胡蝶の夢   

21.02.2011 @barbican hall

stravinsky: apollon musagète
mahler: symphony no. 4

christine schäfer (sp)
simon rattle / berliner philharmoniker


今を去ること1年前、突然家に手紙がやってきたのね(予告をしてやってくる手紙もないけど)。来年のベルリン・フィルのロンドン公演のチケット売り出しますっての。ちょっと興奮したけど、ロンドンってチケット争奪戦がそれほど凄くなくて、今までわたしはのんびりチケットを買っていたから、慌てることないやって思っていたんだけど、試しにウェブ・サイトをのぞいてみてびっくり。うわわ、もうあんまりないっ。わたしお気に入りの安い席は壊滅。慌ててチケット取りましたよ。ベルリン・フィルの人気のもうひとつの理由は、指揮者。ラトルさんは地元が生んだスーパー・スターですものね。と言うわけで、昨日から4夜連続、ベルリン・フィルなんです。実はかなりしんどい。今日も仕事がぎりぎりでなんとか間に合った。正直前半は無理かなって諦めてたもん。

その前半はストラヴィンスキーのミューズを率いるアポロ。わたし聴いたことあると思っていたら、弦楽合奏だけでびっくり。初めて聴く曲でした。しかもわたしの予想では、12音系の音楽だと思っていたのに、新古典主義の時代の音楽でした(何と勘違いしてたんだろう?)。でも、プルチネッラと違って、バロックを採り入れると言うより、もっと歌謡的な旋律を使っていたと思います。どこかで聴いたことがあると思う旋律が出てきたんですが、どうしても思い出せな〜い。それにしてもベルリン・フィルの弦楽合奏って美しいですね。暖かみがあって、そして弱音がとってもきれい。音の取り方やニュアンスが、パート内だけじゃなくて、弦楽セクション全部でしっかり統一されていて、もう全員で同じ音楽を弾いてる。こう書くと、なんだ当たり前のことじゃないって思われそうですが、音の隅々まで、響きの先まで音楽が統一されてるのって、ものすごいことなんです。なんかとっても凄いものを聴いたと思いました。
この音楽ってバレエの音楽なんですね。優雅で美しい踊りが目に浮かぶようです。バレエも観てみたいなぁ。

後半はマーラーの交響曲第4番。重箱の隅をつつくようなんですが、わたしにとってこの曲のキモは、始まりのフルートと鈴のリズムの処理なんです。(一部の)マーラー・ファンにカルト的人気を誇るベンジャミン・ザンダーさんの解説CDで、口からつばを飛ばすような勢いで(彼の音楽会の前の解説って名物なんですよ)、フルートと鈴がインテンポで、クラリネットとヴァイオリンがリタルダンドをかけることによる時間の歪み効果を説明していました。で、わたしが実際時間の歪み効果を体験してびっくりしたのが、マゼールさんとニューヨーク・フィルの交響曲第3番。この曲も、冒頭のホルンが再現されるところの直前で、インテンポで刻まれる小太鼓のマーチとリタルダンドがかかるオーケストラの間で時間の歪みが出るのだけど、マゼールさんはさらに小太鼓を客席の後ろで叩かせることによって空間も歪めて見せたの。この効果が本当に凄くて印象に残ってるんです。で、始まりからわたしは聴き耳。でも、わたし、ラトルさんがちゃんとそうやるっていうこと知ってるのよね。だから驚きもしないけど。
って思ったらとんでもない! ラトルさんの始まりは予想外に遅いテンポ。なので、あとから入ってくるクラリネットとヴァイオリンのリタルダンドはあまり目立たなかったんだけど、その直後、主部に入ってにわかに快速テンポ。普通は最初の鈴のリズムと主部との間でテンポを合わせる演奏が多いのだけど、これにはびっくり。目が覚めた。わたしはこの音楽ってフルートと鈴に導入されて、時間がゆがんで夢の世界に入る、と解釈してたんだけど、ラトルさんのは、目が覚めて、現実に戻る、という解釈。だと最初、思ったんです。でも、どちらが現実、どちらが夢? 目が覚めたら、ファンタジーの世界で現実に生きていて、実はそれは夢だった、という感じ。第2主題ではテンポを落としてまた夢?の世界に戻る。ラトルさんのテンポ設定は、この第2主題と始まりの鈴を同じテンポにしたんですね。それが分かったとき、斬新なアイディアに鳥肌が立ちました。上手い! 鮮やか。目から鱗。

マーラーの交響曲第4番は、一般にシンプルで小さくて軽い音楽だと言われてるけど、わたしはそうは思わないんです。一見ハイドンふうの古典的な音楽に聞こえるけど、実は、ものすごく複雑な対位法が駆使された斬新な音楽だと思うんです。マーラーは対位法を積極的に使った作曲家だと思うけど、この曲の第1楽章と第2楽章が、マーラーが書いた最も複雑な対位法の音楽だと思います。とっても実験的。特に第1楽章なんかは、音の重なりが和声的な方法ではなくてほとんどが対位法的な方法で書かれているんです。でも、それは表面から隠されていて、それに気づかされる演奏はあまりないように感じます。ラトルさんは、もうそれは見事なまでに、マーラーが巧妙に施した仕掛けを聴かせてくれました。ふふふ、これがわたしの聴きたかった音楽なんです。もうわたしはウォーリーを探せ状態。面白いゲームをマーラー/ラトルさんから仕掛けられて喜んで遊んでる状態。何しろこれは子供の国の音楽ですからね〜。
それにしてもやっぱりベルリン・フィルは上手い。ソロの目立つ曲だけど、ひとりひとりがほんとに上手くて、しかもソロを吹く(弾く)ときは、協奏曲の独奏者のよう。特にホルンのシュティファン・ドールさん、上手すぎ。みんなが自発的な音楽をしていて、それを導いてひとつの音楽にまとめ上げているラトルさんの手腕もとっても凄いんだろうなって思うの。そうそう、今日のコンサート・マスター(ロンドンのオーケストラと違ってリーダーではなくてコンサート・マスター)は日本人のカシモト・ダイシンさんで、もちろん、第2楽章のヴァイオリン・ソロでも大活躍。でも彼にばかり注目が行くけど、忘れてはいけないのが、ヴィオラの主席(ファースト・プリンシパルではないので普通のオーケストラでは副主席に当たるのかしら?)にも日本人のシミズ・ナオコさんがいらっしゃることです。凄いですよね、ベルリン・フィルの首席奏者。

第3楽章はゆったりの部分と早い部分でメリハリを付けて、もうオーケストラの美しさが言葉にならないくらいの至福の時間。こんな音楽を聴けるなんてものすごい贅沢。いよいよ天国の扉が開く前、ホルンに復活の旋律が出てくるところなんて、ああわたしも早く天国へって思っちゃう(おまえは地獄に堕ちろっていうつっこみはここではなしよ)。静かに静かに終わってそのまま第4楽章のクラリネットが出てくるところは、なんてあんな弱音をきれいに吹くんだろうって思っちゃった。急な場面転換ではなくて、ふわりと立ちのぼるような景色の変わり目。ソプラノのシェーファーさんは、わたしの席からはちょっと、抑えすぎかなぁって思ったけど、オーケストラがピアニッシモになるところで、ものすごく抑えて歌ったので、声量不足ではなくてあのバランスで音楽を作っていたんでしょう。それにしてもステキなマーラーでした。

でもね、純粋に音楽に感動できたかというと、残念ながら素直にハイとは言えないんです。まだまだわたし、仕掛け探しに夢中で、この曲の音楽を頭でとらえてしまうんですね。わたしがもっと成長して、この曲を純粋に音楽として心でとらえることができたとき、初めて音楽に感動したと言えるのでしょう。ものすごく愉しくて、面白くて(interesting)、涙まで流して聴いていたんだけど、わたしが聴いたこの曲の中で間違いなく1番であると思うんだけど、ウォーリーを探さなくて済むようになるまで、ハイと言うのは待とうと思います。素直じゃないかしら?

シェーファーさん、パンツルックで上は体の線が出ない服装だからかしら子供っぽく見えました、とラトルさん、後ろにシミズさんが見えますね
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by zerbinetta | 2011-02-21 20:26 | 海外オーケストラ | Comments(4)

Commented by YU at 2011-02-27 19:23 x
つるびねったさんのおかげで、私もこの曲の”キモ”を知ることができて、よりこの作品を楽しめるようになったのです!
楽しみが増えると、フシギフシギ。苦手だったマーラーが色々な演奏で聴きたくなるものですねぇ~。
どうも有難うございます♪
Commented by zerbinetta at 2011-02-27 21:11
ありがとうございます。でも、わたしのおかげでも何でもありませんよ。YUさんの感受性が勝ったんです。この音楽会を聴けたなんて、YUさんも幸せ者の一員ですね。
ロンドンにいらしていたんですね。ロンドンは楽しめましたか?先週は雨ばかりだったような気がしますが。
Commented by YU at 2011-03-01 00:02 x
> この音楽会のひとつでも聴けた人を幸せものと呼びたい
本当にそうですね。そう言われてますます嬉しくなりました。有難うございます。
と言うのも、この間日本で行われた音楽会でどうしても行きたかったものを逃し、涙してたので。欲張ってはだめですね。
その音楽会、アンドラーシュ・シフさんなんですけれど、つるびねったさんこの方のシューベルトを聴かれた事ありますか?

ロンドンのお天気。。。寒冷地仕様の私は全く気になりませんでした(笑)
Commented by zerbinetta at 2011-03-01 09:49
いえいえほんとそうですよ。ステキな音楽会に出会ったとき、わたしはこんなに幸せでいいのかと思います。幸せすぎ。
わたしもどうしても聴きたいと思うものを聞き逃すことあります。チケット取れなかったり、他にも音楽会あったり。しょうがないのでなかったことにしますが。。。やっぱり悔し〜〜。

シフさんのシューベルトはCDで持ってます。大好きです。でも残念ながら彼のリサイタルはまだ行ったことがないんです。指揮してるのは聴いたことあるけど。シューベルトじゃないけど夏にリサイタルがあるので聴きに行くつもりです。ハンガリーの情勢が悪くて、シフさんは政府に反対してるんだけど、応援したい気持ちもあるんです。

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