一大興行ですよね マゼール、フィルハーモニアのマーラー「千人の交響曲」   

09.10.2011 @royal festival hall

mahler: symphony no. 8

sally matthews (sp), ailish tynan (sp), sarah tynan (sp),
sarah connolly (ms), anne-marie owens (ms),
stefan vinke (tn), mark stone (br), stephen gadd (br),
philharmonia voices, bbcsc, philharmonia chorus,
the choirs of eton college
lorin maazel / po


マーラーがニックネームを付けるのを嫌がってたとしても、マーラー好きさんが訳知り顔で「千人の交響曲」という表題は本人が付けたものではないといって眉をひそめたとしても、興行主が付けた「千人の交響曲」はキャッチーな表題だし、この曲の大成功に一役も二役も買ってると思う。それに、マーラーがどう思おうとこの曲は記念碑的な興行にふさわしい内容と形式を持ってると思うんですよね。今ではいろんな指揮者がマーラーの交響曲全集を録音しているから、この曲の演奏機会はあるとはいえ、そう易々とプログラムに載る音楽ではないと思うし、勢いがないとやっぱり音楽会にかけるのは難しいと思うんです(今回はマーラー記念年の一環としてマゼールさんとフィルハーモニアの交響曲全集の録音シリーズ)。第一、8人の歌手を一堂に集めてさらに、ふたつの合唱団(実際にはもっとたくさんの合唱団をふたつに振り分けていますが)、少年合唱までステージにのせちゃうのは、優秀な人を集めるのも大変だし、リハーサルも大変。コスト・パフォーマンスも悪いでしょう。だからこそ、凄腕興行主が「千人の交響曲」の宣伝の元に初演を一大文化イヴェントとして成功させた功績は、称えられることはあっても非難されることはないし、それよりもなによりも、マーラーのこの音楽がそういうイヴェントにぴったりの内容を持ってる。膨大な人数の音が出す最後の圧倒的な高揚感。音楽の枠組みを超えてしまったはちゃめちゃさは、ベートーヴェンの交響曲第9番の精神性と同じものを感じるんです。聴きに行くわたしも、大きなイヴェントに参加するみたいにわくわく。チケットを買った1年くらい前から楽しみにしていました。マゼールさんとフィルハーモニアのマーラー・サイクルの最後を飾るイヴェントです。

ロイヤル・フェスティバル・ホールは、客席数が3000くらいの音楽ホールです。その大きさを考えれば、1000人も演奏者が必要とは思えず、実際400人程度の人数でした。オーケストラ自体も交響曲第6番を演奏するのより小さいくらい。今のオーケストラはマーラーの時代に比べて音量も圧倒的に大きくなっているでしょうから、このホールでマーラーが指定した人数のオーケストラに演奏させちゃうと、ホールの音が飽和状態になってかえって何が何だか分からなくなりそうです。でも、その分、緻密な音楽が聴けるものと楽しみにしていました。もっとイヴェント的な要素の強い演奏は去年のプロムスの初日に聴いたしね。

マゼールさんの演奏、予想してたとおり、ゆっくりと巨象の歩み。相変わらず細部にこだわるマゼールさん。ブロックごとに緩急は付けるのだけど、やっぱりオーケストラがついて行ってない部分もちらほら。マゼールさんは指揮棒の先でちゃちゃっと音楽を動かそうとするのだけど、指揮の上手い人だからそれができる人なんだけど、でもなんだか小手先で音楽を作っているみたいで、ちょっと残念。はまったとき(例えば交響曲第5番の回や第9番の回)はとってもいいのだけど、上手くいかないと音楽が上滑りしているようで、あざとく聞こえてしまう。第1部はマゼールさんに振り回された感じでなんだかよく分からないまま終わってしまいました。この音楽、じっくり腰を据えて大局的に勢いで演奏した方が上手くいくんじゃないかしらと思いました。合唱(第1かな?)と少年合唱はとても良かったです。歌手は男声陣にもっと奮起を望みたいところ。ちょっとドキドキしながら聴いてました。女声でおや!と思う人がいましたが、セイラ・コノリーさんでした。この人ほんとに安定してて、いつ聴いても安心して聴けます。

第2部は始めの部分の合唱が、言葉のアクセントの強調や、絶妙な強弱で、神秘的な雰囲気を作ってとってもステキでした。でも、惜しむらくは、やっぱり男声の独唱。少し不安定で、大好きな法悦の神父とか、もちょっと陶酔的に美しく歌って欲しかったな。女声陣の方は、第2部はずっと良くなってきて、コノリーさんだけでなく、それぞれの歌が良く聞こえました。マゼールさんの微に入り細を穿った細かな音楽作りは第2部ではとても上手くいっていました。じれったいばかりにじぃ〜っくりと音楽を作っていって、普段でさえゆっくりなのが、もう丁寧すぎるくらい丁寧にゆっくり。いろんな音が聞こえてきてなんと情報量の多いことでしょう。たった1回では聞き取れないくらい。あとになればなるほど音楽が美しく響いてきて。魂が救われて天に、光の中に上っていく様が見えるようです。静かに美しく響く音楽にうっとりしてると、突然バキバキッという音が。なんと、コントラバス奏者がひとり倒れてしまいました。ちょうどコントラバスが休みの部分で、他の奏者に抱えられるようにして(意識はあるみたいでしたから大事にはならなかったでしょう)、舞台袖に引っ込んでいく間、音楽は止まるかと思いましたが、マゼールさんは一瞬目はやったものの気にせず、オーケストラも歌もそれ以上動揺なく音楽は進んでいきました。コントラバスは結局ふたりが欠けて6人になったけれども音楽を傷つけることなく、最後まで美しい天上の音楽が演奏されていったんです。そして最後の感動的な盛り上がり。じっくりとじっくりと大切に音を心の隅々まで浸み込ませていくかのように時間をかけて奏でられます。もう、この楽章の後半の美しさと最後の豊かな音量といったら。マゼールさんのマーラー・サイクルを締めくくる本当に素晴らしい演奏になりました。演奏時間も100分を優に超え、この演奏がいかに特別なものかが分かるでしょう。

マゼールさんのサイクルは結局、2、4、6番をのぞいて聴きに行きました(何故か奇数番ばかり)。ひとりの音楽家で聴き通すことによって見えてくるものもあったかと思います。なんと言っても、好みは別にして確固たるマーラー像を持っている優れた音楽家の演奏は心に残るものでありました。指揮台のそばに用意されたお水の入ったコップも見納めなのが少し寂しい気持ちがします。
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by zerbinetta | 2011-10-09 05:26 | フィルハーモニア | Comments(0)

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