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2匹目のドジョウは?   

30.06.2011 @royal festival hall

berlioz: overture, le carnaval romain
rachmaninov: piano concerto no. 3
tchaikovsky: symphony no. 6

nikolai demidenko (pf)
christian vásquez / po


今シーズン最後のフィルハーモニアの音楽会、大好きなプレトニョフさんがキャンセルで代わりがバスケスさん。プレトニョフさんの悲愴が聴きたくて取ったチケットなのに、残念。そして会場に着いたら、ピアニストのマツエフさんが足のけがのため(フットボールでもしてた?)降板で、代わりにデミジェンコさん。そして、フィオナちゃんは降り番。なんだかデジャヴだわ。でも、なんとか、ティンパニのスミスさんはいらしたから良かったです。これでスミスさんがいなかったらちゃぶ台ひっくり返すとこでした。そう、今日はもはやスミスさんのためにある日。そして、相変わらず(?)とんでもなくやってくれました!

バスケスさんは、あのドゥダメルさんを生んだ、ベネズエラのエル・システマという画期的な音楽教育プログラム出身。ドゥダメルさんもそうですけど、シモン・ボリバル・ユース・オーケストラもなんだか世界を席巻してますよね。ロンドンの音楽会で今一番チケットが取れないのが彼らなんです。そのドゥダメルさんに続けとばかり、今日の指揮者は若干27歳(26歳?) のバスケスさん(フィルハーモニアは一昨年のシーズンではドゥダメルさんを呼んでいます(わたしはチケット取れなかったけど))。果たして2匹目のドジョウは掬えるのでしょうか。
バスケスさんはなんだか年齢不詳、というか30代半ばくらいのフット・ボール選手に見える。始まりは、ベルリオーズのローマの謝肉祭序曲。ベルリオーズの音楽ってたくさんの面白い仕掛けが施されているので、上手に演奏するとその仕掛けがくるくると聞こえてくるので楽しいんですが、さて今日はどうでしょう。バスケスさんラテンの人なのでノリノリの人なのかな(かなりの偏見)って思っていたら、意外にも結構丁寧に音楽を作ってくるのでびっくり。最初から微に入り細を穿ち丁寧なのでどうなっちゃうかと思ったよ。それになんだか指揮者の心臓の鼓動が聞こえてきそうで、さすがに緊張してるのかなぁって思いました。ゆっくりしたところは、なんだか筆でなでるように丁寧で、内声部の和音なんかもとってもきれいで、この人耳がいいんだなって思いました。オーケストラをきれいに鳴らすことのできる人です。ただちょっと、平坦な感じがして、音楽が止まってしまうような感じだったのが残念。速い賑やかな部分はなかなか勢いがあって良かったので(かなりオーケストラに助けられていた部分も多かったけど)、その勢いをゆっくりした部分にもしのばせることができれば、もっともっとステキな演奏になるんじゃないかなって、偉そうに思いました。

2曲目のラフマニノフのピアノ協奏曲第3番は、わたし的には微妙な曲なんです。第2番はとっても好きなんだけれども、第3番って叙情の部分がなんかちょっとあっさりしてて(その分、構成が堅固になったり音楽がメランコリックになりすぎないんですけど)、やっぱり劇甘なケーキも食べたいのよって思っちゃうんです。日本のケーキの甘さ控えめって、お菓子本来のヨロコビを奪っちゃってるわって声を大にして叫びたい(好きだけど)。
代役のピアニストのデミジェンコさんは、ロシア(ソヴィエト)出身ロンドン在住のヴェテラン・ピアニスト。こんな人が、数日前にブッキングできちゃうのがロンドンの良いところ。テクニックを表に出す人ではなかったけど、むちゃ指回る〜。難易度の高いこの曲を軽々と鼻歌交じりに弾いていました。そうそう、今日キャンセルになった指揮者のプレトニョフさんもピアノがとっても上手で(って当たり前か。ピアニストだし)、前にリハーサルを観たとき、休憩の合間になにげにピアノを弾いたのがむちゃくちゃ上手くて、っていうのを思い出したのは、デミジェンコさんのピアノがさらりと上手くて、上善水の如しって感じだったからです。そんな無色系ラフマニノフ。わたしとしては、もっと情熱系が好きな感じがするけど(自信がない)、曲の良さを認識できる演奏ではありました。告白すると意外と好きかもって思ったんです。たぶん体育会系、マッチョ系のマツエフさんとは対照的な演奏になったと思うんですけど、指揮者のバスケスさんはピアノにオーケストラを付けることに徹底していて、彼の個性はあまり感じられませんでした。

休憩の後は悲愴。指揮者の力量が如実に表れそうな曲です。と言ってもバスケスさんの基本路線は変わらず。ゆっくりとした部分はゆっくりとでもさらさら。何というか感情を押し殺した、というか音に想いがないような、だから音楽がそこで止まってしまうような感じ。きれいなのに。もったいない。反面盛り上がるところは押さえつつもちゃんと盛り上がるのになぁ。
というわけでわたしの耳はティンパニに集中することになりました。っていうか、おんどりゃあ、若いくせにそんなにちまちまやってるんじゃないよ、ばしっとぶっ叩かないかごるぁって心の声がわたしとシンクロして聞こえるような、今日は(も)いつになく叩きまくってましたね〜スミスさん。チャイコフスキーのオーケストレイションって鮮烈ですね。途中、ティンパニと大太鼓を同時に叩かせるところなんて、目が覚めるような効果。大太鼓とティンパニが左右に振り分けてあったことと、大太鼓の人がスミスさんばりに思いっきり叩いていたせいもあるんですが。
スミスさんががんばっていたおかげか(?)、第2楽章の後半から音楽が良くなってきて、バスケスさんと相性の良さそうな第3楽章は結構盛り上がりました。リズムがさくさくして気持ちよかったです。そして、最後の楽章は、前の楽章からの勢いが続いていて、バスケスさんやればできるじゃんって思いました(かなりオーケストラが助けていた部分がありましたが)。彼はきっと練習でオーケストラに自分の音楽を伝えること、自分の音を出させることはできているんだと思います。オーケストラからとっても良い音を引き出していたし、和音がとってもきれいでした。でも、本番で、音たちに魂を込める(なんだか抽象的で嫌な言い回しだなぁ。伝えたいものを音に乗せる、これでもまだ分かりにくいね。魔法を振りかける、うううますます分かりづらくなってきた)こと、音を生み出すことを指揮で表現し切れていないようにわたしには思えました。

ちょっと辛口でしたが、まだまだ20代半ば。耳も良さそうだし、これからが期待できる逸材であることには間違いありません。2匹目のドジョウめざしてがんばって欲しいです。

by zerbinetta | 2011-06-30 08:50 | フィルハーモニア

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