赤いハリネズミでシューベルティアーデ キアロスクーロ・カルテット   

26.05.2012 @the red hedgehog in highgate, london

mozart: adagio and fugue, k.546 quartet, k.428
schubert: quartet 'rosamunde', d.804

chiaroscuro quartet
alina ibragimova, pablo hernán benedi (vn)
emilie hörnlund (vl), claire thirion (vc)


赤いハリネズミをご存じだろうか?(なんだか偉そうな口調) ブラームスが通っていたというウィーンにあった居酒屋レストラン。同じ名前のサロンがロンドンにもあるのです。アリーナのウェブサイトをぼんやり覗いて、コンサート情報を見ていたら、なんと!ロンドンでキアロスクーロ・カルテットの音楽会が!場所は、赤いハリネズミ。調べてみるとどうやら家の近く。これは行かなければ。で、持っていたバレエのチケットはリターンに出して、チケット買ったのです。でも、不安は、赤いハリネズミの正体がちっとも分からなかったこと。最初は教会か何かだと思ったんです。教会での音楽会はよくあるから。でも違うっぽいしライヴハウスか何かかなと。若者ばっかりでどうしようとか、不良に絡まれて手籠めにされたらどうしようとか、そんな妄想を膨らませて出かけました。

ロンドンの赤いハリネズミ、外見は小劇場風。おずおずと入り口の扉を開けて入ってみると、うわわっ!なんと受付のところにアリーナ!彼女が受付をしてたわけじゃないんですけど、なにやら準備をしてたみたいです。いきなりヨロコビの大爆発。
会場は、普通の家のリビングのような部屋。椅子の他にもソファがあって、40人くらいでいっぱいになります。なんていう贅沢な空間。来ている人は近所の音楽好きと、カルテットのメンバーのお友達。とっても親密な雰囲気。主催者の人に聞くと、個人的にサロン・コンサートとかを催してるそう。100年200年前はみんなこんな風だったと。シューベルティアーデもきっとこんな感じだったんでしょうね、とわたし。そんなステキな雰囲気の中、大好きなアリーナのカルテットが聴ける最高の贅沢。お客さんが三々五々集まると同時にカルテットのメンバーも楽器を背負ってやってきます。皆さん私服。アリーナが一番早く来て準備してたってことはやっぱりこのカルテット、アリーナがリーダーなのかな。

着替えるのかなと思ったら、私服のまま演奏。こんなこともなんだかステキ。服装にも個性が出て、アリーナは黒の襟なしブラウスに黒のロング・スカート。紅一点じゃなかった白一点(?)のパブロさんはジーンズにシャツ。チェロのクレアさんが一番フォーマルっぽくて黒のパンツ・スーツ。不思議ちゃんなのが、ヴィオラのエミリーさんで、アースカラーの提灯みたいなスカート(ちょっと奇抜)、かワンピースに長いストール。森ガール系。

主宰のマダムの短いイントロがあっていよいよ音楽。アリーナが曲目を紹介して、初めはモーツァルトの「アダージョとフーガ」。今日の前半はモーツァルト2曲で、CDに入っている曲とは違うのがラッキー。CDの演奏でも感じたんだけど、キアロスクーロ・カルテットのモーツァルトはアグレッシヴ。わたし的にはもう少し柔らかさ、大人の余裕、みたいなのが欲しいんだけど、若気の至りみたいな青さが今のカルテットの魅力でもあるのかもしれませんね。でも、変に大人びて丸くなるより今は尖っていた方がずうっとステキになると、彼女らよりもずいぶん長生きしているわたしは思います。「アダージョとフーガ」はフーガの入りをがっつりとアクセントを付けて弾き出すのが激しく、おお、ここまでやるかって思いました。

2曲目のk.546のカルテットもモーツァルトにしては、ちょっぴり殺伐。それが彼らのスタイルだと思うけど、ぴーんと張り詰めた細い音で、かなり大胆に音楽に切り込んでいく感じ。もう少し(いい意味で)緩さがあるといいんだけどな。ピアノ(ピアニッシモ)の表現が、ぎりぎりのところまで音を絞っていて、今日の会場が小さいのでさらに弱音を意識したせいかもしれないけど、音にもう少し力が欲しいと思うときもありました。わたしは、モーツァルトは大好きだけど彼のカルテットは苦手で(というか、弦楽四重奏曲自体が苦手分野で、好きなのはハイドンとメンデルスゾーンのくらい。あとはマニアックなシマノフスキとかゴレツキとか)、そのせいもあるのかもしれないけど、ちょっとピンと来ないところもありました。わたしの好きなハイドンとか弾いて欲しいなぁ(メンバー・チェンジ前にハイドンを聴いているし、録音もされていたハズなんだけどメンバーが替わってお蔵入りになったのかな)。

今日、特にステキだったのは、休憩のあとの「ロザムンデ」カルテット。CDで発売されているから完成度も高いし、というかそれよりもわたしがシューベルト大好きだから!そして何よりもこの雰囲気。お家のリビングで30人あまりの寛いだお客さんと聴くシューベルトってまさにシューベルティアーデじゃないですか!しかも大好きなアリーナ。なんという至福。音楽を聴くというと、つい演奏ばかりに耳が行ってしまうけど、音楽を取り囲む全てのものが、音楽を作っているんだと思う。まわりの人は、今日初めて会う人で、一言二言会話した人ばかりだけど、お友達の家に招かれている音楽仲間という雰囲気があって、そして、シューベルトの音楽もそういうところで演奏されていたということも多分音楽の底の方にちゃんと潜んでいて。にっこりと弾くアリーナも可愛らしくって、シューベルトにも聴かせてあげたいなって思いました。今のキアロスクーロ・カルテットにはシューベルトが似合っているなって感じます。少し、ロマンティックよりな表現が、音楽を丸くして、鋭さと柔らかさがどちらかに傾きすぎることなく上手な案配に配合できるような気がするんです。

キアロスクーロ・カルテット、アリーナ中心のカルテットだけれども、音楽を支えているのはチェロのクレアさんだと思いました。彼女の弾き方はとっても安定していて、上の声部の人たちが自由に歌っても音楽が崩れることがなく、安心して自在に演奏することが出来るんだと思います。服装と同じように演奏もひとりひとりが個性的で、カルテットのまとまりよりもひとりひとりの自由な音楽を生かすような音楽作りがされてると思うのだけど、それをクレアさんが上手にさりげなくまとめているんだと思います。
休憩中、譜面台にのっていた楽譜を眺めたんだけど、アリーナの楽譜には鉛筆で○や●のしるしや音符や表情記号を囲んであったり書き込みがしてあったんだけど、クレアさんの楽譜はまっさら。性格もあるんだろうけど、クレアさんは楽譜に書かれたことを淡々と音にする雰囲気(ただ楽譜どおりに弾いているということではないけれども、無茶はしないというか)があって、面白いなって思いました。

本当にステキな音楽会でした。主宰のマダムさんにも感謝の気持ちを伝えて、まだ明かりの残る夕方の街に歩き出しました。もっとずっとロンドンにいられたら通っちゃうんだろうな。普段はそんな有名な人が来る音楽会ではないかもしれないけど、音楽を楽しむ雰囲気はとってもステキだし、今日のような「掘り出し物」の音楽会もあるしね。一見さんとしてではなく、仲間として参加したい集いです。
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by zerbinetta | 2012-05-26 23:20 | 室内楽・リサイタル | Comments(4)

Commented by Brucke at 2012-06-24 10:08 x
間近で演奏が聴けるなんてとても羨ましいです。
Commented by zerbinetta at 2012-06-25 00:52
ふふふ〜幸せでした〜。つい自慢しちゃいます。
Commented by ありこ at 2012-09-13 11:21 x
うわ~!私忙殺されててうっかりこの記事見逃してました!!羨ましい~!やっぱり、生活空間で聴く生演奏って人と音楽のシンプルな関わりが感じられて、いいですね~!

最近、室内楽がすごく好きになってきたので、カルテットの活動ももっとグローバルになってくれたら嬉しいです♪
Commented by zerbinetta at 2012-09-15 08:25
わたしもこれ聴けたときは狂喜乱舞でしたよ!大好きなアリーナが普段着で至近距離。もうめちゃ可愛らしかったです♡
アリーナは、若手のヴァイオリニストの中でも特に室内楽に力を入れてますよね。チアロスキュロ・カルテットは、まだまだ無名でちっちゃなところで音楽会をやってるけど、それ故、親近感がわきます。地道に活動を続けていって欲しいです。そしていつか日本でも!

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