点描しすぎ   

webern/bach: fugue in sex voices
lachenmann: double (grido II)
brahms: piano concerto no. 1
maurizio pollini (pf), peter eötvös / lso @barbican hall


最近、ポリーニさんは歳をとって指が回らなくなったとか、昔の輝きはもはやないなんて悪評ばかり聞くので、じゃなかった、聞くけど、信じられないので聴きに行ってきました。わたしが聴いたポリーニさんで印象に残っているのは10年くらい前、カーネギー・ホールで聴いたシュトゥックハウゼンのピアノ曲X。隣のおばあさんとふたりで超興奮して手をたたき合った。今日のブラームスの協奏曲もテロのあった直後のニューヨークでアバドさんとベルリン・フィルの伴奏で特別な演奏を聴いてる。あれから10年近く。ポリーニさんは言われるように歳をとってしまわれたのでしょうか。

音楽会は、バッハの6声のリチェルカーレのウェーベルン版。バッハの主題、というかフリードリヒ大王の主題は半音階的で現代的(主題の中に12音のうち11音が含まれています)。これを元にバッハが6声のフーガを作曲したのをウェーベルンが点描のオーケストレイションを施したもの。ひとつのメロディをいろんな楽器に分けて演奏する音色によるセリエ。トータル・セリエズムの走りのひとつ。暗闇の中から仄かに音楽が聞こえてくる感じが大好きです。面白かったのはオーケストラの配置。一番前に半円状に一列、木管楽器と金管楽器が並んで、その後ろに同心半円を描くように弦楽器が、第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリンと並びます。後ろの正面にはコントラバス。左手にハープ右手にティンパニです。リーダー(コンサート・マスター)はずいぶん遠くです。今日の指揮者のエトヴェシュさん。わたしにとっては指揮者というより作曲家として名前を知ってる方(でも、1曲も聴いたことがないと思う)。わたしは餅は餅屋な人なので、兼業指揮者と聞くだけでモチヴェイションが下がるんだけど、これ偏見ですよね。今をときめくバレンボイムさんもエッシェンバッハさんも元はピアニストだし、ブーレーズさんや、シュトラウスは作曲家。マーラーはどちらかというと当時は指揮者でしたが。なので、エトヴェシュさんが凄い指揮者でもちっとも不思議じゃないんだけど、そうはいっても気持ち的には大丈夫かなぁ的。でも残念ながら今回はそれが当たっちゃった。エトヴェシュさんは、音色のパレットで点描的に描かれたこの曲を微に入り細を穿ち点描的に演奏したんです。そうしたら、遠くから見ればちゃんと風景に見える点描画なのに、遠くに行ってもいつまでたっても点々。そんな音楽になってしまいました。音楽がバラバラで点々。もっとしっかりした主題の骨組みのある音楽なのに、残念。もしかして、たまたまこの音楽がそう書かれているからっても思ったんだけど、同様な感じはブラームスでもしてしまいました。唯一良いなと思ったのは、新リーダーに加わったシモヴィックさんのソロがこの曲にふさわしいステキな音色だったこと。ロンドンでの活躍を期待します。

でも、ヘルムート・ラッヘンマンさんのダブルという曲は良い演奏だったと思います。ラッヘンマンさんを聴くのが今日が初めてのわたしが言うのもなんですが。弦楽器だけのオーケストラは、またも同心半円。そして指揮者からかなり離れて半円を作ってました。左から第1ヴァイオリン、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、チェロ、第3ヴァイオリン、後ろにコントラバスです。音楽が鳴り始めて正直わたしは戸惑いました。なに?何を聴けばいいの? 音楽? 現代音楽に聴き慣れていないわけではないと思うんですが、音楽なの? どうしましょう、って感じでした。音楽は、あとで調べてみて分かったんですが、たくさんの特殊奏法が使われていて、楽器の音色ではない雑音のような音が混じります(とは言え、昔に比べて使い方が控え目になってるそうですが)。そらからどこから聞こえてくるのか、テープに録音された音が同時に奏されます。もちろんメロディもないし、リズムっぽい刻みもなし。そんな音楽(?)です。なので、どういう風に聴いていいのか戸惑ってしまったんです。でも、しばらく聴いてるうちにこれって、って思い当たったものがあったのです。秋の夜の縁側で聞く風の音、虫の音。もしくは、露天風呂でぼんやりと聞こえる木々のさわさわする音。そんな風に感じるととたんに世界が開けてきて、心地良くなってきたんです。多分、作曲家の意図は全然違うところにあると思うんですけど。でもわたしにとっては自然音。人工的なところがちっともなくて、自然に聞こえる音だけしか聞こえない。そんな音楽でした。多分もっと聞き込んでいけばもっといろんなことが見えてくる、聞こえてくるんでしょう。ラッヘンマンさんの最も有名な曲、オペラ、マッチ売りの少女もぜひ観てみたくなりました。これ、日本で上演されているのですね。ロンドンでもやらないかなぁ。ちなみにラッヘンマンさんはポリーニさんとお友達。この曲もポリーニさんに贈呈されていたのでした。意外なところでポリーニさん繋がり。ラッヘンマンさんも会場にみえてました。多くの人はポリーニさん目当てだと思うので、聴き慣れない音楽を聴かされてどう感じたのか分からないけど、結構あたたかい拍手でした。

最後はお目当てのブラームスの協奏曲第1番。この曲って次から次へと新しい主題が出てきて面白いですよね。しかも交響曲としての構想もあったとかでオーケストラも強力。それに対抗してピアノもトリルを多用して音量を稼いでます。腕つりそう。オーケストラは弦楽器の和音の音程の取り方がとってもステキで、やっぱり上手いなぁって思いました。ただ、上にも書いたけど、エトヴェシュさんのフレーズの区切り方が苦手で、音楽がとぎれとぎれになりがちなのがわたし的には残念でした。ポリーニさんのピアノは、へろへろなのかと思ったらちっともそんなことはなくて、相変わらずの鋼の音色。和音がじゃーんと重く響くところはやっぱりステキ。ピアノは素人なのでよく分からないのですが、指がちょっと回らないかな?と思ったところはほとんどなくて(とは言っても昔のCDみたく完璧感はないのだけど)、ただ、煌めきのようなものは薄れていて、歳をとったんだなぁやっぱり(言葉を換えれば円熟と言うことなのか?)。でもかえって渋めのブラームスには合っていたのかも。白眉は第2楽章のお終いの方の短いカデンツァ。ポリーニさんも興に乗っていたみたいで唸りながら弾いていたけど、ここの表現の深さ、美しさはやっぱりポリーニさん。ここだけ聴いても来て良かったと思いました。最後は、盛大な拍手。カーテンコールも多めで、会場にはやっぱりポリーニさん目当てが多いのか絶大な支持を集めていました。わたしもやっぱり、ポリーニさん好きです。そういえば前にサインしてもらったことあったっけ。
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by zerbinetta | 2010-06-20 07:39 | ロンドン交響楽団 | Comments(6)

Commented by Miklos at 2010-06-25 07:54 x
ラッヘンマンの曲について、「秋の夜の縁側で聞く風の音、虫の音」というその上手い描写に、いつもながら感服しました。コマの下の弦やコマそのものをこすったりの特殊奏法オンパレードに、楽器を大事にする奏者は絶対いやだったろうなと想像します。

エトヴェシュさんの指揮は、いつもの調子かと思います。前に「春の祭典」を聴いたときも思ったのですが、一瞬一瞬の細部を「ほれ、どうだ」と際立たせて見せるタイプなんですね。本番の指揮の姿だけ見てると特に仕事をしてないように見えるんですが、相当綿密なリハをやってるんでしょう。
Commented by zerbinetta at 2010-06-26 20:13
エトヴェシュさんの演奏は本当に細部にこだわって点描的に仕上げていく感じですね。でも、音楽の大きな流れが背後に追いやられたようで、ちょっと残念でした。得意の現代物で聴いてみたいです。

ラッヘンマンさんの曲は面白く聴けました。というかぼんやりと耳を澄ましていた感じです。Miklosさんは、現代曲もお好きなんですか。
Commented by Miklos at 2010-06-27 07:33 x
現代曲は、打楽器がドカドカ大活躍するものに限り、好きです。(笑
部活でパーカッションやってましたもので。

ブログで時折かいま見られる打楽器への強いこだわりから、つるびねったさんには「同族の匂い」を感じたのですが、いかがでしょうか?
Commented by zerbinetta at 2010-06-27 20:23
打楽器どかどか系ですか。いろんな打楽器がステージに賑やかに乗っかってると楽しそうですものね。打楽器を実際に演奏されていたなんてうらやましいです。わたしはトライアングルですら上手くできなさそう。リズム感全然ないです。
打楽器への愛着は、ずうっと聴いてきたナショナル・シンフォニーの打楽器が上手だったのでそのせいじゃないかしら。打楽器が楔のようにオーケストラをきりりと締める演奏が大好きです。
ロンドンではフィルハーモニアのティンパニのスミスさんが好きです。
Commented by Miklos at 2010-06-28 09:03 x
フォルハーモニア管のティンパニ首席奏者は、私も10年前くらいに初めて生で聴いた時から、これはただ者ではないと注目していました。音の深さがものすごく独特なんですよ。

・チューニングが完璧に凄いのか?→そんなことはない、よく聴くと太鼓自体の残響は少ない(→皮のテンションは均一とは言えない)
・奏法が完璧なのか?→とてもスマートには見えない、ストロークの返しは左右に揺れてどたどたしている
・楽器が格段にいいのか?→詳細はわからないが、他のフィルハーモニアの奏者も聴いているので、楽器のせいではないだろう

ということで、その「いい味」の秘密が、よくわからないんです。
Commented by zerbinetta at 2010-06-29 05:17
Miklosさんもスミスさん、注目していましたか。あのティンパニは一度聴いたら耳から離れませんよね。ああいう音を出せる奏者ってなかなかいないような気がします。
わたしには技術的なことは分からないけど、音が深くてどろんどろん響いたり、的確に音楽にアクセントを与えていますよね。

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