音楽会始まりました   

zemlinsky: six maeterlinck songs
mahler: symphony no. 3
petra lang (ms), london philharmonic choir, trinity boy choir,
vladimir jurowsky / lpo @royal festival hall


いよいよ2010/11年の音楽会シーズン始まりです。マーラーの記念年だけど、なにげに2010年はショパンやシューマン、バーバーやペルコレージの記念年でもあります。来年はリスト。で、人気者、マーラーの記念年は、ユロフスキさんとロンドン・フィルによるマーラーの交響曲第3番を含む音楽会で幕を開けました。そういえばユロフスキさん、去年は復活で幕を開けたんだっけ。
うきうきしすぎて、仕事をうっちゃっててきぱきと早めに切り上げて、早めにサウスバンク・センターに行きました。いつもの遅刻ぎりぎりとは大違い。それにしても日が短くなりました。この間までは音楽会が終わってもまだ明るかったのに今日は音楽会が始まる前にもう夕暮れが迫ってます。でも、ロンドンはここ数日、季節外れのぽかぽか陽気(といっても20度を少し超えるくらいですが)。夏に映えるこの音楽を聴くのにぴったりではないですか。

音楽会は、なんと、マーラーの交響曲第3番(長い!)に加えてもう1曲あります。ツェムリンスキーの6つのメーテルリンク・ソング。ツェムリンスキー好きと言ってるのに初めて聴く曲です。どんな感じでしょう? ちょうど百年前、マーラーが亡くなる前年に書かれたものです。マーラーの妻、アルマの作曲の先生でもあったマーラーより10歳ほど年下のツェムリンスキーの音楽はやはりマーラーよりだいぶ先を行ってる感じ。雰囲気は彼の直接の弟子のシェーンベルクやこの歌曲を絶賛したウェーベルンではなくベルクの音楽に似ています。確かにところどころとってもステキに書かれてると思うんだけど、後年の抒情交響曲のようなとろけるような音楽はまだなくて、ややかさかさした感じ。でも、30歳にならない音楽家の作品としてはとっても素晴らしいと思うんですよね。わたしがアルマだったら、マーラーよりもツェムリンスキーと恋仲になったかも。新しもの好きだし。まぁ、ツェムリンスキーは醜男だったとかなんとかむにゃむにゃ。
久しぶりのユロフスキさんは、指揮台に立つと、オーケストラの人をひとりずつ見回すいつもの儀式を執り行ってから音楽を始めます。わたし、ユロフスキさんの音楽ってなんというか直線的というか、さばさばした感じというか、乾いてるというか、アグレッシヴというか、古楽器系の演奏を現代楽器にもってきた感じ(もちろん奏法とかは全然違いますけど)。もともと、ツェムリンスキーのこの歌曲があまり柔らかく書かれていないのもあるのかもしれないけど、もう少し柔らかみがあってもいいかなって感じました。ペトラ・ラングさんの歌はとっても良かったです。このプログラムは、ラングさんがマーラーの交響曲のちょい役だけじゃもったいないから加えたものかもしれませんね。音楽会的にはマーラーだけでも十分すぎるほどなので。

休憩の後のそのマーラー、期待が高まります。去年のオープニングの復活もホントに良かったし、ユロフスキさんがマーラーの交響曲は毎年ひとつずつレパートリーにしていくとおっしゃった姿勢もステキだし(今年は、このあと第4番も採り上げられるのですが)、好感度高いのです。大きなオーケストラ。ホルンが9人ずらりと横に並ぶと壮観ですね。ユロフスキさんがすたたたたとステージに上がって、指揮台にあがるなり、音楽が始まりました。9本のホルンの音がホールに充満します。きびきびとした速めのテンポ。第1楽章は、そのテンポを基調にユロフスキさんがやりたいことを確実に音にしていきます。かなりアグレッシヴに音楽を作ってる感じ。もちろん、楽譜に書いていることから逸脱してるわけではないけれども、全てを隙なくコントロールしているので圧倒的な印象が残ります。それにしても、マーラーって観ていて面白い。聞こえないくらいの大きさで叩いてる大太鼓や、シンバル3台の同時打ち、2対のティンパニでで同じ音を叩くシンクロナイズした2人のティンパニ奏者の動き、これ見よがしにベルアップする木管楽器、4人のフルート奏者が全員ピッコロを吹きまくったり、いろんなミュートを差し替える金管楽器、弦楽器の分奏。そして指揮者のユロフスキさん。もろ、気合い入りまくりなのが観て分かります(聴いても分かるけど)。そしてユロフスキさんは、マーラーが書いたはちゃめちゃな音楽を、さらにはちゃめちゃに演ってエクサイティングに聴かせます。マーラーが音楽にした自然って、もっとどっしりと座っていて、切り立っていてもむしろ静的なような気もするし、そういう大人な演奏も多いのだけど、もしかしてマーラーがこの曲を書き上げたのと同じくらいの年齢のユロフスキさんが聴かせる音楽のように、やんちゃでアグレッシヴな音楽なのかもしれません。自然をそのまま音にするのではなく、音で自然を創りあげていく主客の逆転。ただ、ちょっと残念だったのは、煽られて奔放に鳴らすオーケストラに、それでもひとつの大きな音楽の枠に収める力はまだなかったこと。超上手なオーケストラは各自がはちゃめちゃな音楽を鳴らしても、自然にひとつの音楽になって聞こえると思うんですね。ロンドン・フィルにはそこまでの力はまだないので音楽が荒れてばらける寸前の危うさがあったように思えます。マーラーの音楽はいろんな音が勝手に同時になるように書かれてもいるのでそれはそれで面白いんですけど。そう、ほんと面白かった。巨大な(ホントにそう思った)第1楽章を聴き終えたときは、ぐっと疲れた感じ。まわりからもなんて凄いものを聴いたんでしょうみたいな、ポジティブな苦笑やらため息みたいなものが聞こえました。お客さんみんな同じこと思ってる。

第1楽章が終わってユロフスキさんは指揮台を降りて椅子に座って休憩。その間に合唱と独唱がステージの上の合唱席(わたしがよく座ってる席)に登場です。確かマーラーは手紙に第1楽章と第2楽章の間は10分くらいの休憩を入れることと書いてるので(楽譜には書いてないと思うけど)、これはなかなか自然。第一あんな第1楽章を聴かされて、すぐあのチャーミングなメニュエットが始まったらちょっとやだもん。
第2楽章からは、第1楽章のようにはちゃめちゃに盛り上がることはないので、普通に落ち着いた調子で音楽が進んでいきます。でもやっぱり、ユロフスキさんはしっかり音をコントロールして、一瞬たりとも気を抜かないし曖昧さはないのだけど。ただ音楽がわりと淡々と進むので、何か心に残る引っかかりというか、深みみたいものが足りないような気がしました。今日のオーケストラはとっても贅沢で、ホルンにはプリンシパルとゲスト・プリンシパルがいたり、第1楽章のオフ・ステージの小太鼓はプログラムのメンバー表を見ると3人もいるし(確かに厚みのある音でびっくりしました)、第3楽章のポストホルンはトランペットの人が秘かにステージを降りて演奏するのではなく、そのためだけにトランペットの主席の人がステージの裏に控えてました。このポストホルンすごく上手かったです。ステージの裏で左右に場所を変えて吹いていたのも立体的でステキでした。第4楽章の酔歌は速めのテンポだったけど、ラングさんの歌が深くてとってもステキでした。ラングさんってマーラーをよく歌ってらっしゃるので、揺るぎのない貫禄さえ漂っているようでした。オーケストラもホルンのソロやオーボエのグリッサンドがチャルメラ風じゃなくってあんなに完璧に音をつなげてくるとはってびっくりしました。
実は第1楽章のお終いの頃から秘かに注目していたことがありました。それは、クラリネットの一番左端の人が、座ってるだけで、楽器を吹かないのです。第1楽章の終わりの盛り上がる部分でもじっとしたまま。出番の少ない特殊な楽器なのかしら(調の違う楽器とか)、なんて訝ってちらりちらりと観察してましたが、いよいよ出番が。第5楽章で数フレーズ吹いたんですね。結局吹いたのはそこだけで、あとはお休み。オーケストラの奏者がほぼ全員で盛り上がっていてもお休み。盛り上がるところは参加してもいいのになって思いました。プロの人は、出番が少ない方が、座ってるだけでもお給料は同じなのでお得だねって考えるのかしら。アマチュアだと出番が少ないと悲しくなっちゃうよね。

お終いの楽章は、音の上に虫がとまれるんじゃないかと思うほどゆっくり。30分近くかけて演奏してたんじゃないかしら。でもそれでいて粘着感も停滞感も全くなくてさらさら。澄んでいて透明な音。ただちょっと淡々としていて、感情的に盛り上がるものがあまり感じられませんでした。愛がわたしに語ること、だけど、無言で目を見つめ合う愛かしら。わたしとしてはゆっくりでもいいから、真ん中のクライマックスに向けて迸るような音の勢いが欲しかったです。最後のティンパニの歩みももうちょっと溜が欲しかった。でも、これだけ緊張感を持って、しかも音楽から耳を離させずに演奏できるのって凄いです。ホントにステキな音楽を聴いてるとき、時間よ止まれっていつも思うのですが、ほんとに時間が止まってしまったような、音楽の中に浸って固定されてしまったような、なんだか異空間に放り出されてしまったような、終わったときは放心状態。時計を見ると10時を回ってる。全体で100分を超える演奏。最後はスタンディング・オヴェイション。分かるよ分かる。拍手する気持ち。ものすごいものを聴いてたような気がした。かなり荒れたところもあった演奏だったので、家のソファで録音を聴くともしかするとちょっとって思う演奏かもしれないけど、あの空間にいたからこそ圧倒された、そんな演奏。音楽の深さではこの間聴いたランニクルスさんの演奏の方が上だったと思うけど、ライヴならではの面白さにおいては今日の方が圧倒的。マイクがたくさん立ってて録音されていたみたいなので、放送されるのでしょうか、CDになるのでしょうか、じっくりと聴いてみたいような、そのまま心の中にしまっておきたいような。

マーラーの音楽はこれからが対位法的に複雑になってきて音楽がばらばらになりやすくなってくると思います。ユロフスキさんの演奏はまだそこのところが危ういので今後どうなるのか気になるし、楽しみです。ひとつひとつマーラーの音楽の階段を上ることによって、彼の音楽的な地平が開けていけば嬉しいですし、十分な可能性と実力を持ってるユロフスキさんのことだからきっと大丈夫でしょう。ひとつの試金石になるのが今度の第4番だと思うけど、わたしこれ聴けないのよね〜〜。残ね〜ん。

スタンディング・オヴェイション、このときはまだぱらぱら。あとで全員
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by zerbinetta | 2010-09-22 07:52 | ロンドン・フィルハーモニック | Comments(2)

Commented by かんとく at 2010-09-26 08:45 x
つるびねったさん、こんばんは。すごい力作ですね。会場に居るような気になりました。メディアを観ていると、EveningStandardは5Star、Gurdianも4Starなのに、FTは2Starだったので面白いなあと思っていました。この違いこそ、その「生」の感じ方んだなあと妙に感心しておりました。ちなみに私は今夜、LSOのオープニングに行ってきました。
Commented by zerbinetta at 2010-09-26 19:35
おはようございます。
メディアの評が分かれるのもああそうだなぁ〜って納得できる感じもします。わたし自身の中でも賛否ありましたから。それにしても、FTの批評家さんはあの演奏が嫌いだったみたいですね。
他人の感じ方はどうあれ、わたしはとっても面白かった(あの演奏を一言で表すとこれしかない)し、興奮しました。

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