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ヨロコビを素直に伝えよう   

04.03.2011 @barbican hall

takemitsu: requiem for string orchestra
thomas larcher: violin concerto
rachmaninov: symphony no. 2

isabelle faust (vn)
kazuki yamada / bbcso


なにげに今日のBBCシンフォニー、日本の若い指揮者が振るんですね。実は、勘違いしていて中堅どころの指揮者さんかなって思っていたのでした。慌てて調べたら、一昨年のブザンソン・コンクールで優勝してるんですね。30代になったばかりの若手です。会場はいつもよりたくさんの日本人(多分、中国人とかではないと思う)が来ていました。すでに人気なんでしょうか? 流行ものに疎いわたしはびっくりです。

今日は音楽会が生放送されるので、司会者登場。簡単な、指揮者の紹介と曲の解説。で、山田和樹さんにこやかに登場。なんかほんとっ若い。姿は日本人は若く見えるので子供っぽいのだけど(ひとのこと言えない)、ステージ上の態度がとってもフレッシュで初々しいの。こうなったらもう、ママ応援しちゃうから。今日はお客さんもオーケストラの人たちもステージ・ママ、ステージ・パパになった感じでした。

始まりは武満徹の弦楽のためのレクイエム。日本の曲でまずはロンドンの皆さんこんにちは、でしょうか。武満徹の若い頃の作品。西洋音楽的な音で書かれていますが、日本人のわたしにはどこか懐かしい響きのする音楽。西洋音楽といえども、日本人が書くと日本の匂いがするのですね。ポップスもそうで、演歌じゃなくても、ラジオから流れてくると、知らない曲でもあっこれ日本のってすぐ分かっちゃうんですよ。とってもきれいな音楽でした。控え目で、あっこれは音楽が控え目なんでしょうか、指揮者がまだ控え目なんでしょうか、そこまでは分からなかったけど、まずは良い感じです。

2曲目はトーマス・ラーカーさんという人のヴァイオリン協奏曲。一昨年ウィーンで初演された曲。イギリス初演です。ヴァイオリンは、この人のために書かれたイザベル・ファウストさん。初めて見るファウストさんステキ。ねずみ色のパンツに薄紫のガウン風の衣装(ごめんなさい。服の名前に疎くて何という衣装なのか分かりません)。とっても柔らかな上品な生地の(これまた名前が分かりません、おしゃれもしなければいけませんね)衣装で、すらりとした長身によく似合っていて、ファウストさんっておしゃれのセンスのとてもステキな方だと思いました。
ファウストさんああまりにステキだったのでうっかり横道にそれましたが、音楽音楽。始まりは静かな分散和音の独奏で、聞こえないくらいのオーケストラのソロが少しずつ被さってくるという音楽なのですが、ああ、ペルトのベンジャミン・ブリテンの思い出にに似てるなぁって思いました。きれいな音楽だけどこのままじゃちょっとつまらないなぁって思っていたら、雨が屋根を叩くような細かな音符がオーケストラから降ってきて、とても面白くなりました。オーケストラにもアコーディオンとか変わった打楽器とかが使われていて、音色も面白い。ただちょっと、構成的に弱いかなと思っていたら、最後に最初の動機が帰ってきて、あっこんな閉じ方するんだって感心しました。
第2楽章は今度はヴァイオリン・ソロに重音のとてもロマンティックな旋律が聴かれて、その後ろにオーケストラが対極的な伴奏を付けていきます。旋律の方は、こんなにロマンティックでいいのかなっていう感じでしたが、伴奏が音を重層していくので、全体的には複雑な音楽に聞こえます。そのあとは、音楽がさらに解体されてごちゃごちゃしてきます。ソロは激しく音を反復したり、アグレッシヴな感じ。ここでも最後に最初の動機が戻って音楽を閉じます。わたしはなかなか良い曲だと思いました。ヴァイオリン協奏曲の新しいレパートリーのひとつに加えられればいいなって思いましたよ。ヴァイオリンのソロは、派手なところがなくて終始音楽の中にいるのだけど、ファウストさんは丁寧に丁寧に弾いていました。彼女のヴァイオリンはこの曲だけで評価するのは難しいけれども、とても誠実で音楽的でステキでした。凛としたバッハの無伴奏も聴いてみたい。

休憩の後、ラフマニノフの交響曲第2番。ラフマニノフの中ではピアノ協奏曲第2番と並ぶ超ロマンティックな甘〜いとろけるような音楽ですね。ミルクチョコレイトの甘さ。ラフマニノフは女子には人気ですよね。しかし、タコガールを自称するわたしは、タコのかさかさしたリアリスティックな音楽の方が大好きで、ラフマニノフはちょっと苦手です。小学生の頃、確か3年生くらいだったと思うのですが、国語の時間、詩を作る授業があったんです。先生がこういうのステキですねと紹介した、友達の(もう何ちゃんだったか覚えてないのですが)、雪が降ってくる。空の上に冷蔵庫があって、云々という感じの詩を、空に冷蔵庫なんてあるわけないじゃんって斜めに構えてた、ロマンのかけらもないわたし。あっそこ、スを入れてロマンスのかけらもない、なんて読まないで。悲しくなるから。
そんなラフマニノフですけど(えっ?どんな?)、山田さんは、ゆっくりしたテンポで音楽を始めました。あちゃ〜、このテンポでやられたら、退屈して寝ちゃう、なあんて思うつかの間、音楽に見事に引き込まれてしまいました。第2楽章の抒情的な部分なんてとてもロマンティックに演奏していたんだけど、第3楽章は、甘くなりすぎずに絶妙な甘さ控え目ショート・ケーキ。山田さんの音楽はとっても素直だと思います。ゆっくりするところ、大見得を切って盛り上がるところはきちんとゆっくりと、速いところはきちんと速く、あまりにベタで分かりやすいのだけど、それが人工的ではなく、全く自然に嫌みがないのが、もう彼の純真を表しているような気がします。そして音楽がヨロコビに溢れてる。タイトルにもここにも敢えてカタカナで書いたけど、喜びであり、悦びでもあり、歓びなんです。そして彼のオーケストラの鳴らし方がとっても上手いの。音を解放してオーケストラの人たちに気持ちよく弾かせている。それにBBCシンフォニーがとってもステキに応えて、みんなで良い音楽を作ってる感がひしひしと伝わってくる。この曲を退屈せずに最後まで聴き通せるなんて思ってなかったからびっくりした。深刻な内容を持った音楽なら彼の音楽がどのようになるのかなっていう保留はあるものの、もう大喜びで大絶賛したい逸材だと思います。わたしの中では若手の中では、ネゼ=セガンさんが一番で(ちょっと年上だけど)、ドゥダメルさんがいるのですが、山田さんはドゥダメルさんと肩を並べるというか、同胞のひいき目を抜きにしても、わたしの中ではドゥダメルさん以上の存在だなって思いました。
それにしても、演奏が終わったあとの彼の興奮した嬉しそうな姿。学生っぽい若者のノリだなって思いました。リーダーの人にありがとうって大声で言っていたような。オーケストラのひとつひとつのセクションを立たせて称えるときも、ほんとに嬉しそうで、そしてオーケストラの人たちもにこにこ嬉しそう。わたしの隣に座っていた人たちも笑っていて、ほんとに幸せな気持ちでした。

山田さんのロンドン・デビュウは大成功。ロンドンのお客さんは、耳は肥えていても(そりゃそうでしょう、次から次へ凄い人たちが演奏しに来るんですもの)、若い音楽家を見つめる目はあたたかい。でも、お客さんの反応は明らかにそれ以上。彼はこれから、確実に世界で活躍していくでしょう。わたしもぜひ彼のことを聴き続けていきたい。ロンドンにもぜひ、たくさん来て欲しいな。

(蛇足)
BBCシンフォニー好きといいながら、今日の今日まで、リーダーの方がふたりいらっしゃるとは気づきませんでした。今日は感じが違うなぁって思うときがあったのは、無精髭があったりなかったりしたせいかなと思っていたら違う人だったんです。でもブライアンとさんとハヴェロンさんって似てるよねっ。
ついでに、山田さんって市松人形にお顔が似てらっしゃいますよね。って思うのわたしだけ?

by zerbinetta | 2011-03-04 07:20 | BBCシンフォニー

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