幻想遊園地 アシュケナージ、フィルハーモニア ショスタコーヴィチ13   

24.05.2012 @royal festival hall

prokofiev: piano concerto no. 3
shostakovich: symphony no. 13

nobuyuki tsujii (pf)
sergei aleksashkin (bs)
vladimir ashkenazy / philharmonia voice, po


今日の音楽会、もうずうっと待ち望んでいました!タコ、交響曲第13番、通称「バビ・ヤール」。わたしの最も大好きなタコの交響曲。そして滅多に演奏される機会のない音楽。これを聴かずして、今シーズン何を聴くかってくらいです。実はワクワクしすぎて2月頃から、今日の音楽会だったかしら、なんてプログラムを見たりしてたのでした(2月か3月の音楽会だと思ってた)。

でも、世間的には辻井伸行さんのピアノなんですね。タコで舞い上がってるわたしには、彼のピアノは眼中になかったんだけど(なんて失礼な!)、でも、聴いたら、凄い!素晴らしい!彼、とっても人気みたいなんだけど有名な人だったのかしら。もちろん、日本では有名なのは分かるのだけど、こちらの人にも人気みたい。経歴を見ると、ヴァン・クライバーン・コンクールで優勝しているんですね。23歳、むちゃ若い。
辻井さんって目が見えない人だったんですね。アシュケナージさんのサポートでステージに出てきた彼は、小柄で丸顔。アシュケナージさんにピアノの位置を示してもらって着席。音楽が始まる瞬間ってドキドキしますね。特に初めて聴く若い音楽家さんだと。

辻井さんの音楽は、わぁびっくり!わたしの予想に反して、ロマンのひとかけらもない音楽。曖昧なもの、感覚的なものを一切排して、全ての音が物質的な質量を持って実存している。全ての音の存在理由を説明できる音楽。しかもそれを徹底して容赦なく音にしている。彼の中にはどんな音が、どんな音楽が響いているのだろう。彼は視覚を失っているけれども、それは大多数の目の見える人に合わせて作られた社会では不便なことも多いと思うけど、決して世界は彼の中で狭まっていない。多分彼は目が見えない代わりにそれを凌駕する、多分わたしたちの知らない感覚を研ぎ澄ませている。それはわたしたちが目が見えるという感覚と同じように自然に当たり前のこととして。わたしは、目が見えるし、耳も聞こえ、匂いもかげる。でも、わたしの世界は、浅く、音楽の感覚において辻井さんの足元にも及ばないと感じました。ぼんやりと見て、聴いて、世界の遠くが見えていない。それにしても、音楽の全てを耳で、体で感じるのってどういう世界なんだろう。わたしなんて見えないと、音楽が全ては聞こえないと感じているのに。幾何学模様のような楽譜の美しさも全て音に還元してしまうのだろうか。なんだか、果てしない未知の世界へ誘われるようで、これからも辻井さんの音楽を通してその世界へ冒険してみたいと思いました。彼の、ラフマニノフも聴いてみたいなぁ。ロマンティシズムを拒絶したラフマニノフ、どういう風に響くのだろう?それともいくらかロマンティックに弾くのかしら?

と考えていたら、アンコールにもラフマニノフの前奏曲。ふふふ、やっぱりロマンのかけらもない。音楽がロマンティックに書かれているので、それ風には聞こえるのだけど、彼はそういうところに立っていないです。これはますます、彼のラフマニノフの大作、聴いてみたくなりました。
人柄ですかね。アシュケナージさんが、ずっと辻井さんのことをあたたかく見守っていたのが印象的でした。そして、お茶目な彼は、指揮棒を横向きに口に咥えて、ずっと拍手していました。いや、そこまで笑わかせてくれなくても♪

前半だけでうっかり十分満足しちゃったけど、わたしのメインは後半。タコ13。実はアシュケナージさんのタコの交響曲、1枚か2枚CDを持っていて、意外に好きなのです。世評は高くないんですけどね。
演奏は素晴らしかったの一言。初めて聴くし、これから先2度と再び聴くことができるかあやしい曲なので超興奮してるんだけど、それを差し引いても(上手く差し引けてるかは自信ないけど)、素晴らしい演奏。まず、オーケストラが上手い。特にチューバは神がかってた。それにバスの独唱のアレクサシュキンさん。鬱々とした歌で、タコの世界を表出。文句なしです。男声合唱は少数精鋭だけど、意外と低音が良くてフィルハーモニア・ヴォイス、やるじゃないって思いました。
この音楽、始まりから終わりまでものすごく鬱々しています。聴く方もかなり気持ちの強さが必要で、でないと鬱々の底なし沼に足を取られてしまいます。わたしがもうこんな気持ちなのに、これを練習してきたオーケストラの人たちは、沈んだ気持ちにならないのでしょうか。練習している間に世を捨ててみたくなっちゃったり。そんな圧倒的な力を持つ音楽だけど、アシュケナージさんは、かさかさと乾いた感じじゃなく、艶やかな潤いを持って音楽を奏でていました。すべすべとしたタコ。これはCDで聴いた彼の他のタコの交響曲と同じ感じです。それがわたしには好ましい。といっても決して甘い音楽ではなく、胃の腑に鉛を飲み込んだような重暗い気持ちになります。
だからこそお終いの方でフルートの旋律が聞こえてきたときは涙。遊園地の音楽。子供の頃の夢。ショスタコーヴィチは、子供時代の無条件で安らぎのある夢の中に、特に後期の交響曲作品において退行する傾向があるのではないかと思います。何かそこに安住の地を求めるような希求がときどき音に聞こえて。最後の交響曲の第1楽章とか最後の部分なんてまさにそれですよね。でも、その気持ちにはとっても共感できる。わたしも、子供の頃の幻の遊園地で遊びたい。それがわたしにとっての永遠の憧れだから。絶対に届かない憧れ。最後の部分で涙が止めどもなく溢れるのは、わたしもそれを強く強く求めているからでしょう。そしてその幻が音楽の中に聞こえるから。でも、音楽の中の遊園地はどうしてか雨が降ってる。そして、ひとりわたしがぽつり。ひとりぼっちの孤独が憧れの裏側にへばりついてる。幻は共有できないのかな。ショスタコーヴィチはわたしにそれを見せてくれたけど、彼はもうそこにはいないんだ。この気持ちはしばらく後に引きそうです。
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by zerbinetta | 2012-05-24 09:01 | フィルハーモニア | Comments(4)

Commented by M. L. Liu at 2012-06-10 12:57 x
Hi! I am American. I happened upon this blog post on the Internet. Thank you for a thoughtful and well-written post.

I am a huge fan of Mr. Nobuyuki Tsujii, and i was at the May 24 concert in the Royal Festival Hall. That performance of Mr. Tsujii was astonishing, and widely praised, as you can see on this page on my web site for his international fans
https://sites.google.com/site/nobufans/nobuyuki-tsujii-plays-prokofiev-s-concerto-no-3

I may have misunderstood you, but I believe you wrote that the playing of Mr. Tsujii does not have romanticism. Quite to the contrary! You should have been at another of his concert in Bristol, England, on the 29th, where he performed Chopin's Piano Concerto No. 1 with Maestro Ashkenazy and the Philharmonia - see http://bit.ly/Kqlxes

Mr. Tsujii is an extraordinary pianist, even disregarding his blindness.

Commented by YU at 2012-06-10 23:13 x
つるびねったさんこんばんは。
辻井さんはロンドンでも弾いていらっしゃるのですね。
ロマンのひとかけらもない音楽・・お師匠さんの影響も少しはあるのでしょうか。。?
私も音楽はまず楽譜ありきなので、聴音や耳コピーの次元だと良いのですが、音楽づくりにおいては私には到底想像がつかない世界なのだろうと思いました。 いつか彼の演奏聴いてみます。

ショスタコーヴィチの13番どんな曲だろう?と思って聴いてみたら、そんな気軽に聴ける音楽ではありませんでした。
感性と知性を磨いてまた再挑戦させてください 笑
こちらでは自分の狭い音楽嗜好を広げていただけるので、いつも感謝しています♪
Commented by zerbinetta at 2012-06-10 23:20
hello m.l. liu-san!
thank you for visiting my blog and leaving a comment.
wow, you can read japanese!
i'm totally agree with you that tsujii-san is one of the greatest pianists in his generation. i actually deeply moved from his brilliant performance of prokofiev as well as rachmaninov. in my feeling his music is quite logical and i felt he refused romantic rendering of the music. he might be able to explain every note of the music in his words or his playing (more natural for him). there are no obscurity moments which some romantic interpretation involves. this never means his music is not emotional. (definition of romantic is so difficult and ロマンティック sometimes has negative sense in japanese).

i do not care whether he is blindness or not. just a fact is that he is a great musician in all senses.
Commented by zerbinetta at 2012-06-11 07:24
YUさん、こんばんは。
辻井さん、ロンドン・デビュウです。大成功でした!
本当に彼の演奏は一粒一粒音がクリアで、決して曖昧なところのない演奏でした。彼が感じている音楽は、わたしが今まで聴いたことのないもので、彼のいる世界に興味を持ちました。日本で演奏することも多いと思うのでぜひぜひ聴いてみてください。

タコ13は気軽には聴けないです。わたしもかなり気合いがいるし、聴いたあとはぐったりします。5番6番9番8番4番くらいから順番に聴いてみたらいかがでしょう。

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