答えられた質問   

ives: unanswered question
bernstein: the age of anxiety, symphony no. 2
shostakovich: symphony no. 5
nicolas hodges (pf), marin alsop / lpo @royal festival hall


今シーズンのサウスバンク・センターでは、マリン・オルソップさんがプロジェクト監督になってバーンスタイン・プロジェクトというのをやっています。音楽会は8回。バーンスタインの音楽ばかりが演奏されるというわけではなく、バーンスタインに縁のある音楽、例えばベートーヴェンやモーツァルト、コープランドなんかの作品も採り上げられています。もう何回かの音楽会は終わっているのですが、わたしが聴くのは今日が初めて。オルソップさんの指揮でバーンスタインの「不安の時代」とショスタコーヴィチの交響曲第5番が演奏されます。会場に着くと、ホールの入り口の外にたくさんの譜面台が。あれ?舞台裏での演奏がある曲あったっけ?と訝しがりながらプログラムを見ると、始まりはアイヴスの「答えのない質問」。おおお、なんという粋なプログラムなんでしょう。「答えのない質問」といったら、バーンスタインの有名な著書のタイトルですから。そして今日の音楽会のテーマはそのひとつの答え。だと思いました。

「答えのない質問」は舞台に4本のフルート、舞台袖にトランペットのソロ、会場の外に弦楽合奏の配置です。トランペットの孤独な質問に誰も答えない音楽。わたしたちは実際多くの答えられない質問を抱えています。幸せってなに?どうして生きているのだろう?わたしは誰? 音楽が胸に突き刺さってくるようです。今まで何回かこの曲は聴きましたが、こんなにストレートな感情になったのは初めて。いったいわたしに何があったんでしょう。

そして答えのない質問は不安の時代に引き継がれます。答えが見つけられないことによる不安。まさにわたしたちの時代。この音楽を生で聴くのは初めて。でもとっても大好きな曲なんです。バーンスタインはこの曲や交響曲第1番「エレミア」、チチェスター詩篇、ピアノのための作品がほんとに大好きで、学生時代よく聴いていました。なので、今日の音楽会とっても楽しみにしていたのです。クラリネットの独白のような孤独な対話から始まって、ああこれだ〜って長年会ってない旧友に会う感じ。この曲、聴くの10数年ぶりだものね。そしてピアノが静かに入ってくるともうダメ。心はとろとろ。ニコラス・ホジェスさんのピアノも心憎いばかりにステキな音色。バーンスタインのピアノってほんと大好きなんです。彼のピアノ独奏曲全集っていうCDを持っていて、ひとつひとつは短いスケッチのような音楽なんですけど、交響曲で使われるメロディが出てきたり、彼の音楽のとろけるような倦怠感がもうたまらないんです。そして同じことは「不安の時代」にも言えるの。多分わたしはバーンスタインの持ってる和声や音の配列の感覚に共振しちゃうんでしょう。ツボにはまっちゃうというか。だから不安の時代というより心溶かされる幸せな、でも、消えていく刹那。ノスタルジー。オルソップさんの演奏はCDで聴いてたバーンスタインの自作自演とは違うけれども、とてもステキな音楽。バーンスタインの音楽っていいんだわ。

そして答えはなんとタコ。これがもうどんな答えになるのかドキドキわくわく。だってタコですよ。しかも交響曲第5番。もちろんバーンスタインも得意としていた曲。そしてこの曲の答えが一筋縄でいかないことはタコ・ファンには周知の事実。勝利の音楽に見えて実は’証言’以降は’強制された勝利’だとか、’証言’が当てにならないことが分かると、勝利への皮肉とか様々な解釈が可能。タコの音楽自身が謎めいてる。音楽はこんなにも明快なのに。それを最後に持ってくるなんてオルソップさん、なかなかやるぅ。そして彼女はどんな答えを出したんでしょう。
それは純粋に音楽の力。音楽の裏に意味ありげに張り付いているまことしやかな不純物を取り除いて、作曲者が書いた楽譜の音だけを使って純粋に音楽を創った演奏。タコが汎用した引用や象徴は意味ありげに見えて実は作曲者のいたずらかも知れない、本当はなにも背景を持っていない音なのかも知れない、なんてことだって誰が否定できましょう。ちゃんと重厚なのに、明るい音色で深刻になりすぎない音楽。こんなに開放的でなんだかタコらしくないなんて最初思ったけど、音楽の力はそんな思いを軽く超えていたのね。わたしたちはついつい頭で考えた意味づけをしちゃうけど、それは間違いかも知れないって気をつけていなければ。もちろんそれを正しく音楽にすることもできるんですけど。第2楽章のスケルツォの中間がかわいくて良かったな〜。ヴァイオリンのソロ、今日もゲスト・リーダーのナタリア・ロメイコさんが弾いたんですけど、こんなにかわいく弾けるのかって。皮肉のないタコ、これもとってもいいですよん。
最終楽章なんかは、びっくりのゆっくりテンポで始まったんですけど、だからといって暗くなく、むしろ爽やか、そしていつテンポを上げるかなって思ってもなかなか焦らして速くならない、気がつかないように少しずつあげて中間部は普通のテンポで。最後もゆっくりから始まって、トランペットとトロンボーンにテーマが回帰するところからテンポアップ。爽やかに希望に満ちて華々しく音楽は終わったのでした。カルメンとか、大太鼓とかDSCHとか、あっこれはこの曲には出てこないか、そんなこと考えないですっきりできた異色のタコでした。未来に希望がある、というのは力ずくでも信じるに足る、というか信じなければいけないのです!

ちょっとだけ、追記。
演奏はとっても良かったのですが、オルソップさんの要求(かなり細かくテンポを変えていました)にオーケストラがついて行ってないところがときどき聴かれました。もしかして、オルソップさんをなめて見てるのかな、なんて頭によぎりました。でもお客さんの反応は素直にオルソップさんの音楽に暖かいものでした。とっても好意的に受け取られていたと思うし、わたしもとっても良かったと思いました。
それでふと思い出したのが、オルソップさんがボルティモア・シンフォニーの主席指揮者に内定したとき、オーケストラから反発があって、「我々はこの決定を認めていない」という異例の声明が出されたことです。USのメジャー・オーケストラの中で初めての女性主席指揮者であったことが原因かも知れません。ニューヨーク・フィルとかを振っていた経験はあるけど、まだそんなに名の知れた指揮者ではない、ということだったのかも知れません。でも、その後は上手くいってるみたいで、彼女の契約は2015年まで延ばすという発表が最近あったとのことです。オルソップさんの活躍を心から望むものです。

今日のリーダーはナタリア・ロメイコさん。後ろのヴァイオリンの人、ムーティさん似
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オルソップさんのファッション・ポイントは袖口の赤
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by zerbinetta | 2010-04-21 09:44 | ロンドン・フィルハーモニック | Comments(0)

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