生まれては消える刹那な旋律   

charlotte bray: beyond a fallen tree
mozart: piano concerto no. 21, k467
suk: symphony no. 2 asrael
pierre-laurent aimard (pf), daniel harding / lso @barbican hall


今日はとおってもすいてました。いつもの3階席は閉めるということなので、2階の一番良い席に換えてくれました(もちろんただです)。こういうこと年に何回かあるんですよ。今日はモーツァルトの協奏曲が入ってるとは言え、メインはスークのアスラエル交響曲。あまりにマイナーなのでお客さんの入りも悪いんですね。ハーディングさんとロンドン・シンフォニーという組み合わせなのにもったいないというか、ロンドンっ子には珍しくもないか。
始まりは、なんと!わたしより一回りも年下の20代のロンドン在住の作曲家、シャルロッテ・ブレイさんの「倒木の向こうへ」という曲。とってもきれいなステキな曲でした。最近流行の大衆に媚びるような分かりやすい音楽ではなくて、オーケストラの楽器には普通に音を出させているのでものすごく前衛という訳でもなく、上手い具合にバランスの取れた音楽。とても力のある作曲家だと思います。実際、いろいろ委嘱されていて、来シーズンはヴァイオリン協奏曲が初演されるみたいです。聴きにいけるかな。ちょっと残念だったのは、今日のお客さんが現代曲慣れしていなくて淡泊だったこと。メシアンのときのお客さんだったらもっとたくさん拍手したんだろうけど、カーテンコールはなしでした。ってか微妙なところで、ハーディングさんがステージに出てこようかなってしたときにちょうど拍手が鳴りやんでしまったのね。舞台の袖で出てこようとしたハーディングさんがくるっときびすを返して引き返したのを目撃。

まだ少女のあどけなさが残るようなブレイさん
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今日の音楽会で一番印象的だったのがこのモーツァルトだったんです。ピアノは現代物を弾かせたら右に出るものはいないっていうのが大袈裟じゃない、ピエール=ロラン・エマールさん。ロンドンで聴くのは2度目、っていうか前回は酔っぱらって熟睡してて、エマールさんが出てきたのも覚えてないのでした。あはは。エマールさんと言ったら、暗譜で弾いたトゥランガリーラが一番印象に残ってるんだけど、古典も弾くのね。前にベートーヴェンのソナタを弾いたのを聴いたことがあります。モーツァルトだってメシアンが最大級の讃辞を贈っていた作曲家だものね。弟子(?)のエマールさんが弾くのも不思議ではない。で、そのモーツァルトがほんとに凄かったんです。
まずオーケストラ。この始まりを聴くとなぜかいつもドン・ジョバンニを思い出してしまうんですけど、第1楽章はオペラ・チックですよね。ハーディングさんとロンドン・シンフォニーは柔らかな音色でとってもステキに音楽を始めました。エマールさんのピアノも柔らかくて丸くてあたたか。で、こんなにも不思議な音楽かってびっくりしちゃった。だって、次から次へと新しい旋律が出てきたり突然短調になったりして、幻想曲風に形式感が崩れてるんですもの。というような演奏だったんです。いつも新鮮に新しい発想のメロディがわき出てくるようなそんな演奏。過去の日記を紐解いてみたら、エマールさんが弾くベートーヴェンのソナタを「一つ一つの音が今初めて生み出されたように弾かれて」って評してる。ベートーヴェンの音楽だったので「そのために全体から演繹される構成感が弱かったように思った」なんて書いてるんだけど(2001年12月)、モーツァルトはこのやり方がとても生きていて、どこに行く付くか分からない不思議な楽しい彷徨いのときが過ごせました。ひとつひとつの旋律がとってもステキなのであっちに行ってもこちらに来てもやっぱりステキなんですね。
圧巻は第2楽章でした。ゆっくり目のテンポで柔らかなオーケストラ。それでは一歩間違えるとムード音楽になってしまう(実際にムード音楽に編曲されてますよね)甘美な旋律が、とっても控え目に過度なニュアンスを差し挟まないように自制されていて、静かに静かにときを歩んでいきます。このうちに引き込まれるような表現がとってもステキで、耳をそばだてて聴いてしまう、静寂で哲学的って表現したくなるような音楽。こんなモーツァルトを弾けるエマールさんもハーディングさんもただ者ではない。ハーディングさんとはときどき波長が合わなかったりしてたけれども、こんな音楽を聴いてしまうとやっぱり彼は凄いんだなぁと素直に感心してしまいます。ハーディングさんの振る古典もっと聴きたいです。

にこやかハーディングさんとエマールさん
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最後はアスラエル交響曲。前にユロフスキさんとロンドン・フィルで聴いてステキな音楽だったので今日のチケット取ったんだった。でも、この曲とっても重くて長いんです。聴き通すにはかなり精神力が必要。ほとんど悲しみのため息で構成されてる音楽ですし。実は最近とっても忙しくて、気持ちが不安定になってたりして、夜上手く寝られなかったりしてるので、最後まで聴くのはしんどかった。。。最後の最後に祈りというか慰めがあるんですけど。ハーディングさんとロンドン・シンフォニーの演奏は、外面的な効果を切り捨てて、深い悲しみを音楽にした、地味だけれども真摯な演奏でした。わたしがもうちょっと元気だったら、もっとちゃんと聴けたのに。
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by zerbinetta | 2010-05-23 08:57 | ロンドン交響楽団 | Comments(0)

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