がなんと美しく響いたこと。そしてハーディングさん、相変わらず熱い。一瞬のゆるみもなし。かなりうなり声を上げながら両腕を大きく使って指揮していました。ハーディングさんって指揮棒使わない人なんですね。
第1楽章と第2楽章の間はほんの少し間をとって、オーケストラの人にちょっと声をかけたり、オーケストラの人も隣の人と話したりしてた。その第2楽章のスケルツォ、マーラーが書いた中では極端に変な拍子だと思うんだけど、それをぎこぎこと敢えてスマートにやらないところが新鮮。リズムの不安定感が落ち着かない雰囲気を醸し出して不思議な感じ。プルガトリオは三角形の動機をとっても鋭く強調して、それに弱音器付きのヴァイオリンの抑えたかすれた感じが印象的。プログラムノート、書いているのはなんとデヴィット・マシューズさん、弟のコリンさん、ゴルド・スミスさんと共にクックを助けてクック第3稿以降を手がけた人です、によるとこの楽章はその後の楽章への前奏曲みたいな役割を果たしていて、第4、5楽章で使われる主題の多くを提示しているそうです。続くふたつの楽章は切れ目なく演奏されました(第4楽章と第5楽章はもともとつながっていますけど)。わたしの方は興奮して何が何だか分からないうちに最後の楽章まできてしまった感じなんですけど、スケルツォのお終いの方でのテンポの落とし方、消音した大太鼓のくぐもった大きな音(決して鋭くない)がとても印象的。わたしはクックやマゼッティさんの業績をとっても高く評価していますが、それでも第4楽章と第5楽章は、あっこれはマーラーの音楽じゃないんだってはっとさせられる箇所がいくつかありました。CDではあまり感じたことないんだけどね。生で聴くと音の情報量が多いからでしょうか、たくさん考えさせられます。
ハーディングさんの演奏はこの曲を未完成のマーラーの作品の補筆完成版としてではなく、マーラー/クックによる完成された作品として演奏していたと思います。ハーディングさんの生まれる前に作られた音楽ですから、ハーディングさんにとってはそれが自然だと思うし、なにしろクック版を最も多く演奏している指揮者のひとりラトルさんの元でアシスタントをしていた人ですしね。それに、ハーディングさんはマーラーのレコーディングをこの曲から始めるくらい愛着もありそうです。なので、本当に演奏は音楽的というか、例えばわたしの好きな演奏のひとつギーレンさんのCDの演奏ですらディスクリプティヴなところがあると感じさせるくらい、音楽の精神の中にのめり込んだものだった思います。ロンドン・シンフォニーの音も個々の楽器の音色がとてもきれいで、今日は特にトランペットの音色にときめきました。音楽が刹那でもう2度と再び聴けないことをこれほど残念に感じさせる演奏も少ないでしょう。最後は消え入る音をぎりぎりまで伸ばして、長い沈黙の間を置いて演奏は終わりました。
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by zerbinetta | 2009-11-20 03:47 | ロンドン交響楽団 | Comments(6)

Commented by かんとく at 2009-11-23 07:27 x
ハーティング私も大好きです。声を出しているとは知りませんでした。ハーティングのマーラー10番のCDがあるとは知りませんでした。探してみます。
Commented by zerbinetta at 2009-11-23 08:15
ふふふ、唸ってます。口を閉じてむーむーと。かなり大きな声です。ぜひ今度近くで聴いてみてください。
ハーディングさんのマーラー第10交響曲はウィーンフィルと録音したものです。確かウィーンフィルデビューだったような。この曲でデビューしてしまうって凄いですよね。
Commented by 藤井 at 2009-11-23 13:52 x
ハーディングのマーラー交響曲第十番、唸り声入りで、凄かったようで、私も是非生で聞いてみたいです。前回の第六番とあわせ、不協和音も含めハーディングは、音色を美しく響かせているのですね。私も昨日クリーブランドでジョナサン・ノット指揮の演奏会をみてきましたが、彼もライブではかなりカロリーの高い熱い演奏を披露していました。面白いです。でもここのところハーディングとの相性が良くなっていますね。
Commented by zerbinetta at 2009-11-24 08:56
凄かったですよ。気合い入りまくり。ほんと、最近ハーディングさんとの相性が良くなりつつあります。
ライヴで聴くのとCDで聴くのと違って直に空気が伝わってくるので止められません。音楽とはいえ目から入ってくる情報も多いしね。クリーヴランドでは何を聴かれましたか。ノットさんはまだ聴いたことがありませんがぜひ聴いてみたいです。
Commented by 藤井 at 2009-11-24 14:29 x
クリーブランドでは、世界初演の作品、ドボルザークのチェロ協奏曲、それにツァラツストラでした。ノットは英国人で、見た目も動作(指揮ぶり)も生粋の英国人に見えました。機会があれば是非zerbinettaさんも聞いてみてください。彼のマーラー交響曲第九番を入手しましたので、追ってアップします。
Commented by zerbinetta at 2009-11-25 08:46
ノットさんってイギリス人なのね。ロンドンにも来ないかなぁ。リゲティのCD、大好きなのです。
クリーヴランドの音楽会良かったみたいですね。シュトラウスもオーケストラ面白く書いてますもの。シューマンはちょっと残念でした。でもそれがシューマン。パンにバターとジャムをたっぷりと塗ったようなオーケストレイションでお腹いっぱいになるけど、わたしはたまに聴きたくなります。
それにしても車で数時間の距離を2日連チャンなんてすごいです。

ノットさんのCD評、楽しみにしています。

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