神の庭に遊ぶ   

16.06.2011 @barbican hall

mozart: piano concerto no. 27, k595
bruckner: symphony no. 4

maria joão pires (pf)
bernard haitink / lso


わたしにとって河童指揮者といえば、ゲルギーとハイティンクさんなんです(なんてのっけから失礼な書き出し)。そのハイティンクさん、何故かわたしには鬼門なんです。ものすごく良い演奏をするときもあれば、わたしにとって余りしっくり来ない音楽の日もあったりです。ブルックナーもロイヤル・コンセルトヘボウと演った交響曲第9番はとっても良かったんだけど、シカゴと演った交響曲第7番はオーケストラの不調もあっておやおやな感じでした。今日はどうなるのでしょう?
もうひとつ、予定ではペライヤさんがシューマンの協奏曲を弾くことになってたんです。前にもハイティンクさんとのコンビで聴いたことあるんですけど、ペライヤさんのシューマン、立派すぎてわたしには合わなかったんです。シューマンとかシューベルト(これも聴いたことあります)って、緩い部分がないと音楽から彼らの個人的な思いが失われてしまうと思うんですね。ペライヤさんの音楽は、ベートーヴェンのように構成的で隙なく音楽を築いている感じで、わたしにとって大事なところが欠けていたように思うんです。なのでちょっぴりあれだったんだけど、数日前にペライヤさんがキャンセルになってピレシュさんがモーツァルトを弾くことに。ふふっ、わたし的にはラッキー。

そのピレシュさんのモーツァルト、これがもう本当に良かったんです。ピレシュさん、遠くから見ると生成な感じの森ガール風の衣装で、何というか友達の家を訪ねた感じで気負いがなくて自然体。音楽自体も全く純粋の極みというか自然なんです。オーケストラの音楽が聞こえてきたとたん、窓から涼やかな春の風が吹き込んできた感じで、何か自分の家にいるみたい。そしてピアノが聞こえてくると、隣の家の窓から誰かがピアノの練習をしているのが聞こえてくるというような感じで、風に乗って音がやってくる。もちろん、聞こえてくる音は極上でピアノの練習のレヴェルではないんですけど、音楽に込められてる音の喜びは無邪気で純粋で、神の子が音遊びしているよう。それに。モーツァルトのこの曲って、他のモーツァルトの音楽のようにオペラ・ティックではないのですね。オーケストラの付け方も最低限で、特に第2楽章なんかはピアノのソロをオーケストラがつなげる感じでピアノの伴奏をほとんどしないし、なんだか、モーツァルトの内面の個人的なお話を聞いている感じ。それがピレシュさんの演奏とぴったりと相まって至福の時なのでした。オーケストラもピレシュさんの音楽に仲良く寄り添ってステキなんです。シンプルな故に室内楽的な親密感と緊張がバランス良くあってほんとにほんとに良い演奏でした。これだけで元取れた感じって6ポンドもしない席だけど。

そしてブルックナーの交響曲第4番。ロンドン・シンフォニーの柔らかな音色はこの曲に合うんだろうなとは思っていましたが、、、あまりのステキな音楽に心は震えっぱなし。神の庭にさまよい込んだみたいです。絶句。第1楽章と第4楽章はゆったりとしたテンポで、雄大。わたし、ハイティンクさんって、無為でオーケストラに任せて何もしない指揮者なのかなと思っていたんですが、音楽はとっても自然なのでそう聞こえるんですけど、実は細かい隅々にまでしっかりコントロールして音楽を作っていたんですね。フレーズの納め方がとっても上手いし、音色のブレンドの仕方もとっても神経が行き届いていて、ハイティンクさんの思い描いている音をオーケストラが鳴らしているんだと思いました。そして、テンポの変化の絶妙さ。ぐいぐいと引っ張る感じではないけれども、音楽の必然に任せて自然で、でも何もしないんではなくて、意識的にテンポを動かしている。心憎いばかりの巧さ。
ブルックナーの湿り気のある暗い森の雰囲気ではなくて、オーケストラの音色の明るさもあって、草原にきらめく春の陽光のよう。プログラムの前半のモーツァルトに妙にマッチしていました。第2楽章ももったりしない少しだけ流れるような速めのテンポで、なんだかとても良い気分で森を散策するようで、すがすがしいのです。ハイティンクさんのテンポ感がわたしの裡のテンポにぴったりとはまって、これはわたしのブルックナーと思わず叫んじゃいそうでした。わたしがCDを含めて今まで聴いたブルックナーのこの曲の演奏の中で一番でした。終わってしまうのが惜しくて惜しくて、ブルックナーってもっと長かったよね、終わらないよね、と願ってしまいました。この音楽会、2回繰り返されたんですけど、残念ながら今日はその2日目。もしこれが初日だったなら間違いなく、もう1枚チケット取ったでしょう(ロンドンではハイティンクさんとロンドン・シンフォニーでも売り切れにならないんです)。また聴きたい、あの音楽にもっと浸りたいと思う希有な音楽会のひとつとなりました。
幸い!BBCラジオ3でオンデマンドで聴くことができます。また、将来CDで発売になるそうです。
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by zerbinetta | 2011-06-16 22:23 | ロンドン交響楽団 | Comments(6)

Commented by ロメリアン at 2011-06-20 00:54 x
演奏家を“演出家タイプ”と“役者(没入)タイプ”に2分するというのは、少し乱暴な考え方なんですが、ピレシュに限って言えば、(故バーンスタインほどではないにしろ)間違いなく後者のタイプという感じです。この人、インスピレーションが湧いてきて、それが破綻なく音になっている時は、本当に類がないほど魅力的です。

実は、震災の後しばらく、何処にも行く気力が出なかったのですが、最近はやっと”平常心”になりつつあるので、気分転換にザルツブルク音楽祭に行くことにしました。ピレシュもこの音楽祭に出演して、やはり27番のコンツェルトを弾くことになっているので、オペラと同様、今から楽しみにしているわけです。
Commented by zerbinetta at 2011-06-21 02:10
ロメリアンさん、気分転換にザルツブルクなんてなんてステキでうらやましいんでしょう。ザルツブルクは町自体が好きなのでわたしも行きたいです。震災による心の傷は深いと思いますが、少しずつでも癒されることを願っています。癒しの音楽という言葉は嫌いですが、音楽が心を強くするものであることはわたしも何度も経験しました。ぜひ、ステキな音楽を思いっきり楽しんでくださいね。

ピレシュさんの音楽は本当にすばらしかった。役者タイプなのかどうかは分かりませんが、彼女は彼女の世界を確実に作ってわたしたちを招待してくれました。あの会場にいた人はみんな幸せだったと思います。
Commented by Miklos at 2011-06-22 09:49 x
ハイティンクさん、レコードを聴いている限りでは決して好きになれなかった指揮者でした。生で聴いて初めて、真価が肌で分かった(ような気がした)人の一人です。今週のシーズン最終演奏会、LSOから招待メールが来たのですが、テツラフとバッティングしているので残念ながらパスです。次の「生ハイティンク」はいつだろうか…。
Commented by zerbinetta at 2011-06-26 20:04
ごめんなさい。お返事遅くなりました。マックブックちゃん盗られちゃって、今、コンピューター持ってないのです。
ハイティンクさんのブルックナー(ピレシュさんとのモーツァルトも!)良かったですね〜。でえとだったら胸きゅんものでした。Miklosさんが隣にいなくて残念。
生ハイティンクさん、プロムスにも来られるみたいですよ。わたしは残念ながらもう生ハイティンクさんは拝めそうもありません。
Commented by Miklos at 2011-06-27 06:50 x
返事遅くても、なくても、いっこうに気にしませんのでご心配なく。しかしMacBookを盗られたとは、おだやかな話じゃないですね。私は仕事でもプライベートでも、「全てはその中にある」という意味でパソコンに重度に依存した生活ですので、もし愛機がなくなったら、泣いちゃうどころの話じゃないです。

ハイティンク、今年のプロムスに何かあったっけと思って見てみたら、ヨーロッパ室内管弦楽団ですね。ノーチェックでした。もうチケットないみたいですね…。
Commented by zerbinetta at 2011-07-04 05:27
お言葉に甘えて返事遅いです。ごめんなさい。
自分のコンピューターがないと何かと不便ですね。幸い恥ずかしい秘密は入ってないハズなので(写真とかは容量食うのでハードディスクに移してたし)、良かったんですけど。。。プライヴェイトのメイルとかはウェブ・メイルなのでそちらはパスワードをすぐ変えました。

プロムスのチケット、直前になると出ることがあるので、どうしても聴きたいのはこまめにチェックしてると良いですよ。わたしも買いそびれたドゥダメルさんのを毎日チェックしてます(出ないかなぁ〜)。

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