天才には天才。そしてカウベル・オーディション リシエツキ、ビエロフラーヴェク モーツァルト、マーラー   

09.03.2012 @barbican hall

mozart: piano concerto no. 20
mahler: symphony no. 7

jan lisiecki (pf)
jiří bělohlávek / bbcso


ビエロフラーヴェクさんがBBCシンフォニーと毎年ひとつずつ採り上げてきたマーラーの交響曲、第5番、第6番に次いで今日が第7番です。毎回とっても素晴らしい演奏を繰り広げてきたので(特に第6番は良かった)、期待もしていたのですが、あっけらかんとした都会的なスマートなセンスと色合いをこの曲に求めるわたしはちょっぴり不安もあったの。ビエロフラーヴェクさんのごつごつとした感じの手作りの音楽がわたしの好みに合うかなぁって。

答えの前にまずモーツァルト。人気曲(いったい何回聴いた?)、ニ短調のです。ピアノは、ヤン・リシエツキさん。名前も初めて知る方です。出てきたら、若いっ!! すらりと背が高くて、細身の黒のネクタイ(銀色の細い線入り)のルックスが高校生みたい。年齢的には高校生なんですけど。もうすぐ17歳!わたしは学級委員長タイプ(但し、もろ優等生タイプではなくちょっと悪もあるリーダー・タイプ)と思いましたが、小田島久恵さんは子鬼と称していて、ああぴったりだ〜と思いました。
黒雲が湧き上がってくるような不安な気分を音に含みながらオーケストラが弾き始めると、いきなりモーツァルトの短調の世界。モーツァルトは彼の時代に即して短調の音楽をあまり書かなかったけど、いつもこの音楽の冒頭にはドキリとさせられる。ビエロフラーヴェクさんとBBCシンフォニーもとても良い雰囲気出してたしね。
そしてピアノ。びっくり。何も足さず何も引かずシンプルきわまりないモーツァルト。この歳の若者なら自分が自分がと何かをしたくなるような気もするのだけれども、そんなことには一切荷担せず、純粋にモーツァルトと天才同士の会話をしているみたい。だから一見、なんでもない演奏にも聞こえるんだけど、知らず知らずのうちに聞き入ってしまう演奏。わたし味音痴でおいしいものとか分からないのだけど、本当においしいものは、例えば日本に帰ったとき食べるお米のように、おいしいと分からないうちにたくさん食べてしまう、そんなところがあるのだけど、そんな感じの音楽。上善如水というお酒ありますよね。それと同じ(かな)。
音楽は、高校生っぽいところの全くない、なんだか達観したような成熟した大人でしたが、アンコールにモーツァルトをもう1曲と大声で言った声は、まさしく高校生のまだ大人になりきっていない声。おねーさんときめきましたよ。細かいことだけど、カーテン・コールのとき、彼ひとりで2回出てきて最後にビエロフラーヴェクさんと一緒に出てきたからアンコールはなしかなと思ったら、いきなりアンコールを弾きますと言い出して、ビエロフラーヴェクさんも一瞬きょとん。セカンド・ヴァイオリンの空いてる席に座って、オーケストラの人とにこやかに言葉を交わしてる感じは、ほんとにこの人とオーケストラの間が上手く行ってるんだなって感じさせるものでした。
アンコールはトルコ行進曲。超絶の方ではなくてオリジナルのです。こちらは、まだちょっと青いかなって思いました。でも、ステキな若い男、じゃなかったピアニストを発見して嬉しいわたしでした。かぶりつきで見たかったわん。

休憩のあとはマーラーの交響曲第7番。もの凄くマイナーな曲なのに、マーラー・イヤーとも重なって、ロンドンでこの曲を聴くのは、4回目です。人生では6回目。
はじめに書いたように、ビエロフラーヴェクさんの演奏は、ごつごつとした手作り感のある重めの音楽でした。あっこれは、巨大な鉄のかたまりを動かすような、重さとエネルギーのある音楽だった交響曲第5番の演奏のときに感じたものだ、と思い出しました。これは確かにわたしがこの音楽に求めるものではないのですが、真摯な音楽作りに感心したし、納得して、こういうのもステキって思えました。オーケストラは若干ミスが目立ったものの(やっぱりかなり難しそう。しかもその難しさが第6番みたいに素直じゃなくてひねくれてるっぽい)、オーケストラは良く鳴っていたし、聴くじゃまにはなりませんでした。
第1楽章は特に重々しく、主部のホルンの主題なんかは、ゆっくりで、重いゴムを引き切って前に進むような粘度の高さがありました。暗い夜の情感。死に神と隣り合ってる世界。マーラーのチェコでの幼少時代の幻影を引きずっているようです。ビエロフラーヴェクさんもチェコの人、この曲が初演されたのもプラハ、何か共通の根っこというか共感があるのでしょうか。ビエロフラーヴェクさんの演奏は、マーラーの音楽をとても良く知っている人の演奏、という安心感があります。新しい感覚のマーラーではないですが、地道にたたき上げた人のカペル・マイスター的な音楽のように感じます。今どきはかえって珍しい感じで、でも好きです。

第2楽章は元気な行進。タイトルは「夜の歌」だけど、音楽は実際そういう感じではないよね。ということを潔くはっきり聴かせてくれた感じ。音楽の本質をタイトルに惑わされずに捉えてると思いました。ときどき長くて退屈しちゃう演奏もあるけど、これはちっともそうではなかったのも吉。やっぱり良い演奏はぐいぐいとわたしを引き込んでいきます。第3楽章の不気味な感じも第4楽章のマンドリンとギターが良く聞こえた(マイク通してないのに)セレナーデも、奇をてらった感じじゃなくてとっても普通(でも、この曲だと何が普通なのか分からなくなりますね)な感じなのに、音楽に聴き惚れてしまうんですもの。この曲が好きだというのもあるけど、ビエロフラーヴェクさんとBBCシンフォニーの演奏の質の高さゆえでしょうね。

第5楽章は第4楽章に続けてではなくて、咳をする間をあけて始まりました。ティンパニのどんちゃん騒ぎと高らかな金管楽器のファンファーレ。この楽章、脈絡のない、とっても弱いフィナーレという評価もあるけど、今日の演奏はそういうことをちっとも感じさせません。むしろ音楽の圧倒的な大きさがそれを凌駕しているように思えるし、歓喜が自然に爆発しています。多分この音楽に例えば暗から明へみたいなストーリーなんていらない。5つの性格の異なる音楽という古典的な交響曲なのではないかしら。ハイドンやモーツァルト交響曲にストーリーを付けて演奏することがナンセンスなように、マーラーのこの曲だってそういうあり方もありに違いない。そして最後は、喜んで華やかに終わろうよ。

終わったあとのオーケストラとビエロフラーヴェクさんの満足そうな表情が印象的でした。

そうそう、マーラーの交響曲(第6番と第7番)といったらカウ・ベル。珍しい楽器なので理想の演奏家を探すのも大変みたい。ジンマンさんとトーンハレのカウベル奏者探しのドキュメンタリーです。ドイツ語分からなくてもおもしろいよ。
http://www.youtube.com/watch?v=y8RdzgB2Mug&feature=youtu.be
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by zerbinetta | 2012-03-09 07:43 | BBCシンフォニー | Comments(0)

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