きゃーーイケメンくん はあとはあと   

mozart: piano concerto no.20
mahler: symphony no.5
david fray (pf), leif segerstam / po @royal festival hall


とおっても楽しみにしていた、セーゲルスタムさんのマーラーの交響曲第5番。巷ではじんわりとセーゲルスタムさんのマーラー評判いいですからね。そしてわたしもセーゲルスタムさんにはとっても好感触。あの独特の風貌も森の魔法使いっぽくて大好きなんです。マーラーの作品の中ではあまり魅力を感じていないこの曲をずうっと脳内演奏していたこともこの音楽会への期待の表れかもしれませんね。それに対して、ピアノ協奏曲を弾くフレイさんには全く関心がありませんでした。プログラムの写真を見てもなんだか怖そうでふうんって感じでしたし。なので、始まりはモーツァルトのニ短調の協奏曲なのね、この曲よく聴くなぁ、今回で4度目かなぁ、少人数で弾くんだなぁ、あっ椅子がパイプ椅子だ、なんてぼんやりしながらステージを見てました。そしたら。ちょっと鬱々とした感じで入ってきたフレイさんを観てどきゅん。イケメン系。千秋先輩系。プログラムの写真より全然いいじゃない!目が悪いのでよく見えないのが残ね〜ん。抑えた音で始まった音楽。枯れる寸前まで音量を絞ってきましたね。ピアノはとっても柔らかなステキな響き。でも鬱々した感じは、よく分からないけど和音の響かせ方にあるんじゃないかしら。ペダルを使ってもったりめに和音を響かせてる感じ。内省的で引きこもりがちなモーツァルト。そういえば千秋先輩のバッハも屈折して鬱々としたイメジだったんですね。フレイさんのモーツァルトは屈折しているという感じじゃないけど、鬱々した雰囲気は千秋先輩もこんな感じなのかなぁって思った。長い髪をときどき耳にかける仕草、結構広いおでこ、うふふいいっ! 第2楽章はちょっぴり速めのテンポ。楽章の間でお客さんが律儀にコホコホするのを待たずに静かに弾き始めたのも自分の音楽に浸ってるみたいで吉。第3楽章も同じようにピアノを弾き始めて、速いテンポでオーケストラとの掛け合いがスリリングで面白かった。結構予定調和にならなくてドキリとするように崩してきたり。セーゲルスタムさんも上手に引き立てながらオーケストラをコントロールしていた。なんか、普段聴くモーツァルトとは一線を画したモーツァルト。多分、自分のためのモーツァルト。シューベルトに近い感覚なのかしら。他のソナタをどんなふうに弾くのか聴いてみたい。アンコールに弾いてくれた、ゆっくりした音楽も(曲名は分かりませんでした)、しみじみと美しく深く、とても良かったです。ダヴィッド・フレイ、28歳のフランス人なんですね。英語っぽいスペルのお名前だからイギリス人かと思ってた。ダヴィ・フラみたいな発音できないような発音がほんとなのかもしれませんね(フランス語のRののどの奥をこするような発音、わたしできません)。音楽会のあと、サイン会をしていました。CDは買わないし、プログラムも持っていなかったので(フィルハーモニアのプログラムは季節ごとにまとめて1冊なので前に買って家に置いてありました)、サインはしてもらわなかったけど、ちゃっかりと写真を撮っちゃいました。サイン会の彼は、さっきの鬱々とした表情とは違ってにこやかで人当たりも良さそうです。ひとりひとりのファンと笑顔でおしゃべりしていました。笑顔がまたステキなんです〜。ファンになるぅ〜〜。あっフレイさん、既婚なんですね。しかもパートナーはなんとあのムーティーさんの娘さんだとか。美人です。女優さんです。すごいっ。(って何を感心?)
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休憩の後はいよいよマーラー。この曲は去年初めて聴いて以来、2回目です。ステージにはわらわらと人が乗ります。今日のリーダーは日本人のマヤ・イワブチさん。フィルハーモニアの次席ファースト・ヴァイオリンの人です。魔法使いセーゲルスタムさんがゆっくりと登場していよいよ音楽が始まります。セーゲルスタムさんの指揮棒が動いてトランペットのファンファーレが鳴り出します。ただ縦に直線に下ろした感じのシンプルな動きなのにここまできちんと音が出て、自然に音楽の世界に浸っていく、魔法のようです。この始まり、ものすごく神経を尖らせるところだと思うんだけど。それに続くオーケストラのトゥッティはやっぱり鳴らしますね。セーゲルスタムさんの鳴らし方、潔い感じがして好きです。相変わらずアンドリュー・スミスさんのティンパニは凶暴でわたし好みだし。そして葬送の行進曲は、アウフタクトに独特の大きな間をとって引き摺るようにゆったりと丁寧に、でも普通のと何か違う。なんだろうと思って頭を巡らしながら音楽を追って。セーゲルスタムさんの音楽は、マーラーの音楽をひとつひとつの部品にまで分解してその部品ひとつひとつを丁寧に磨き上げている。だから、それぞれの部品がとってもきれいによく見えるし、マーラーが書いた複雑な音符が全てしっかりと聞こえてくる。でもそういう演奏なら最近多いし、こんなに不思議な気持ちになることはないと思う。何かが違う。そう、組み立て方が違うんだ。っていうか組み立てていないっ。セーゲルスタムさんは部品をそのまま部品の状態で置き放したまま組み立てるのを止めたよう。これがわたしの第一印象でした。戸惑うのも当たり前ですよね。こうして書くとただ即物的に音楽を鳴らしてる、まとまりのない演奏、駄演ということになりかねないんですけど、不思議なバランスで音楽として成り立っているんです。この感覚は第2楽章でも同じ。それぞれの声部がそれぞれ独立に音を創ってく。いろんな音のカセロール。情熱的な音、静かな音、悲痛な叫び、諦観、メランコリー、低俗すれすれの野卑た音、透きとおった清廉な音。ありとあらゆる音がそのままの状態でいろんなところから降りかかってくる。イワブチさんのソロも小節入って。思い出した。あれこそがポリフォニーだ、といろんな音が雑多に混ざるお祭りでマーラーが言ったこと。まさに今そんな音楽が展開されてる。そしてマーラーは続けてこんなふうに言っている。ただ作曲家はそれらの音をともに調和して響き合う全体へと秩序づけ、一体化させるだけなんだ、と。セーゲルスタムさんはどのように秩序づけてるんだろう? その答えは聴き進むうちに見えてきたような気がします。セーゲルスタムさんは音楽の中に秩序を求めないで、音たちの外に世界を作り出してるの。音たちがあちらこちらから飛び込んでくる世界にわたしたちは入り込んだよう。音どおしを関連づけて音楽を創ることを止めて、音を入れる大きな入れ物を創った。そしてそれは閉じずに開いている。世界なのだから。わたしたちはマーラーの音楽を聴くことができない。聴くというのは耳からわたしたちの裡に音楽を取り込むことだから。ここにある音たちはわたしたちと一緒に世界に存在している。音は外にある。
じっくりと間をとって、イワブチさんに合図してチューニングをして(音合わせというより間をとった感じ)、ゆったりと始まった第3楽章も同じ。ここでもたくさんの音が八方からバラバラに飛び込んでくるポリフォニー。楽しい音楽のところでセーゲルスタムさんが巨体をくねくねさせて指揮をする仕草はなんとかわいらしく可笑しいんだろう。音のないくすくすがまわりに広がって一体になる。この頃にはわたしにも世界の仕組みが分かってきて心地良い。
そうなると、興味が出てくるのが最後の2つの楽章。アルマへのラヴレターとして書かれたと言われるアダージエットと最後のロンドは、なんだか当たり前というか、ポリフォニーの作り方が前の3楽章とは全然違うんですもの。それはアダージエットが始まってすぐに思いました(アダージエットはむしろホモフォニックかもね)。ゆっくりと演奏しているんだけど、透明でむしろあっさりとした感じです。北欧の透明感なんて言われちゃうんだろうな。さて問題の最終楽章。確かにフーガになったり対位法を駆使しした音楽は複雑ではあるんだけど、全部枠の中というか予定調和的というか、マーラーさんどうしちゃったの? もしかしてアルマと出逢って頭の中お花畑状態? なんて悪口を言いたくなるくらい音楽が真っ当に書かれちゃってるんですね。最後のファンファーレも確かにある間が批判したように当たり前すぎるというか、第2楽章に出てきたときはうんと効果的だったのに。。。と感じつつも、実はわたしは音楽の凄さにしっかりと捉えられたいたんです。セーゲルスタムさんの創った巨大な世界はずうっと生きていてその中で音楽が進行していたんですもの。世界から見たら音楽のつまらなさなんて些細なもの。それにしてもなんて巨大なマーラーの交響曲第5番だったんだろう。聴き終えたときはぐわんと疲れてしまいました。充実疲れ。割とコンパクトにまとまっているかに見えるこの音楽からこんな大きな世界を生み出すなんてセーゲルスタムさん、ただ者ではない。そして魔法使いの巨人セーゲルスタムさんはイギリスの聴衆からも愛されています。終演後はブラヴォーと指笛の嵐。もちろんわたしも思いっきり拍手です。
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by zerbinetta | 2010-01-21 08:25 | フィルハーモニア | Comments(2)

Commented by 藤井 at 2010-01-31 01:02 x
セーゲルスタムのマーラー5番は、デンマーク放響とのCDをきいていますが、緻密さと豪快さが入り交じった武田信玄(風林火山)みたいな(?)演奏だったと記憶しています。彼のマーラーかシベリウスを是非ライブで体験してみたいですね。
Commented by zerbinetta at 2010-02-01 07:38
セーゲルスタムさんの演奏はわたしにはとってもユニークに聞こえました。正直最初は良い演奏だか悪い演奏だか分からずに戸惑ってしまいました。セーゲルスタムさんの仕掛けが分かったとき、これは凄い演奏なんだなと思いました。なんというかとてつもない巨大な音楽世界でした。彼の演奏、もっと聴いてみたいです。

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