例えばE=mc2の美しさに感動するように マゼール、フィルハーモニア マーラー交響曲第9番   

01.10.2011 @royal festival hall

mahler: symphony no. 9

lorin maazel / po


聴きに行く予定ではなかったのでチケットは買ってなかったんです。マゼールさんのマーラー・サイクル、興味はあるけど、交響曲第9番は一昨年、同じオーケストラで聴いていたので。そのときの感想は、これがマゼールさんのやりたかった完成型なんだ、と。マゼールさんのマーラーが完璧に表現された感じ。なので多分今回も同じように思うでしょう。だったら、わざわざ聴きに行かなくてもいいかな、と。でも、なんだかせっかくの機会を逃すのも惜しい。やっぱり、マゼールさんの第9番は、彼の完成された高みにあるんですもの。というわけで、安い席があったら聴こうと思って、そういえば、ダブル・ブッキングのチケットがあるからそれをリファウンドして買っちゃおうって。そんなわけで、聴いてきました。今回は珍しく、バルコニーの一番前の席(すみません。ここ高いんですけどあいてたので)。オーケストラが見渡せたし、音が良く聞こえました。

音楽は2年の時を経て、啓示を受けたように変わるわけもなく、演奏の有り様は前に聴いたときと同じです。最初と最後の楽章はとってもゆっくり。中間のふたつの楽章は普通のテンポ(第3楽章はやや遅めかな)。でも、マゼールさんのアプローチはこの曲にとっても合ってると思うんです。「大地の歌」のときはちょっと失敗かなとも思ったんだけど、第9は完璧と言っていいくらいしっくりと来る。多分、曲の構造が違うから。「大地の歌」はわりとホモフォニックに書かれてると思うのだけど、第9番はとってもポリフォニック。音楽が組み木細工のように精巧に入れ子になっていて、部分部分に分解しても壊れることなくしっかりつながっていると思うの。前の部分の音が終わる前に次の部分の音が入ってきたり、同じ旋律の音の長さを変えて一緒に演奏したり。そういうところがマゼールさんの音楽からしっかりと明瞭に聞こえてきて、こんな音があったのかと感心するばかり。もうそれはとっても面白かった。楽器ごとのバランスの取り方もマゼールさんの意志が強く反映していてとってもユニーク。第1楽章のお終いの方のホルンとフルートの掛け合いは、ホルンがものすごく控えめに吹かされてかわいそうだったけどね。
第2楽章もますます面白くって、マーラーが仕掛けた巧妙な対位法の旋律がひとつひとつきれいに聞こえてきて、これをここまでちゃんと分離させて聞こえさせるなんてマゼールさん凄いって素直に感心。一時も耳を離せないのよ。わくわくしすぎて。それは第3楽章も同じで、見事に併走する旋律線を描き分けていく。音楽から細工模様の線がとってもきれいに透けて見えて、もうそれだけで美しい。
そして最後の楽章もじっくりと丁寧に音楽を奏でていく。最後は宇宙が透明なエーテルで満たされていることを確信する。音楽というエーテル。

わたしはマーラーの音楽は頭で聴いてしまうタイプの人だけど、マゼールさんの音楽はわたしの脳細胞を心地良く刺激しまくり。何回も聴いたはずの曲なのにまるで初めて聞こえてくるような音がたくさん。情報量が多すぎて全部は聴ききれない。それでも不思議なことに、マゼールさんの音楽はとてつもなく面白いけど、心の奥から涙の泉が湧き上がってくる音楽ではないのです。感動しないとかではないんです。感動のあり方が違うの。音楽そのものの姿に感動するんです。多分、数学者が見事に単純化された数式を見て感動するように。結晶化学者が、幾何学的に積み重なった結晶を見て心を震わせるように。生物学者が卵から孵ったばかりのひよこが立ち上がるのを見て感動するのとは違う感動なのです。でも、その感動に優劣はないし、違った感動のしかたができることに幸福を感じざるを得ません。マゼールさんが今日の演奏で成し遂げたことは、とてつもなく素晴らしいものでした。涙が出るのとは別の次元の深い感動がありました。知恵熱が出そうなほどに。
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by zerbinetta | 2011-10-01 04:13 | フィルハーモニア | Comments(0)

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