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新緑の木漏れ日の中へスキップしたいブルックナー ハーディング、ロンドン交響楽団   

12.04.2012 @barbican hall

schumann: piano concerto
bruckner: symphony no. 6

nicholas angelich (pf)
daniel harding / lso


ロンドン・シンフォニーの主席客演指揮者のハーディングさん。今シーズンは、たった1回。ブルックナーの交響曲第6番です。実は、秘かな6番好き。ハーディングさんのブルックナーは去年の第7番が好印象だったので楽しみに出かけました。

はじめはシューマンのピアノ協奏曲。何回か聴いたけど、なかなか好みの演奏に出会えない曲のひとつです。わたしとしては、立派な音楽ではなくとろけるような夢の中に浸りたい音楽なのです。だから、偉大に演奏されちゃうとちょっと困る。。。
アンゲリッチさんは、前に聴いたことあったような。そうだ、ゲルギーとブラームスの協奏曲演った人だ、と思ってこれ書き出して自分のブログを検索してみたら違った。あほ。名前がごっちゃになってる。ロンドン・フィルでネゼ=セガンさんとベートーヴェンの「皇帝」を弾いた人でした。とっても大っきな人で、そうだ、この前のネゼ=セガンさんも小さかったし今日のハーディングさんも小さいので、小っさな人好きなのかしら。で、この人の、シューマン、もうとろけるように崩しまくるんです。それがいいっ! メロディが伸縮自在で、ふっと力が抜けて音が宙に放り出されたり、夢とうつつの境界線が滲んで、うっとりと夢の中にいるよう。時間がとろけて茫洋として、自分がどこにいるのか分からなくなって時間の中で迷子になる。そうなんです。こういうシューマンが聴きたかった。漢字を崩して柔らかくしたひらがなみたいな。ひらがなの緩やかさ、丸みが好き。そういう音楽だと思うの、シューマンって。ハーディングさんとオーケストラもそんなピアノに寄り添って、音楽の時間を伸び縮みさせる。かなりユニークな演奏だと思うけど、意をくみ取って痒いところに手が届くように音楽を付けていくのは流石。この上手さには舌を巻く。ピアニストとオーケストラが混じり合う幸せ。
はっと起きて休憩。

ブルックナーの交響曲第6番ってブルヲタさんから見れば例外というか、ちょっとブルックナーっぽくないかも。というか、ブルヲタさんの間でもマイナー確定で、敬遠され気味の曲。なぜ?こんなブルックナーらしからぬいい曲なのに。
そしてブルックナーっぽくないブルックナーならハーディングさん。前に聴いた第7番もマルカートっぽい演奏で、ブルヲタさんの失笑を買ったとか(いえ想像です)。でも、わたしは、もうそろそろ旧態依然のブルックナー卒業しようよ、と思ってるので、とっても好印象だったのです。そしてそのやり方は、第6番でばっちり生きて。
もう本当に軽くって(誰がブルックナーを軽いなんて形容したでしょう)、うきうきして、新緑の奥入瀬渓谷(ちょっと具体的すぎ?)の木漏れ日の中へスキップしていきたい感覚。スキップするブルックナー。ああ、ブルヲタさんたちの苦々しい顔が目に浮かぶよう。ほんと、軽くて軽快なヴァイオリンのリズムだけじゃなくて、主題の方もてきぱきと短めの音符で跳ねている。もちろん、ハーディングさんの演奏は脳天気にスキップするのではなく、絶妙な緩急を自在に付けてとても丁寧に音楽をなぞっていく。なんてうきうきする音楽。

第2楽章はゆっくりと優しく、静かに歌う。夢のように。実は前半のシューマン、音楽の設計は、アンゲリッチさんで、ハーディングさんはアンゲリッチさんの音楽にオーケストラを寄り添うように弾いていたと思ってたんです。協奏曲では、独奏者の音楽に合わせる指揮者が多いですから(指揮者よりも独奏者の方がその曲をたくさん弾いているので音楽を良く知っているからとスラトキンさんはおっしゃっていました)。ハーディングさんはもっとかっちりした音楽をする人じゃないかと。ところがそうではなかったんですね。この第2楽章はまさに、シューマンの延長。音楽が伸び縮みして、時間が溶けていく。夢の世界に彷徨って時がなくなった感じ。いつまでも音楽が続いているよう。なんていう幸福感。最後の静けさは、まるでジークフリートの牧歌のよう。最後の部分の美しさ、幸福感と言ったらもう、とろけるようにうっとり。

またまたスキップするような現実に戻って、スマートでセンスの良いスケルツォ。ハーディングさん、ますます冴えます。トリオのおどけた感じもますますブルックナーっぽくなくてステキ。
そして圧巻のフィナーレ。スキップの足はますます高く上がります。そして、「トリスタンとイゾルデ」のテーマが引用されるときふっと時間が止まって、また、迷い道に迷い込む。なんてステキな喪失。音楽をふわっと留めたハーディングさんのマジック。この音楽は愛なんだわ。ブルックナーにも好きな人はいたのかしら?この演奏を聴いたら、彼にも好きな人は絶対いたって断言できる。
そして最後はもう楽しくって、全速力で春のお日さまの中へスキップ。スマートでかっこいい、えっ?まだそんな古いブルックナー聴いてるの?って旧式にはっきりとでも自然に別れを告げる演奏。
ブルックナーも草葉の陰から喜んでいるのではないかしら。博物館のミイラのように包帯をがんじがらめに巻かれていたところを、包帯を取り去って命の水に満たされて光りの中を自由にスキップできるのですから。
新緑の木漏れ日の中へスキップしたいブルックナー ハーディング、ロンドン交響楽団_c0055376_6563882.jpg

by zerbinetta | 2012-04-12 06:52 | ロンドン交響楽団

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