満たされることの寂しさ   

sibelius: tapiola, cantique and devotion, symphony nos.6 & 7
kristina blaumane (vc), osmo vänskä / lpo @royal festival hall


うんとステキな小説を読んでいて、挟むしおりが本のお終いのペイジに近づいてきた時って、ああもう終わっちゃうの〜、もっとこの世界に浸っていたい〜って悲しくなるよね。お話がいつまでも続けばいいのに。どうして終わっちゃうんだろう、最後はどうなってしまうの。って。今日のわたしの気持ちもそんな感じでした。いよいよヴァンスカさんとロンドン・フィルによるシベリウス・チクルスも最後。今までの音楽会があまりにもステキすぎたので終わりにしたくない。シベリウスもハイドン並みに交響曲100曲くらい書いてくれればよかったのに。最終回を飾る今日の曲目は、わたしがシベリウスの音楽でフィンランデアをのぞいて最初に聴いた、そして大好きになった交響曲第6番と彼が完成させた最後の交響曲、第7番。思い入れありまくりです。これで冷静でいられましょうか。

音楽会の始まりは、タピオラです。最後の2つの交響曲と同じ時期に書かれたシベリウスの交響詩の最高傑作(だそうです。実はあまりよく知らない)。いえでも、初めて生で聴くんですけど(CDでは数回聴いたことがあると思います)、確かに充実した音楽。シベリウス後期の簡素として無駄のない音楽だと思いました。もっとちゃんと聴きたいなぁ。CDが手元にあればいいんだけど。2曲目はチェロの独奏を含んだ小品2つ。これはもう抒情的な佳曲でした。暖炉の傍でゆっくり音楽を聴いて、みたいな感じ。チェロを弾いたのはラトヴィア出身のクリスティナ・ブラウマンさん。しっとりとした音で静かにステキに弾いたのだけど、プロフィールを見たら、あれっこの人、実はロンドン・フィルの主席チェリストじゃない。ロンドン・フィル以外にもいろんなところで活躍してるのね。
さて、ここで休憩。2曲の交響曲は休憩後です。

第6番は清楚な空気感から始まりました。これがもう本当に大好きなんです。すうっと心が静まって透明になっていく感じ。ヴァンスカさんはフレーズを大事にして音楽を進めていきます。特にフレーズの終わり方がとっても上手い。わたしとこの曲との出逢いはカラヤンのCDだったので他の演奏はほとんど速く感じるのですが、さらさらとわき出す源流のような音楽もいいなと最近思っています。ヴァンスカさんのはまさにそうですね。第1楽章の真ん中らへんで木管楽器の速いパッセージの上に高い弦楽器が弾けるようなリズムで被るところがあるんですけど、ここがカラヤンのように木管楽器が控えめでとっても好きなタイプ。実はここフェチなの。快速テンポで、なんかすぐに終わってしまって後ろ髪を引かれる思い。曲がそういうふうにできてるのでしょうがないのですが、もっともっと長く聴いていたい。儚さよりも悠久のときを感じたい。そんなわたしの哀しみを映したかのような第2楽章。影法師がだんだん長くうすくなっていく寂しさが心の中にも陰をさすような一日の終わりを告げるダンス。静かな終末。そんな音楽を一方で感じつつ、ヴァンスカさんの演奏はリズムが溌剌としていて極めてダイナミックで熱っぽい。わたしとしては静かなシベリウスが好みだけれども、ヴァンスカさんの揺るぎないシベリウスの解釈もステキ。リズムの扱い方が上手いので最後の楽章のティンパニなんてずれが強調されてかっこいい。シベリウスって割と保守的に見えたのに、結構アヴァンギャルドなのね。これは音楽会を通してずうっと感じていました。だひとつだけ残念だったのは、ホールの響きがヴァンスカさんの音楽を受け入れるに足りなかったこと。ヴァンスカさんは時折弱音を強調した音楽をしたのだけど、響きが足りなくなってちょっとささくれて感じられました。特にそれは今日の第6番や第7番で強く感じました。このふたつの音楽が教会の響きを模したところがあるからでしょうか。

最後の交響曲はもう何も言うことありません。純粋な音楽の結晶。静かなひんやりとした音楽だと今まで思ってたけど、ヴァンスカさんの手にかかると、中に熱い魂がこもってる。それは動きのあるリズの切れで表現されていました。あのトロンボーンの賛美歌はなんて心を動かされるんでしょう。霧の中で居場所を見つけた安心感。何度聴いても涙が出ます。それにしてもこの第7番は短い作品だけど、本当に充実していて、聴いたあとは大きな音楽を聴いたような充実感が残りました。そして終わってしまう寂しさと。心が満たされているのに、二度と戻ることのできない記憶へと過ぎていってしまう。いつまでも終わらないで欲しい、耳を閉じ目を閉じたいと何度願ったことか。そんな想いに共感したように、ヴァンスカさんはアンコールを弾いてくれました。悲しきワルツ。美しくもの悲しいワルツはなんて今の心境にぴったりなんでしょう。心憎いばかりの選曲。そして演奏もうんとステキ。

今回のヴァンスカさんとロンドン・フィルハーモニックによるシベリウス・チクルス。第3番や第4番、もしかすると第6番も、のような滅多に演奏されない交響強も聴けて、ほんとに幸せだった。それにこうして通して聴くことによって、シベリウスについてたくさんの新しい発見もあった。そして二度と聴くことのできないヴァンスカさんの共感と湧き出すような音楽の生命に満ちた演奏の記憶は、これからずうっとわたしの記憶に留まるでしょう。音楽を聴くことは、そこに生まれた感動がわたしの心に堆積してわたしを豊かにしてくれることだと思います。透明な涙はきっとカオールのような味がするんだろうな。
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by zerbinetta | 2010-02-05 07:34 | ロンドン・フィルハーモニック | Comments(2)

Commented by 藤井 at 2010-02-13 12:35 x
ヴァンスカの第七番、是非生で聞きたいです。彼の演奏の特徴の一つが、繊細で大胆な響きのコントロールにあると思っていますので、会場の音響に若干不満を感じられたのは残念でしたね。でも全七曲(以上)を、まとめて生で鑑賞されたんですから・・・
Commented by zerbinetta at 2010-02-14 01:03
シベリウスの交響曲第7番は今まで3回聴きましたが、常に新しい感動が得られますね。ほんと、現在最高のシベリウス指揮者、というかほんとにステキな指揮者のひとりのヴァンスカさんの演奏でシベリウスの番号付きの交響曲を全部聴けたのは幸せ者以外の何者でもありませんね。この思いは一生消えないでしょう。

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