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チェロの人♡ アリーナ・イブラギモヴァ、古楽アカデミー 「協奏曲の夜明け」   

27.02.2012 @west road concert hall, cambridge

biber: passacaglia from the rosary sonatas
js bach: sonata bwv1016; concerto bwv1041
vivaldi: concerto for violin 'l'inquietudine'; concerto for 2 violins & cello
biber: battalia
js bach: concerto bwv1042

alina ibragimova (vn) / academy of ancient music

そうですわたしはアリーナのプチ追っかけ。例え地の果て海の果てでも、とはいかないけれども、ご近所で音楽会があれば逃さず行きたい、聴きたい。というわけで、ウィグモア・ホールであるアリーナがリードする古楽アカデミー(アカデミー・オヴ・エンシェント・ミュージック、AAM)の音楽会の発売を今か今かと待っていたのに、一般販売される前に敢えなく売り切れ、ぐわんと悲しんでいたら、この音楽会、イギリス国内でツアーをするではないですか。というわけで、ご近所のケンブリッジで開かれる音楽会のチケットを勢いですぐ取ったのでした。これも売り切れになったみたいです。アリーナ人気、凄し。

ケンブリッジは物心ついてから、初めて行く町。初めての夜一人歩きです。会場は、町を挟んで電車の駅の反対側にあって(ヨーロッパの古い町の常、電車の駅が城壁の外側、町の外にあります)、駅から歩いて40分ほどかかるようです。バスはなし。グーグル・アースで見ると道はなんだか畑の中を行くみたいで、暗そうで大丈夫かなぁとケンブリッジ住まいの友達に聞いたら大丈夫だって。道間違えない?と言ったら、ここには大きな教会があるから大丈夫だって、と歩いてみたら、確かに学生の街なのでなんだか大学の中を歩いてるみたいだし、ってか辻辻に教会があって、大きな教会ってどれよ?  プリントしてきた地図を逆さまに見たりしながら何とか無事に会場へ。それにしてもケンブリッジの町はいい感じ。わたしがまだ高校生だったら絶対ケンブリッジ大学に行きたい。ここで学生をしたい。そんなことを思わせる町です。
会場のウェスト・ロード・コンサート・ホールは、明るくてなんだか大学の講堂みたい。そしてお客さんも大学町だけに、大学の先生風の人多し。なごむ〜。

始まりはアリーナのソロでビーバーのパッサカリア。小節の頭にひとつづ置かれた4つの単純な音を繰り返しつつ(パッヘンベルのカノンの伴奏みたい)、変奏を入れていく音楽だけど、さすがに後のバッハやブラームスのシャコンヌに比べたら単純。なのでお終いの方はちょっぴり飽きも来たんだけど、アリーナの演奏はさすが素晴らしかったです。シャコンヌの主題をしっかりキープしたまま、変奏のパートを混じりなく弾き分けて、バッハの無伴奏もそうですけど、こういう弾き分けが丁寧でとっても上手い!
今日は古楽アカデミーとの共演ということで、アリーナはバロック・ヴァイオリンを弾いていました。もともとアリーナは古楽にも興味があるみたいだし、彼女のチアロスキュロ・カルテットでもバロック・ヴァイオリンを弾いてるので、バロック・ヴァイオリンを手にするのは自然なことなんでしょう。実際、現代楽器で弾いていたバッハの無伴奏ともシームレスでつながるような演奏でした。彼女にとって現代楽器だから、バロック楽器だからという違いよりも音楽の表現の自然さの方が大切なんでしょうね。古楽器だけど低音がとってもふくよかで艶やか。ちょっと色気を感じました。

バッハのソナタは、ビヨンディさんの弾いたCD(これがむちゃかっこいい)を持っていてそれがわたしのこの曲に対するイメジを決定づけてるのだけど、アリーナの全然違った。というのがわたしの最初の間抜けな感想でした。アリーナのヴァイオリンは奇をてらうことなく実に自然体で、彼女のスタイルの囁くようなバッハ。もう少し歌ってもいいかなとも思いましたが、聴き進んでいくとこれもいい。ハープシコードを弾いたロスさんも的確に伴奏を付けていきます。バッハのソナタって意外なことに、ヴァイオリンとハープシコードのバランスが良くって、どちらが主ってことなく、対等に音楽を奏でるんですね。バッハのソナタ、全部聴いてみたいと思いました。

そしてメンバーがぞろぞろ出てきて、今度はバッハの協奏曲。ヴァイオリンとヴィオラは立って演奏、チェロは足に挟むスタイル。アリーナが弾きながらリードするんだけど、最初のみんなで出るところを合図するだけ(もちろん曲の中で目で合図することもあるけど)。もちろん練習で、自分のやりたい音楽を伝えてると思うのだけど、アンサンブルは、第1ヴァイオリンのリーダーを観たり、チェロの人を見たり、ハープシコードの人が合図したり、古楽アカデミーの人たちって自発的に音楽を奏することができる人たちなんですね。アリーナもこれは弾きやすいでしょう。なんだか観ていて聴いていてアンサンブルの楽しさが伝わってくるようです。バッハの協奏曲もそんな音楽の合奏することの楽しみに満ちた演奏。バッハってわたし、なんだか難しくて苦手意識があったんですが、これを聴くと楽しい音楽なんだなって素直に思えた。なんでわたしバッハ苦手だったんだろう?

休憩のあとは、まずヴィヴァルディが2曲。ヴィヴァルディはエンターテイナーですね〜。ソリストには聴いてる人にあっと思わせるようなアクロバティックな聞き所をちゃんと用意してるし、何しろ音楽が素晴らしい。それに、ソリストと言っても、バロックの協奏曲ってソリストをひとり前面に出すのではなく、アンサンブルの中からすうっと浮き立たせる感じなので、合奏している感じが強くて好き。最初のヴァイオリンのための協奏曲も良かったけど、2つめの、2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲がうんとステキだったの。何がステキだったかってチェロ。違った、いや違わないけどチェロの人。もう彼の表情が面白すぎてステキすぎ。アリーナが弾いてるとき、恍惚とした表情をしてみたり、やりっ!って表情をしてみたり、客席をぼんやり眺めてるようにしたり、眉毛を動かしたり、ほんとに表情が豊かでうんと音楽を楽しんでる。わたしはアリーナを観に、じゃなかった聴きに来たのに、うっかり彼に目を奪われてずうっと彼ばかり観てました。それに、ヴィヴァルディの音楽ってまさにそんな音楽なんです。合奏するヨロコビに満ちていて楽しい音楽。もちろん彼のチェロは、ヴァイオリンほど目立たないけど、来て欲しいときに来る心地よさ。アリーナもこういう音楽やりたいのよく分かります。

そしてさらに楽しかったのが、ビーバーの「バッテリア」。戦いの音楽? 最初は普通に始まったんです。ああ、普通の協奏曲が始まるんだなぁって思っていたら。1673年の作品なのに、コルレーニョ(のような)が出てくるし、バルトーク・ピチカート(のような)のも出てくるし、楽器を弓とか手で叩いて楽音じゃない音を出してみたり(チェロの人、あっちゃんと名前で言おう、クロウチさんはこれまた楽しそうに足を踏み鳴らしてました)、ほほほ〜と笑顔になって、第2楽章だったかな(第3?)、ヴァイオリンからひとりずつソロで音楽を奏で始めると、次々に入ってくる人がてんでバラバラに音楽を弾き始めて、まるで現代音楽。そして、クロウチさんがなにやら紙を楽器の指板と弦の間に挟んで小細工。何遊んでるのかなって見てたら、立ち上がって楽器を弾きながら、アリーナと一緒に会場を歩き始める。チェロは太鼓のような音で、ヴァイオリンはフォークソングのような音楽で、会場を歩くのは、なんだかハーメルンの笛吹みたい。舞台に戻って、また普通の合奏になって、音楽はちゃんと閉じたのでした。面白かった!

最後はまた、バッハのヴァイオリン協奏曲でしめて、楽しかった音楽会は終わったのでした。それにしても、このくらいの広さ(500人くらいかな)の会場だと、バロックの楽器はとても良く聞こえるし、紙を破るような音はとっても心地いい。古楽器の弱点(音が小さいとか響きが弱いとか)を全然感じずに、良さばかり感じられました。
そしてチェロのクロウチさん♡ 本当に表情豊かに楽しそうに演奏していて、眉間にしわを寄せる演奏スタイルのアリーナにもちょっと笑顔増量って思っちゃった。あっもちろん、ところどころでかわいい笑顔で弾いていたんですけどっ。
ウィグモア・ホールのも行きたかったけど、ツアーのどの会場もソールドアウトになったみたいで、今日だけでも聴けてラッキーでした!

by zerbinetta | 2012-02-27 09:00 | 室内楽・リサイタル

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