涙を固めたら透明できらきらした水晶になるのかな   

sibelius: orchestral songs, symphony nos.3 & 2
helena juntunen (sp), osmo vanska / lpo @royal festival hall


ヴァンスカさんとロンドン・フィルによるシベリウス・チクルス第2夜。今日はオーケストラ付き歌曲と交響曲第2番と3番。交響曲はほぼ順番通り演奏していくのですが、今日だけは3番が最初で2番がトリ。でも、これは曲の性質を考えたら納得の順番ですね。今日の交響曲はシベリウスの交響曲の中ではメロディアスです。さて、どんな演奏になるんですよう。
幕開けはいきなり交響曲第3番。シベリウスの交響曲の中では一番マイナーだと思うのだけど、実はわたし、すご〜〜く好きなのです。教会旋法の得も言われぬ清廉さ、穏やかさ。ヴァンスカさんの演奏は頭にしっかりアクセントを付けた低弦の跳ねるような旋律で始まりました。楽しい気持ちになるんですよね。結構リズミックでわくわくするし。そして最後は突然のアーメン。もうなんかこうステキステキ。第2楽章は対照的に秘やかで雨の日の風景もしくは過去への憧れ。実はここがものすごく好きなんです。普段はあまり過去なんて思い返さないけど、わたしにも何か憧れがあるのかな。わたしが持っていたであろう手の届かないものへ。どうしても涙が溢れてしまう。第3楽章はいつものシベリウスらしさが出て少し取っつきにくいけどでも、どうしてこの曲、人気がないんでしょう。清楚で静かすぎるのかな。地味というより滋味に溢れてるのにな。心が涙に洗われて浄化されていく。
ヴァンスカさんの演奏は憎らしいほどツボにはまってほんとにステキ。音楽が生きてる。静寂の表現がとても良かった。シベリウスの音楽は直接的に心に言葉(ロゴス)を生むものではないけれども世界を満たす。というか音楽そのものが世界。ヴァンスカさんは世界を創り、わたしを誘いました。シベリウスの世界に漂うってなんて気持ちの良いことなんでしょう。ロンドン・フィルも前回にも増してシベリウスらしい透明でひんやりとした音を出していました。金管楽器も荒れてなかったしね。

交響曲のあとはオーケストラ付きの歌曲です。シベリウスってピアノ伴奏のを含めるとたくさん歌曲を書いてるんですね。7曲の独立した歌曲が歌われたけれど、最初の「秋の夕べ」がいきなりどよんと暗い感じでびっくりしちゃった。
「初めてのキス」も短いけど「トリスタンとイゾルデ」っぽい感じで良かったな。歌ったのはフィンランドの若いソプラノ、ヘレナ・ユントゥネンさんです。もちろん全く名前を知りませんでした。でも第一声を聴いたとたん好きだって思いました。この声の凛とした透明感、好き。ついついこういう音色って北欧のって形容したくなるけど、でもやっぱりなんか森と湖の北国を感じさせるのです。まだ30代前半の若い人。プロフィールを見るとヴァンスカさんやサロネンさんなどフィンランド系の指揮者に重用されてるみたい。オペラはまだフィンランド国内での活躍が主みたいですが、これからはもっと世界に活躍の場を広げていくんじゃないかしら。彼女の歌うイゾルデ聴きたいなぁ。ワグナー歌いではなさそうなので、ちょっとタフかもしれないけど、彼女の声、わたしが本で読んだトリスタンとイズーの物語のイズー(イゾルデ)にぴったりだと思うのよね。しっかり見守っていかなくちゃ。

最後はいよいよ交響曲第2番。これはもう堂々とした演奏でした。小細工をすることもなく音楽があるべき姿で自然に立ち現れる感じ。完全にシベリウスの世界に浸りきれる。交響曲第1番ではまだそれぞれの小さな細胞の扱いがバラバラだったけれども、ここでは小さな細胞がそれぞれ生命を持ちながら大きな構造の中に取り込まれているように感じる。そしてそこから大きな感情が生み出されてる。若さゆえの生をコントロールできる大きな意志の力が働いてるように思える。やっぱりここでも静寂の表現がステキ。割とステージに近い席で聴いてたのに耳を澄まさないと聞こえないくらい。そして最後は自然に感情が沸き立ってくる。こんな演奏を聴かされるとしばらくは他の演奏は聴けないや。第2楽章の終わりでふと感じたんだけど、もうこの曲で形式の溶解が始まってる。シベリウスの交響曲の成熟って、形式の溶解と音楽の蒸留だと思うんです(今日の演奏を聴いて言葉にしてみた)。第6番での第1楽章と第2楽章の境界の曖昧さ、第7番での単一楽章への有機化、不純物を含まない透明な音楽。その間にある第4番と第5番はどんな演奏になるのでしょう。次回が待ち遠しいです。
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by zerbinetta | 2010-01-30 10:14 | ロンドン・フィルハーモニック | Comments(2)

Commented by 藤井 at 2010-02-04 12:39 x
ヴァンスカのラハティ響との演奏を聴きながら書いています。彼の指揮では聞くたびに新鮮な刺激を受けます。ヴァンスカによるシベリウス交響曲全曲の連続演奏会なんて、本当に素敵な企画ですね。zerbinettaさんの期待通り(以上?)の演奏が展開されているようで、これからも楽しみにしています。
Commented by zerbinetta at 2010-02-07 03:45
ヴァンスカさんのCDはどんな感じですか?わたしにはヴァンスカさんは沸き上がる熱を持った、そしてリズミカルな演奏だと思いました。シベリウスの小さな音のモジュールの扱いがとっても上手い。その音楽会チクルスももう終わってしまいました。ちょっと寂しいです。

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