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自分探しの旅   

05.06.2011 @barbican hall

bernstein: candide

andrew staples (candide), kiera duffy ( cunegonde),
kim criswell (old lady), kristy swift (paquette),
jeremy huw williams (pangloss, martin),
david robinson (governor, vanderdendur, ragotski),
marcus deloach (maximilian, captain),
rory kinnear (narrator), etc.

kristjan järvi / ls choir, lso


クリビー(クリスティアン・ヤルヴィさん)とロンドン・シンフォニーによるキャンディードの全曲。去年、オーケストラだけの組曲版というのを聴いたけど、歌も入れて全部聴くのは初めてです。わくわくしながら聴きに行きました。それってみんな同じだったみたい。モーゲートの駅のエスカレーターで後ろから、序曲のメロディの口笛が。もうこんなところから愉しい気分満載。
キャンディード、初めてなので、あらすじを調べたんですよ。そうしたら予想に反して(単純なアメリカの恋の物語だとばかり思っていた)、なんだかフクザツ、ヴォルテールの小説を元にしたとかで、目まぐるしくいろんなところに行ったり、人が死んだりあっさりなんの断りもなく生き返っていたり、荒唐無稽のむちゃくちゃな物語らしい。らしいというのは、あらすじの段階で読む気が失せたから。どうやらそんなことは放っておいて楽しむといいらしい。ということで、めんどくさがりのわたしはそうしました。でも、やっぱりあらすじにはざっと目を通しておけば良かったと反省。

ウィキペディアでは、ヴォルテールの小説をカンディード、バーンスタインの作品をキャンディードと呼び分けてるけど、面白いことに、イギリス出身のキンナーさん(語り手)は、カンディード、アメリカ人の歌手ダフィさん(クネゴンデ)はキャンディードと見事に英語米語で発音していました。
物語は、語りで進むので、あらすじを読んでなくてもだいたい分かります。でも、英語もっと聞き取れるようにならなくちゃ。きれいな発音で語られていたので(ラジオのアナウンサーのような)分かりやすいのだけど、まだジョークで笑えるほどには分からなかったのが悔しいです。

今日のオーボエは久しぶりにシスモンディさんがゲスト・プリンシパル。彼女、フランスのオーケストラの人なので、音合わせのとき、音合わせをする楽器の方に向かって吹くんですね。フランスの全部のオーケストラにそういう習慣があるかどうかは分からないのですけど、ロンドンのオーケストラにはそういう習慣はないので(全て正面を向いて吹く)、完全にそっち方向(管楽器は後ろなのでそっち向き)に向いたわけではありませんが、ふふふ、フランス的って面白かった。

序曲が始まると、あれれ?ノってない? なんだかいつもより半音低い感じで始まりました。こういうのはやっぱりアメリカのオーケストラが上手いな、下手でもナショナル・シンフォニーなんかがやるとノリノリで楽しいに違いないし。ロンドン・シンフォニーなんだか真面目に弾き過ぎよ〜。そうそう、木琴とかシンバルとかいくつかの打楽器を走り回って演奏してた人、最後はガッツポーズしていました。結構ぎりぎりで楽器持ち替えだったもんね。でも、序曲が終わって、ティンパニの人が出てきて、序曲でティンパニを叩いていた人がドラムセットにまわって、なんだ、そんなことなら序曲から奏者をひとり増やしていれば、早業をわざわざしなくても良かったのにって思いましたよ。

序曲が終わると早速合唱。ロンドン・シンフォニー・コーラスは大人数の合唱団で迫力があってとっても良かったです。少人数でも大きなヴォリュームのでる上手な合唱団もあるけれども、大人数ならではの迫力は、音量だけではないから、魅力的。そして今日は、セミ・ステージドとはいえ、歌手は小さな演技をするので、合唱団といえども例外ではない。手を振ったり、体揺らしたり、するんですけど、これがまた合っていないのが可笑しいの。全員の振りがぴったり合えば、それは美しいのかも知れないけど、合唱の役割は群衆ですからね〜。みんながぴったり揃っちゃうと、市井の人の集まりじゃなくて、軍隊になっちゃうから、それは違うんです。今日はまず、合唱に満足しました。

物語に入ってまずはじめに登場するのが語り手。この人の進行で物語は進むのです。メタ・オペラですかね。で、語り手のキンナーさん(役者さんみたいです)、上手かった。どこまでが台本に書かれているか分からないんですけど、ある程度即興で冗談を入れながら、会場を笑わせて大いに盛り上げます。楽しい。その語りに導かれて、歌手たちによる楽しいドラマが展開されます。なんと言っても荒唐無稽、オプティミズム(なんと訳せばよいのでしょうか?一般に言われる楽天主義とはちょっと違いますし)をけちょんけちょんに批判するピカレスク。このお話って、世界中いろいろ彷徨ってなんだか80日間世界一周の旅みたい。そして自分探しの旅なのですね。わたしもいつか職業欄に旅人を書いてみたいけど、旅苦手だからなぁ。めんどくさがりで。で、自分探しの旅、結局は土に帰れ大地を耕せってなんだか、武者小路実篤(だっけ?)、最近ではラピュタ(?)。でも、小市民的な結論も、音楽は感動的ですね。そして、その前のキャンディードの「クネゴンデ、僕と結婚して!」のストレイトな告白がぐっと来る。わたしも「miu, marry me!」とか言われたい。自分探しって、ひとりでするから自分が見つからないのかな。他人とかかわって、家族を作って、そこから生活を築くことで自分が見つかるんじゃないかしら、と思った夜でした。いや、俺、独身主義って言われても困るんだけど。でも、どんな形であれ他人と深く関わらなければ自分は見つからないんじゃないかとは思った。

歌手陣では主役のおふたりがまず良かったです。特に、クネゴンデのダフィさんは、難しいコロラトゥーラのアリアもきれいに歌って、実力ありそう。知的な感じの美人さんが、コケティッシュでちょっぴりねじがゆるんでるクネゴンデのキャラクターに容姿的に合わないかなとも思ったけど、でも、コメディも上手そうだから、例えばコジ・ファン・トゥッテなんか歌ったら面白いかなと思いました(声的にも)。他の歌手の皆さんもそれぞれ十分にステキで、物語の世界を楽しませてくれました。歌手が良ければ音楽も良くなることは必定で、序曲のときはロンドン・シンフォニーどうしたの?って思ったけど、だんだんノリノリになってきて、指揮者のクリビーも得意の左右交互振りが出て、最後は大団円。すっかり楽しみました。もちろん帰り道は、Make Our Garden Growを口ずさみながら、陽気に。

クリビーと語り手のキンナーさん
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キャンディードのステープルスさん(左)とクネゴンデのダフィさん
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by zerbinetta | 2011-06-05 03:26 | ロンドン交響楽団

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