夏の音楽   

mahler: symphony no.3
karen cargill (ms),
edinburgh festival chorus, royal scottish national orchestra junior chorus,
donald runnicles / bbc scottish so @royal albert hall


またまたプロムに行ってきました。夏なのでマーラーの交響曲第3番でも聴いておこうかなって思って。だってこの曲ってまさに夏って感じでしょ。夏風に吹かれて草原で聴くのがふさわしい感じ。そういえば中学生の頃、ラジカセを持ち出して外でこの曲を聴いたのを思いだしてしまった。何か恥ずかしい思い出。音楽会のシーズンは秋から春だけれども、クラシックの音楽ってなぜか夏を感じる曲が多い気がする。わたしにとって冬を感じさせる音楽を書いた作曲家って、すぐに思い浮かぶのはチャイコフスキーとショスタコーヴィチくらい。シベリウスもプロコフィエフもわたしには夏なんですね。実は今日の音楽会はなんとなくチケットを取ってみたので、指揮者は確かランニクルスさんだっていうのは覚えていたけど、オーケストラがどこの団体なのかしらなくって家に帰ってからプログラムで確認して分かったくらい。ほとんど期待してなかったんです。まあでも、生で聴ければいいかって感じ。

最初のホルンは、まさにそんなわたしの思ってたまま。なんだか元気が良すぎたというかマーチっぽすぎたというか、わたしの好みはふくよかに全体(ホール)を包むような音なんだけど、先頭に立って走り出しちゃった感じで、わたしも慌ててついていった感じ。でも、やっぱり生で聴くのは良くって、大きな大太鼓のピアニッシモの轟きは、これは絶対、オーディオでは無理って思いました。この大太鼓が今日は大活躍。大音量で叩きまくるというわけではないんだけど、ピアニッシモでもずっしり響く音は、特に第1楽章の嶮しく聳える峰の見上げる重たい行進曲にぴったり。
そんな感じで生の音楽はいいなと思いつつも、期待もなしにぼんやりと聴いていたんだけど、音楽が進むにつれてあれ?どうしてだろう?って音楽がわたしとシンクロナイズしていくのを感じる。この曲の第1楽章って長くって、さすがのマーラーも上手くまとめ切れてないなっていうか退屈な感じを感じちゃったりしたこともあったんだけど(前に聴いたマゼールさんとニューヨーク・フィルの演奏はまさにそんな感じだったのです)、今日はだんだん音楽にのめり込むようになって。このオーケストラ、あとで見たらBBCスコティッシュ・オーケストラだったんだけれども、決してものすごく上手というわけではないのだけど、とっても丁寧に演奏しているのが手に取るように分かるの。指揮者のドナルド・ランニクルスさん(左手に指揮棒!)はオーケストラを縛り上げずに信頼してまかせている感じ。細かい指示もあまりなくて、でも、オーケストラとはものすごくしっかり意思疎通が取れていて求める音楽の方向が一致しているのが素人のわたしにもよく分かる。きちんとした練習をしてきている。これだけステキなマーラーの音楽を創りあげるランニクルスさん、ただ者ではない。
第1楽章が終わってソリストが入ってきて(合唱は最初からステージに出てました)、第2楽章が始まってまずびっくり。オーボエのなんとチャーミングな鄙びた音。こんな素朴なオーボエの音聴くのなんて久しぶりなんだろう。最近のオーケストラの音ってスマートでつるつるした感じが多いから、こういう素朴な音に新鮮味を感じるの。オーケストラ全体の音色はどちらかというと線の細い、風通しのいい透明な感じなんだけど、スコットランドの風景と関係あるのかな。北欧系に似た響きだけど、そこまで冷たくないのね。このオーケストラ、ヴァイオリンは対抗配置だったけど、第2ヴァイオリンのトップの人がオーケストラを統率してる感じでした。リーダー(コンサートマスター)が現在空席で、今日もゲスト・リーダーが招かれていたんだけどそのせいもあるのかしら。いやでも、普通はないよね。これはちょっと面白かったな。
第3楽章が始まる前に、トランペットの人が舞台から退出したりして(舞台裏でポストホルンを吹くためです)、忙しい。第3楽章も表現はわりと控え目。聴き映えのする派手さのある表現とは一線を画して、丁寧に丁寧に音楽を作っていく。それがとおっても温もりがあっていい感じなんです。星付きのレストランの驚くべくような味じゃないけれども、街のお総菜屋さんのひとつひとつ丁寧に作られたお総菜のようなご飯に合うおかずの味。そんな丈の音楽。マーラーのこの音楽が一時、マーラー自身が、野の花々がわたしに語ること、森の動物たちがわたしに語ること、夜がわたしに語ること、等、「語ること」と表題を付けていたのを思い出させてくれる。自然や天使の語りは決して大きな声でなされるものではない。静かに耳を澄ませて聴くものだってね。
メゾ・ソプラノを歌ったのは、スコットランド出身の若いカレン・カーギルさん。輪郭がはっきりした凛とした響きのステキな声です。同じくスコットランド出身の指揮者、ランニクルスさんとスコットランドのオーケストラの音色とぴったり。透明な空気に満たされた夏の夜の歌。
続けて演奏された第5楽章は最初、児童合唱団は座ったまま鐘を鳴らし始めたけど、これは良かった。静かに終わる前の楽章に続いてがさっと立って歌い始めたら目が覚めちゃうものね。ここは座ったまま歌い始めた方が自然。音楽が鳴りだしてから合唱団は立ったけど、目の前で人が立ちあがったのはちょっとびっくり。女性合唱団の後ろっ側に座っていたのです。でも、ビーンバーンくらいはわたしも歌えるかなぁって一緒に歌いたい誘惑。
最後の第6楽章は大好きな大好きな音楽。涙なしには聴けません。ランニクルスさんとオーケストラの丁寧な音楽作りは予想通り、ここで頂点を迎えたと思います。ひとつひとつのフレージングの丁寧なこと。アクセントを付けた音符とレガートの見事な対比、チェロにメロディが移ったときの心にしみいるような歌い方、どこをとってもステキ。音楽が進んで行くにつれ、このまま終わって欲しくない、時間よ止まれって叫びたくなりそうな幸せな時間。トランペットとトロンボーンの静かなコラール(ベルに布を当てて消音していました)から大きなクレッシェンドを経て最後の長い音が鳴り終わるまでの至福の時間。この楽章ではランニクルスさんはきちんと棒を振ってオーケストラをしっかりドライヴ。プログラムのインタヴューで答えていた、この曲の技術的な難しさをマラソンに例えていたとおり、最後にオーケストラをドライヴする見事なペース配分。泣きました。って第1楽章から涙出てたけど。自分の書いた文章を読み返してみると、何回も丁寧なって言葉で形容しているけれども、本当に本当に心に残る演奏でした。

ランニクルスさんとカーギルさん 向こう側の人がオーケストラを仕切っていた第2ヴァイオリンの人
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大きな大太鼓 隣に座った人も凄いって言ってました
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by zerbinetta | 2010-08-04 08:01 | イギリスのオーケストラ | Comments(2)

Commented by かんとく at 2010-08-06 13:37 x
こんにちは。私は一番上の左方だったので、舞台は右半分がやっと見える程度でした。BACKの席の方が舞台が見れて楽しそうですね。音楽は良かったなあ~
Commented by zerbinetta at 2010-08-07 04:41
上の方はどうでした。どんなふうに音が響くんだろう。舞台の後ろの席はオーケストラと一緒に演奏している気持ちになるので好きですが、バランスが悪いときがありますよ。特に歌ものは。でもほんとに感動的な演奏でしたね。

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