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見てはいけないものを見てしまった   

13.01.2011 @royal opera house

adam: giselle

marianela nuñez (giselle), rupert pennefather (albrecht),
gary avis (hilarion), helen crawford (myrtha), etc.
peter wright (production),
marius petipa (choreography),
koen kessels / orchestra of the roh


ほんとの音楽会日記、約1ヶ月のご無沙汰でした。お休み明け、2011年の始まりは(帰国が遅れてひとつ聴きそびれたのがあるのですが)、ロイヤル・バレエのジゼルです。ジゼルは前に観たことがあるのです。そのころのわたしは、初めてバレエを観るわけではないけれども、ジゼルのこと全く分かってなかったようで、今でも覚えている感想が、あれっ?主人公の人(ジゼル)、第1幕であっさり死んじゃったよ〜、なんて頓狂なものでした。今は少しずつバレエのことも分かるようになってきて、前に印象に残らなかったジゼルも今はもっと違った見方できるんじゃないかって思ったのです。多分、わたしも少しずつ成長してるから。そんなわけで、ジゼル観てきました。そして今は、バレエにはまって、いろんな人の踊りで観てみたいと思っているので、今日はそのひとつ目です。大好きなヌニェスさんで。ヌニェスさんはユフィ・チェさんと共にロイヤル・バレエで最初に「発見」したステキなバレリーナなんです(コジョカルさんを観たのはだいぶ後になってからです)。ヌニェスさんの踊りの良さは、切れの良さ。テクニックがあってきびきびと正確で速い。そして、それは今日最初に登場したときのステップから明らかでした。素人のわたしでも違いの分かる上手さ。足さばきの巧みさは鮮烈。
ヌニェスさんのもうひとつのステキは、踊りを踊るのがとっても楽しくて幸せそうに踊ること。彼女の踊りを観てると、本当に踊ることが好きなんだなぁってわたしまで幸せな気持ちにさせられる。それが、踊りの大好きなナイーヴな村娘の役にぴたり。狩りに来た侯爵一行の前で、踊りを披露するときも、わたしこんなふうに踊れるのよ、観て、すごいでしょって純に喜んでる感じが自然でストレートでかわいらしいの。天真爛漫な村娘。でも、これが両刃の剣。何でも楽しそうに踊っているように(見えちゃう)ので、もしかしたら悲劇は似合わないかもって心配なのでした。1幕の終わり、急転直下、身分を偽っていたアルブレヒトに裏切られ、気がふれて死んでしまう。そんな劇的なシーンをどう踊るか想像つかなかったんです。それが。。。衝撃でした。もう観てられないくらいに。心の中で何度もう止めてって叫んだことか。舞台の上でヌニェスさん、本当に気がふれてしまったのです。可憐な少女が。もし近くに狂女がいたら皆さんはどうされますか。知ってる人ならば手をさしのべると思うけど、知らない人なら、何もすることができずになんだかいたたまれない気持ちになって目をそらすのではないでしょうか。わたしもそんな心境になりつつ、見てはいけない舞台にずうっと見入ってしまったのです。そこで行われていることは本当のことではないと頭では分かっているのに、心に突き刺さる衝撃が大きすぎて、混乱してしまいました。そして、わたし、これをあと何回か見なければいけない、と思うと恐怖に似た苦しい気持ちがわたしを覆ったのです。幕が閉じて我に返ってもしばらく放心。やっと、落ち着いて。ヌニェスさん、すごすぎ。ここまで表現できるダンサーだったとは正直驚いたし、認識を改めました。
ただ、今日残念だったのは、体調がちょっと悪かったのです。実は昨日職場で倒れちゃって、わたし、体温の調節があまり上手じゃなくてときどき低体温なんですね。そんなことがあって、第2幕では、睡魔との闘いでした。ぼんやりした感想だと、ヌニェスさん、まだ少し重力を感じたので、ここで無重力の踊りができるようになったらもうほんとにすごいことになるって思いました。

対する、貴族のアルブレヒトを踊ったペンネファーザーさんは、もう少し力があるといいなって思いました。なんだかこう、流されやすいぼんぼんのような感じがして。うっすらとしていて、ジゼルのことが本当に好きなのか、遊びなら遊びで心を決めた遊んでいるのか、貴族の正体がばれて婚約者が出てきて手を取るところも、自分の意志でやっているのか、流れのままになんとなくやってるのか、こう心の強さが感じられなくて。そういう暖簾に腕押しというかのらりとしたところが、実はかえってわたしには不思議に話に合ったのです。あらすじを読んだ時点では、アルブレヒトは全く共感できるキャラクターではなかったんだけど、なんとなく憎めない感じがして(だってジゼルもナイーヴすぎるし)、いやなヤツ度が下がったのです。それは、ヒラリオンを踊ったギャリー・エイヴィスさんのとっても素晴らしい演技によるところも大きかったように思えます。アルブレヒトの恋敵、ジゼルに片思いする粗暴で直情的な村の青年ヒラリオン。出てきたとき、あっ嫌なヤツと、全く好感が持てずに、そのためにアルブレヒトの引き立て役になったのでした。女の子だったらアルブレヒトを選ぶよねって。でも、剣を持ち出してアルブレヒトの正体を暴いて、結果ジゼルにカタストロフィーを引き起こしてしまったときの、自分の過ちへの絶望感、ジゼルを思う気持ち、メイクを直してないのに、演じているエイヴィスさんの顔つきまで変わって、ヒラリオン、考えなしだけど、実はいいヤツじゃんって思ってしまいました。

他のダンサーたちもとってもステキでしたが、やっぱり注目してしまうのは、日本関係のダンサーたち。第1幕のパ・デュ・シスと第2幕ではモイナを踊ったユフィ・チェさんが、優雅で良かったです。去年なんとなく元気がないな壁に突き当たってるのかなって心配してたんだけど、ちょっと吹っ切れたっぽいところが感じられて嬉しい。今日の役が彼女のキャラクターに合ってたのもあるのかもしれないけど。もうひとり、パ・デュ・シスを踊った高田茜さんは、役不足気味で(そう思わせてしまうところがすごい)持ち味を生かし切れてるとは言えない感じがしてちょっともったいなかったですけど、経験を積んでもっと大きな役をもらえるようになって欲しいです。

そして音楽。今日は指揮者がよく見えるところに座ってたんだけど、コーエン・ケッセルスさんはバレエの伴奏の経験豊富って感じで、踊るように指揮していました。ダンサーがフィニッシュを決めるところではしゅっと息を吐きながら一緒にフィニッシュを決めて、ああこの人の音楽なら踊りやすいんだろうなって想像できました。それにしても、ヌニェスさんの凄まじさに圧倒されたジゼルでした。ふうう。こんなのしょっちゅう見たら身が持たないよ。

白いバレエ
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主役の人たち
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チェさんとマーフィー(sian murphy)さん
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ギャリー・エイヴィスさん
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ヌニェスさんとペンネファーザーさん
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by zerbinetta | 2011-01-13 23:56 | バレエ

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