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どんちゃん騒ぎのカタルシス 「幻想交響曲」 MTT、ロンドン交響楽団   

24.01.2012 @barbican hall

debussy/matthews: selected préludes
debussy: fantasy for piano and orchestra
berlioz: symphonie fantastique

nelson freire (pf)
michel tilson thomas / lso


スマートでかっこいい指揮者といったらMTT(マイケル・ティルソン=トーマスさん)なんですっ!(断言)。若いうちは若い勢いでごまかせるので、姿の本質的な美しさが出る50歳以降の指揮者の中で、断然かっこいいひとりです。だから好きっ♥
音楽もスマートでかっこいいんですよ。でもだからこそ、今日の「幻想交響曲」期待していいのかなぁって不安だったんです。「幻想交響曲」ははちゃめちゃな作品なので思いっきりはちゃめちゃな演奏が好きだから。つるりとスマートなのは、CDをぼんやり聴くのはいいんですけど、音楽会では印象に残りづらくてあまり好きでないんです。あっでも、同じミドル・エイジのスマート系指揮者のサロネンさんが、思いっきり突っ切った演奏を聴かせてくれたので、もしかして期待できるかも。

始まりは、ドビュッシーの前奏曲から4曲をコリン・マシューズさんがオーケストラのために編曲したもの。淡い色合いでいい感じなんだけど、吉松隆さんの曲を無限リピートされるとか、マリー・ローランサンの絵ばっかし際限なく見せられたような気がして、ちょっと飽きた。ドビュッシーのピアノ曲からのオーケストラへの編曲は初期の「小組曲」なんかはとても上手く行ってると思うのだけど、後期の曲は、ピアノ曲自体が減衰する音のモノトーンの陰影の繊細さに重きが置かれているような気がするので、オーケストラにしちゃうとかえって色が付いてべたべたしてしまうように感じました。1曲ふっと聴く分にはいいのだけどね。一所懸命続けて聴くのには多すぎる感じ。

ドビュッシー自身が完成させた初期の作品、ピアノとオーケストラのための幻想曲は、とてもロマンティックでパステルカラー。初期のドビュッシーがロマンティックな面を強く持っていたことを感じさせます。こんな曲があるの全然知らなかった。でも、これは「小組曲」のドビュッシーらしいステキな曲。もっと演奏されて良い曲ですね。MTTとロンドン・シンフォニーは綿菓子のように柔らかく甘やかに演奏してくれました。こういう柔らかな音色はロンドン随一のオーケストラですね。

最後にいよいよ「幻想交響曲」。ううむ。わたしはアグレッシヴな演奏が好みだからなぁ。柔らかく美しい演奏では。。。と思ったのもつかの間、始まってみると胃に重りを入れられたような焦らされ方。ゆっくり目のテンポではあったと思うのだけど、全体的にゆっくりと言うよりもつなぎの部分で大きくテンポを落として焦らしていくの。そしてゆらゆらとたゆたうような音の揺らぎ。ホルンのソロが、わたしの知ってる楽譜どおりではなくて、ゆらゆらと揺れるように吹いてみたり(あとで楽譜を見たら、こちらが楽譜どおりだった。今まで気がつかなかったなんてなんてぼんやりしていたんだろう)。なんだか幻覚の世界にわたしもいってしまった。薬をやったらこんな感じになるのかしら。速い部分になっても、やっぱりつなぎの部分は大きくテンポを落として音楽が決して流れない。そして、極端な強弱のコントラスト。これを真綿で絞められるようにやられるんだからたまったもんではないわよね。
第2楽章は、ハープが2台、コルネットは入らないのが残念だけど、夢見るような柔らかさで、地上から浮いている。MTTやるなぁ。歌わせ方がものすごく丁寧で、縦の線にはあまりこだわらずに横の流れを重視している感じ。明滅する現実と非現実の境界線が滲んでく。
そして野原に放り出されて夢見心地に聞く牧人の笛。トリスタンな感じ。遠くで応えるオーボエは、ステージの後ろで吹いていたのかしら。殺伐な音楽なんだけど、殺伐にはなりすぎずに丁寧に歌うし、弱音が美しいのがもうステキ。それにしても木管楽器もホルンもピアニッシモが、極限までに小さいのに音の芯は保って音が生きているのが神業。ティンパニの4重奏は、びっくりするような大音量ではないこそ、遠くでなる雷鳴が絶妙で、この楽章の奥行きの深さ、遠近感はなかなかでした。オフ・ステージのバランスって結構難しいのよね。

第4楽章は、今まで待たされていた金管楽器が、ここぞ、という輝かしい響きで見事。刑台へ歩むどろどろ感はなかったけど、きちんと爆発して、でも、音楽の枠をはみ出さない、そこが物足りないと感じる人もいるだろうけど、非常にきちんと音楽的な演奏。MTTはやりすぎないんだけどきちんとやることやってるみたいな、非常に見事に計算し尽くされたバランス。過不足ないってこういうことを言うんでしょうね。そして間髪入れずに始まったトレモロ。第5楽章の魔女の饗宴はおどろおどろしさがなくてとっても楽しげ。今までの現実と非現実の曖昧な幻想の中でゆらゆらと揺れていたのが、肉体から解放されて一気に死への実存的な解決をしたら、もうなんだか突っ切っちゃって、楽しくて楽しくてたまらない感じ。「帰ってきた酔っぱらい」の世界。天国良いとこ一度はおいで。みたいな。トンネルを抜けると光り溢れる死後の世界だった、なんてたまらないカタルシスですよね。胃の中に詰まっていた重りが一気に消失して、心も軽く飲めや踊れの音楽的饗宴はうんと楽しかったです。MTTこう来たかって感じ。これまた新鮮な「幻想交響曲」でした。

PS ステージ上にチューブラベルがあったんだけど、第5楽章の鐘はステージの後ろで鳴らしてましたよね?

by zerbinetta | 2012-01-24 10:01 | ロンドン交響楽団

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