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「ロミオとジュリエット」はもう観たくない ヌニェス、ソアレス @ ロイヤル・バレエ   

13.01.2012 @royal opera house

prokofiev: romeo and juliet

kenneth macmillan (choreography)
pavel sorokin / oroh

marianela nuñez (juliet), thiago soares (romeo)
thomas whitehead (tybalt), ricardo cervera (marcutio)
jonathan watkins (benvolio), valeri hristov (paris)
gary avis (lord capulet), elizabeth mcgorian (lady capulet)
melissa hamilton (rosaline), kristen mcnally (nurse)
itziar mendizabal, olivia cowley, pietra mello-pittman (three harlots), etc.


今シーズンのわたしの「ロミオとジュリエット」始まりです。ここでもう何回も書いてるけど、「ロミオとジュリエット」は、わたしをバレエの世界に引きずり込んだ記念すべき演目。それはもう楽しみにしてました。今シーズン「ロミオとジュリエット」は、ラムさん・ボネリさん、タマちゃん・アコスタさん、コジョカルさん・コボーさん、カスバートソンさん・ポルーニンさん、マルケスさん・マクレーさん、ベンジャミンさん・ワトソンさんのペアが2回ずつ、マリアネラさん・ティアゴさん、メリッサさん・ペネファーザーさんのペアが1回ずつと広くたくさんのペアで踊られます。わたしの大好きなマリアネラさんはたった1回切り。なんでーーー

今日の舞台のイメジは、意外とカラフル! 実はこの舞台って、ときどき観るDVDのせいか、それとも前に観たときの印象か、モノトーンで暗い舞台だと思っていたの。実際そうなんだけど、でも、売春婦のリーダー(?)の服には胸に赤いワンポイントがあったり、目を惹くカラーが上手に使われてる。衣装も背景もとても精巧に丁寧に作られていてシンプルなんだけどとっても贅沢。そしてもちろん、舞台に出てくる人全員の性格付け。まさに演劇的なロイヤル・バレエの真骨頂。舞台のどこに目をやっても生き生きとドラマが展開されていて、ダンサーたちも上手に演技をします。ロイヤル・バレエのステキさは、こういう名もない役のダンサーたちに下支えされて魅力を増しているんだと思います。その中で目を引いたのは、応援してるので私情入ってるかも知れないけど、扶生さん。彼女、コールドの中にいても目を引く何かを持っていると思うんですね。それに今日は喧嘩を諫めたり、結構目立つところにいました。

今日のオーケストラはロイヤル・オペラ・ハウスのオーケストラ。指揮はソロキンさん。オーケストラからとても良い音を引き出していました。相変わらずトランペットは下手でしたけど。ところで、この曲は大編成のせいか、ステージ際の客席(コストパフォーマンスが良くて好きなエリアなんですけどね)が閉められて天井(オーケストラから見たら)を抜いていました。そのせいで、わたしの席にはホルンや木管楽器の音が客席の下からダイレクトに聞こえてきました。いつもなら控えめにしか聞こえないチェレスタが突然大音量で鳴り出してびっくりしたり、ホルンや木管楽器がオーケストラ・ピットから届いてくる他のオーケストラの音と交わらずに個別に聞こえたりで、音楽を聴くにはちょっとぉって感じ(天井を外さなければいいのに)。でも、そのせいでプロコフィエフが変な音を多用しているのが分かってそれは面白かったんですけど。。。

でも、今日の舞台はやっぱりマリアネラさん。ずーんと感動しました。泣きました。ものすごいものを観たような気がします。そしてそれは今だにじわじわと心に染み込んでいく。完全にマリアネラさんの世界で物語は動いていたと思います。踊りが上手いとかそういうレヴェルではもうない。バレエを観ているとか、物語を読んでるとか、そんなレヴェルでもなくて、完全にロミオとジュリエットの世界に共振して一体化して、そしてそれにわたしも完全に巻き込まれている。舞台の世界を客席から観ているのではなく、わたしが世界の中にいるの。わたしと舞台との間にはもう何も障害物はない。
初めにマリアネラさんが舞台に出てきたときは、あっ大っきいかなって思ったんです。シェイクスピアの物語ではジュリエットは14歳。まだほんの少女。やっと胸がふくらみ始めたくらいの。なのでわたしのイメジではジュリエットは小さな人だったんですね。でも、さすがにダンサーは自由に背丈を変えることはできないから、もしかすると、ずうっと違和感を引きずるかなっと思ったんです。でもそれは一瞬の杞憂。やっぱりマリアネラさんかわいらしい。まだぬいぐるみと遊びたい溌剌とした少女。ところがロミオと出会って電気が走って。ここからのジュリエットの成長はマリアネラさんの独擅場。そして今日のお相手は、プライヴェイトでのパートナーでもあるティアゴさん。おふたりの視線のやりとり、舞台の上での秘密の会話がなされていて、もうこれはやばいと思った。もちろん演じるダンサーは、俳優と同じように、舞台上では恋人同士でも、私生活でもそうである必要なんてなくって、というかないのが普通で、演じることの方が大事なんだけど、それでも本物の恋人同士だと自然にふたりは閃きあっちゃう。コジョカルさんとコボーさんのペアにもみられるけど、本当にそれがプラスに働くし、自然に出てしまうものだからあえて不自然に抑える必要はないのよね。で、マリアネラさんばっかり褒めているけど、実は今日はティアゴさんが輪をかけて良かったんです。
ティアゴさんってロミオのキャラクターじゃないなぁって観る前は思ってたんですよ。でも、ティアゴさんのロミオ、はまってた。ロミオって王子さまではないんですね。良家のぼんぼんだけど、優等生ではなくって、女好きの3バカトリオのひとり。でもまっすぐなところもあって。原作でも下卑たジョークを飛ばし合うちょっとやんちゃな青年として描かれてますよね。でも、ロミオもジュリエットと出逢って変わっていく。そんなロミオを上手に演じ踊って(ほんと、ティアゴさん身体が切れてました)、特に、ジュリエットとのふたりのシーンはもう涙が出そう。いえ、出てました。特に第3幕のパ・ド・ドゥのせっぱ詰まった感は、物語のテンションが最高に上がって転回点になる第2幕最後のティボルトの死の場面から一気に物語をロミオとジュリエットの悲劇に引き戻す力があって、さっき号泣したばかりの(いつもわたしはキャピュレット婦人の慟哭の踊りに心が突き刺されるんです)わたしから涙を絞り取っていく。

実は今回、マリアネラさんのことではなく、ほんとに良かったティアゴさんやマキューシオを踊ったセルヴェラさん、それから、舞台の枠(脇の誤りではありません)をしっかり支えていたキャピュレット夫妻のギャリーさんとマクゴリアンさん、乳母のマクナリーさん、それにいつものように切れのある踊りを見せてくれた売春婦のメンディザバルさんがとっても良かったので、そのことばかり書こうと思っていたんです。でも、マリアネラさんの印象がじわりじわりと心の中に占めてきて。そこからは逃げられない。

ティボルトを殺めてしまって追放されるロミオ。そこからのジュリエットの、マリアネラさんの想いと苦しみ。気が狂わんばかりだったでしょう。無理矢理パリスと踊らされる、死んだような踊り、結婚を迫られて現実を拒否して一瞬子供に退行してしまう精神、僧ロレンスの手引きで表面的には結婚を承認するものの決してパリスを受け入れない一途さ、毒薬を前にしてたじろぐ気持ち。ジュリエットの生をマリアネラさんは全力で走ったの。あまりに深い感情表現に、わたしの心臓はナイフで切り刻まれて沈んだ。動けなかった。わたしも泣いたけどマリアネラさんも泣いていた。お互い泣きながら写真を撮るのが精一杯。
「ロミオとジュリエット」はもう観たくない ヌニェス、ソアレス @ ロイヤル・バレエ_c0055376_534253.jpg


もう「ロミオとジュリエット」はしばらく観たくない。わたしの心の回復に時間が必要。わたしの心に重く沈殿する踊りを踊るのはマリアネラさんだけ。去年の「ジゼル」から、「白鳥の湖」「マノン」と心に突き刺さる踊りを見せてくれてるマリアネラさん。やっぱりわたしの一番のダンサーです。

マクナリーさん、ギャリーさん、マクゴリアンさん、フリストフさん
「ロミオとジュリエット」はもう観たくない ヌニェス、ソアレス @ ロイヤル・バレエ_c0055376_5351546.jpg

セルヴェラさん、ホワイトヘッドさん、ワトキンスさん
「ロミオとジュリエット」はもう観たくない ヌニェス、ソアレス @ ロイヤル・バレエ_c0055376_5355878.jpg

マリアネラさんは泣き笑い、最後までマリアネラ・スマイルはありませんでした
「ロミオとジュリエット」はもう観たくない ヌニェス、ソアレス @ ロイヤル・バレエ_c0055376_5363390.jpg

by zerbinetta | 2012-01-13 05:29 | バレエ

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