神の降臨   

27.07.2011 @wilton's music hall

berio: sequenza VIII
bach: ciaccona from partita no. 2
biber: passacaglia from the mystery sonata (tape)
bartók: sonata for solo violin

alina ibragimova (vn)
the quay brothers (directors and designers)


アリーナ(・イブラギモヴァさん)の一風変わった(?)音楽会がマンチェスター国際音楽祭であるというのを知ったとき、自称アリーナの追っかけ(ただし軟弱者)のわたしは、遠征しようと気合い十分でした。確か7回か8回くらい同じ音楽会があるのですけど、どうやらクゥアイ兄弟さんの映像作品付きみたいで、普通のリサイタルではありません。会場も古い図書館みたいな場所です。ロンドンからマンチェスターまでは、電車で2時間強、お昼の回を取れば日帰りもできそう。もうわたしの心はチケットを取って電車の切符を買うところまで来ていました。ほとんどクリック寸前。ところがなんと同じ音楽会がロンドンでも3回開かれるのを発見して、その日は全部他の音楽会で予定が埋まってたんだけど、バレエのチケットを1枚里子に出して行くことにしました。ほんとは3日とも聴きたかったんだけどね。ロンドンの会場は、1850年代からあるロンドン最古のミュージック・ホール。なんと趣のある会場でしょう。実はこの会場設定も音楽会の一部なんです。うかつなことに後で気がついたのですが、音楽会のプログラムのビーバーのミステリー・ソナタ、休憩時間に録音で会場に流されていたんですね。本家マンチェスターでは、会場になった古い図書館をそぞろ歩きながら聴くという趣向だったらしいのですが、今日のホールは外はすぐ併設のパブとレストラン。わたしは2階に上がって古い建物をぼんやりと鑑賞していたのですが(建物はとってもステキ)、ヴァイオリンの音楽が聞こえてきてるのは知ってたんですけど、耳を澄ますまでには至りませんでした。

マンチェスターでの音楽会をガーディアン紙が5つ星を付けて絶賛したせいか(隣の人談)、この3日間の音楽会はソールド・アウト。会場が小さくて150人ほどしか入らないのもあるのですが。自由席で、わたしはなんとなく早くから並んでいたので、最初アリーナのすぐ正面のかぶりつきという席に座りました。隣の人いわく、手を伸ばせばヴァイオリンをつかめるところです。わたしの席の真ん前に譜面台が置いてあって、ベリオの楽譜が載っています。これだけ譜面あり。

会場が暗くなっていよいよ始まります。アリーナは静かにゆっくりと2階のバルコニーから階段を下りてきました。もうここから演出が始まってるんですね。白いドレスに銀ねずみ色の帯のような模様。淡い光を浴びて白く浮かび上がる様はまるで妖精みたい。ただちょっと、少し着物のデザインを意識した感じのするドレス(襟の切り方など)が日本人のわたしには死に装束に見えちゃいました。ただそれは、わたしが日本人だからであって、その文化の背景のないこちらの人は感じないことでしょうね。クールな白いドレスとしか見えなかったでしょう。
で、ベリオのセクエンツァ8がもう圧倒的に凄かったの。口をあんぐり。アリーナはテクニックのある人だとは思っていたけど、ここまでテクニックがあるとは思わなかった。とっても難しそうな音楽だけど完璧に弾ききってた。アグレッシヴで肉食系。楽譜から出てくる音を狩ろうとする肉食獣のごとき鋭さ。というのは序の口で、音楽が豊か。内声の部分に隠されてるフォークソング的なメロディの断片をうっすらと浮かび上がらせたり、音のつなぎ方が上手い。そうだった、わたしがアリーナを’発見’したのはリゲティの協奏曲でだったんだ。アリーナの弾く現代曲ってもうステキすぎ。つかみはばっちり。というかもうここまでで大満足。

2曲目は舞台の左の隅っこの方でバッハの無伴奏パルティータからシャコンヌ。会場は暗くしてあって、アリーナを浮き上がらせるようなライティングをしていました。ステージに出たり下りたりするときは、会場の人が足下にスモール・ライトを照らしてました。このシャコンヌがまた。。。バッハの無伴奏は一昨年聴いたことがあるし、CDでも持っているので、ときどき聴いているのだけど、さらさらとした風のような印象のある爽やかなバッハ。ささやくようにさわさわと流れる。ところが今日のシャコンヌは遅めのテンポで、結構大胆にテンポを変えたりして、切り込みが深い。セクエンツァに負けないくらい積極的な攻めの演奏。そして、内声の独立した旋律がとてもよく聞こえてきて立体的。アリーナが進化しているというより、多分、バッハのコンテクストの中ではなく、今日のプログラムのコンテクストの中でこの音楽を演奏しているので、このような演奏になったのでしょう。それがもう、CDに付録として入れといて欲しいくらいの素晴らしさ。スケールの大きな演奏です。

ここで休憩。最初の方に書いたように、休憩中にはビーバーのソナタが流れていたようです。わたしはぼんやり建物の内装を眺めていました。塗り直したり修復しないでわざと古ぼけたままにしているのもステキ。そしてこのホールは飲み物を持って入れるんですね。ただし、ガラスの容器はダメで入り口で用意されているプラスティックの容器に入れ替えるんですけど、何かを飲みながら音楽を聴くことができるんです。ボックス席みたい。それから、何故か、会場の係の人(多分アルバイトだと思うんだけど)が美男美女ばかり。ちょっと先鋭的なアート系?

休憩の後は、アリーナは今度は炎のような真っ赤なドレス。お化粧も少し変えたようです。ステージの後ろにはスクリーンが下りてここに映像作品が投影されます。アリーナはステージの一番高いところで、映像に合わせてバルトークのソナタを弾くのです。映像は無声映画みたいな感じで(実際音は出ないのですが)、抽象的だけど印象的、意味はよく分からなかったけど、ひとりの人間(作曲者?)の心の窓のようなもの(窓のイメジが中心的です)、生と死を表現してるみたいで、映像を観ることは音楽を聴くじゃまにはならなかったし、苦痛でもありませんでした。これはアリーナの演奏に合わせて作られているのでしょう、音楽とほぼぴたりと合っていました。アリーナはときどき映像を観ながら、入りを合わせたりしていましたが、それによって音楽が途切れたり、損なうということは全くありませんでした。
アリーナのバルトークが、これまた渾身の演奏で、むちゃステキでした。バルトークのいわゆる民族色は薄いのかもしれないけど、コスモポリタンな感じは、バルトークが苦手なわたしにも聞きやすかったです。というか、アリーナの音楽にいちいち納得してしまうんです。調べてみるとこの曲、アリーナの恩師のメニューインさんがバルトークに頼んで作曲してもらった曲なんですね。アリーナはきっと、メニューインさんからこの曲のこと教えてもらっているのでしょう。音楽とアリーナの演奏の完璧な一体感がありました。
アリーナというひとりのヴァイオリニストと出逢えたことが運命的に幸せです。バルトークやイザイのソロ作品、ぜひ録音して欲しいです。

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by zerbinetta | 2011-07-27 08:02 | 室内楽・リサイタル | Comments(2)

Commented by ありこ at 2011-08-06 10:25 x
ああ…素敵…vvv文面から情景が想像できて、うっとりしてしまいました…ほぅぅ。ありがとうございます。
ホント、趣向の面白い演奏会ですね。しかもプログラムまで面白い組み合わせ。

私はアリーナと出会うまで、現代曲なんてよくわからなくてほとんど聴かなかったのですけど、最近やっと面白さがわかったような気がします。
そして私もバルトーク、それほど好きではなかったけれど、NHKの放送で彼女のバルトークやイザイを聴いて、こんな曲だったんだ(笑)と開眼しましたよ(汗)

仰るとおり、生で聴ける時代に生まれて良かったと心から思います♪

ところで「隣の人」気になりますね(笑)テンションかなり高めの方だったのでしょうか(笑笑)
Commented by zerbinetta at 2011-08-07 18:37
ありがとうございます。
でも、言葉で書ききれないほどステキな音楽会だったんですよ。クゥアイ兄弟さんのデザインしたステージングは音楽に合っていてとっても良かったし、何よりアリーナに惚れ直しました。最近、ロマン派の音楽を取り上げているせいか、音もふくよかにしっとりしてきた感じもあるし、音楽の幅がどんどん広がっているように思えます。
現代曲もアリーナの得意技ですからね。彼女が弾くとちゃんと音楽が聞こえるので、現代曲にはあまり親しみがなさそうなおじいちゃんおばあちゃんも聴き入っていた様子でした。

隣の人、前日も来たと言ってました。お話好きで演奏が始まる前ずっとおしゃべりしてました。ピアニストでは内田光子さんがいいとおっしゃったときは、うんうんそうでしょうって同郷のよしみでちょっぴり誇らしく思いました。

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