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これを怪演と言わずして何を怪演と言うのでしょう   

26.05.2011 @royal festival hall

mahler: symphony no. 7

lorin maazel / po


マゼールさんとフィルハーモニアのマーラー交響曲シリーズ、何はなくともチケットを取らなきゃと思ったのは今日の交響曲第7番です。だってだって、スミスさんのティンパニ、大活躍、絶対すごいことになるんだから。マーラーのこの曲を聴くのは、ロンドンに来てから今日が3回目! しかも1回目は同じフィルハーモニアで(サロネンさんの指揮)、ティンパニのスミスさんに注目することを決定づけた音楽会だったんですね。今日もわくわく。

厳選してとおっしゃりながら、マゼールさんのマーラー・シリーズを皆勤賞で聴いてらっしゃるMiklosさんによると、マゼールさんが暗譜で振ってるときの演奏が調子良いらしい。で、今日みると譜面台無し。暗譜だ、やりぃ。ところが、マゼールさんが出てこられると、? なにやらヴァイオリンの後ろの方の人が舞台袖に引っ込んで、あれれ?弦が切れたのかなとか思って見てたら、会場係の人が出てきて譜面台を準備。譜面台を出し忘れるという不手際。まあ、そんなことでは動じない百戦錬磨のマゼールさんではあるんだけどね。ちょっと変わった譜面台事件でした。

さて、マゼールさんのマーラー交響曲第7番は。これがもう見事な怪演でしたのですよ。この間の交響曲第5番も凄かったけど、今日の第7番もそれに輪をかけて凄い。そして、その怪演ぶりがこの曲の新しい魅力を引き出すんですね。だって、マーラーの音楽も実はとっても変態的。かなりとんでもないことになってるので、とんでもない演奏が似合うのです。

まず第1楽章。ゆっくりめで始まった序奏。ちょっぴりミスっちゃったけど、テノール・チューバいい音で吹いていました。上手い! 序奏の真ん中の部分はさらにテンポを落として、このやり方は、どなたかの演奏をCDかなにかで聴いたことがあるので、それ自体には驚きはないんだけど(普通は同じテンポか少しテンポを上げる演奏が多いの)、実際に聴いてみると面白い。それにマゼールさん、弱音を強調したりするので、音楽が止まりそうな感じになってドキリ。これは主部に入って相変わらずスロウ・テンポでも同じ。普通のテンポで弾きたいオーケストラとあくまでゆっくり弾かせたいマゼールさんとの間でときどきせめぎ合いがあったりしてこれがまた面白いのね(最後の楽章が特に)。今日のマゼールさんの演奏は、第2楽章と少しだけゆっくり目の第4楽章以外はかなりゆっくりとしたテンポで、この曲1曲だけなのに音楽会が終わったのは9時を10分ほどまわってました。最初の譜面台事件があったにせよ、この曲を90分近く(もしかすると超えてた?)かけて演奏したことになります。たいていの演奏が70分台で終わるところを見ると、ずいぶんとゆっくりした演奏であると言えますよね。
そのゆっくりとしたテンポ、特に弱音を強調した絶妙な強弱の揺れ、で演奏されると、第1楽章は崩壊すれすれの音楽。短い部分部分がパッチワークのように組み合わさってできているような音楽では、マゼールさんのやり方では、部分部分を繋ぐ膠の部分がとろけてしまって、部分がばらばらになってしまいそうなんです。そこを絶妙なさじ加減でくっつけて崩壊しそうでばらけない危険な感じのスリリングな音楽になっていました。そして、独立的に演奏されるその部分部分をとっても丁寧に微に入り細を穿ち演奏して聴いたことのない世界を創出したのが今日のマゼールさんです。中間のハープが活躍して唯一ねっとりと美しい部分はとろけるように糸を引いて、芳醇で頽廃的な美しさ。ここも一歩間違えれば腐ってしまいそうな成熟度でした。トロンボーンのソロもとても印象的で、この音楽が交響曲第3番の第1楽章から直接つながった音楽であることを、明確に耳に実感させるものでした。ここまではっきりとそれを感じたのは、今回の演奏が初めてです。

第2楽章はわりと普通のテンポに近かったかな。この楽章が顕著なんですが、マゼールさん、ソロの弾かせ方がとっても上手くて、それぞれの奏者にかなり極端なニュアンスを要求していて、まさにマゼール節なんですが、オーケストラの奏者はマゼールさんに言われてそのように演奏しているのではなく、それぞれが自発的に演奏しているふうなんですね。マゼールさんの手腕を褒めるべきか、オーケストラの人たちの上手さを褒めるべきか。まさかオーケストラの皆さんが変態になってしまったわけではなく。。。あっ変態といえばスミスさん(失礼)。第1楽章では少し控え目(とはいえ普通のティンパニ奏者に比べたら3割り増し)だったんだけど、この楽章では面目躍如。ずどんと楔を打ってきましたね。この楽章の木管楽器が細かい音を吹くところでは、やっぱり交響曲第3番の今度は第3楽章に直接つながって来てるのがはっきり分かって(どちらも森の音楽)ますます面白くなってきました。ほんと、マゼールさんのマーラー、面白いんですよ。いろんな音が聞こえていろんなことに気づかされるし、ふふっと笑ったり、おおやるぅってびっくりしたり、楽しくて楽しくて。次はどんな仕掛けが飛び出すんだろうってわくわくする、なんだかお化け屋敷のような楽しさ(ごめん!わたしお化け屋敷怖くないんです。ただおどかされるとびっくりしいなので必要以上にはけ敷く反応しちゃいます)。マーラーの交響曲第7番はホント楽しい音楽です。

続くスケルツォはまたまたスロウ・テンポで、部分部分、今度はさらに点描的で、音と音に分けていきます。この描き方が凄く面白い。っていうか、マゼールさんも凄いけど、こんな音楽を書いたマーラーも凄い。ここでもスミスさん大活躍。最後の一打はシャープに思いっきり叩いていました。今日の演奏では1、3、5の奇数楽章がほんと面白かったです。夜の音楽とは全然性格が違って書かれてるのが、もしかして、大地の歌の構成につながるのかな。

第4楽章ではちょっと問題発生。この楽章にはギターとマンドリンがちょい役で加わるのだけど(とはいえ重要音色を加える役)、これらの楽器のバランスが難しいんですね。音が小さいのでまともに弾いてたらオーケストラの影になって聞こえない。まあかすかに聞こえてればいいのかも知れないんですが。マゼールさんはマイクを通して若干音を増幅させていました。なのであざといくらいよく聞こえるし、ギターの音色がなんかずっしり重い。恋人がセレナーデを歌い、夜のとばりに囁き合ってるというより、痴情のもつれを必死に言い繕って説得してる感じ。でも、もうすでにわたしは、マゼールさんの術中にはまってるので、マゼールさんなら何をやっても許すという体制にあるのでした。いいんです、マゼールさんなら。

第4楽章ではティンパニは入らないので、わたしのときめきは飢餓状態になってる分いよいよ高まります。だってフィナーレはいきなりティンパニのソロの乱打。最高に楽しい瞬間にドキドキ。ゆっくり目のテンポで重いティンパニ。いいのよいいのよ。スミスさん炸裂。オーケストラを聴きに行ってずっとティンパニに耳を傾けてるというのもアレなんですが、それだけの価値あるんです。わざわざ耳を傾ける価値のある、3つ星ティンパニに決定です。
この楽章はテンポが目まぐるしく動くこともあって、普通のテンポで弾きたいオーケストラとゆっくり演奏するマゼールさんとの間でせめぎ合いがあって、途中から演奏に入ってくる奏者たちが飛び出したテンポぎりぎりで入ってきたりして一歩間違えればアンサンブルが乱れるぎりぎりの展開。でもその予定調和じゃないところが面白くて、多分マゼールさんわざとやってる。心憎いばかりの上手さですね。最後は、管楽器の音をかなり伸ばして、ずばっと全奏。最後まで笑かしてくれました。ブラヴォー、マゼールさん。

やっぱりいつもと同じ結論だけど、マゼールさんのマーラー面白い! ともすればつまらない音楽のこの曲(わたしは大変好きですが)をこんなに面白く聴かせてくれるなんて。全く隙がなくて完璧で最後まで一気に聴かせてくれるんですね(演奏時間は長いけど)。この曲の弱点といわれる、フィナーレがぽつんと浮き上がってしまうこともなくて、どういう訳か音楽に1本筋が通ってて統一が図られてる。マゼールさんに応えるフィルハーモニアも凄いし、マゼールさん以上に変態のスミスさんも凄い。大満足の音楽会でした。

ってふふふ、わたし音楽を聴きに行ってるんですよ。決してフィオナちゃんを観に行ってるわけではありません。あっへへ、今日は私服フィオナちゃんを見てしまいました。ステージに座ってるときはちょっぴりぽっちゃり系かなって思っていたけど、細身のジーンズ姿の彼女はすらっとしてスタイルいい〜。やっぱりフィオナちゃんです。

by zerbinetta | 2011-05-26 07:52 | フィルハーモニア

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