地味だけど実力者 ラニクルズ、BBCスコティッシュ交響楽団 ブルックナー交響曲第8番   

3.8.2012 @royal albert hall

wagner: siegfried idyll
bruckner: symphony no. 8

donald runnicles / bbcsso


ドナルド・ラニクルズさんという指揮者を知っているでしょうか? 知っていたらかなりのクラヲタかも。現在、BBCスコティッシュ交響楽団とベルリン・ドイツ・オペラの指揮者をしている中堅どころ(60歳手前)の左利きの指揮者さんです。活動の中心がオペラだし(ベルリン・ドイツ・オペラの前はサンフランシスコ・オペラでした)、CDをばんばんと出している人ではないので、あまり名前が通っているとは言えません。見ただけでファンが付くようなイケメンでもありませんし(失礼)。わたしも彼と彼のオーケストラ、BBCスコティッシュ交響楽団を知ったのは、一昨年のプロムス。彼の指揮したマーラーの交響曲第3番の演奏が、そしてオーケストラの音色が、地味じゃなかった滋味に溢れるとっても心に浸みる良い演奏で、ひと聴きでこの指揮者とオーケストラが大好きになったのです。そんな彼らに再会するために、プロムに行ってきました。今日はブルックナーの交響曲第8番。

始まりは、「ジークフリート牧歌」。いきなりヴァイオリンのソロで、弦楽四重奏のように始まってびっくり。あれ?こんな曲だったっけ?あとで調べたら、弦楽合奏はソロでもできるように書かれているらしいんだけど、今日のように部分部分でソロと合奏に分かれるのは初めて。きっとラニクルズさんのアイディアですね。ソロが際だって、もともとコジマのために書かれたプライヴェイトな音楽が、今日はわたしたちひとりひとりのために演奏されたプライヴェイトな音楽のように聞こえて良かったです。それに、このオーケストラの素朴で優しいなほっとするような音色。さらさらと草の匂いを含んだ風のように流れる音楽。野原が見える開放感。ほんとに牧歌なんだわ〜。

ブルックナーの交響曲第8番は、とても巨大でブルヲタではないわたしには、手に余る感じだったんだけど(どうにもこうにもブルックナーの交響曲第5番と8番と9番はわたしには大きすぎて聴くのがたいへん)、数年前にネゼ=セガンさんとロンドン・フィルの素晴らしい演奏を聴いて以来、ちょくちょくその録音を聴いていたら、好きになっちゃいました。大きいけど意外とさっぱりしてるのよね。
ラニクルズさんの演奏は、そんなわたし好みのブルックナー。大きいけど重くなりすぎず、引きずらず、流れのある音楽。第1楽章で、フレージングの仕方というか、音のリズム、つながりのニュアンスの取り方が、わたしの感覚に合わなかったので、ちょっと戸惑ったけど、慣れてきたらこれはこれでいいかもって。BBCスコティッシュ交響楽団は、日本で言えば、札幌交響楽団のようないわば地方のオーケストラだけど(スコットランドの首都ではあるけれども)、実に上手い。もうわたし大好きなんですね、このオーケストラのくすんだ感じの優しい音色が。ラニクルズさんのブルックナーは、わりとスマートなブルックナーだけど、それが都会的に気障にならなくて、素朴な微笑みを称えているのはオーケストラのせい。もちろん、ラニクルズさん好みの音なんでしょうけど。ベルリン・フィルやロンドンのオーケストラみたいなスーパー・オーケストラとは違うけど、クラヲタ好みの良いオーケストラです。もし、エジンバラに住んだら絶対、応援しちゃうんだろうな(って、わたしどこに行っても地元贔屓だけど)。
ラニクルズさんのブルックナーは、教会的、宗教的というよりは、とっても外に向かって開放的で、自然の中に佇んでるみたい。ブルックナー的かどうかは分かんないけど(どうでもいいし〜)、わたしは好き。苦悩も苦しみもなく全てが解決している音楽。でも、それがブルックナーの本質ですよね。だって、神さまを深く信じるってことは、もう全てが解決してるんだもの。ブルックナーにはベートーヴェン的な苦悩から勝利へなんて音楽は書けなかったんです。まあブルックナーもベートーヴェンかぶれなとこあるから、第1楽章や第4楽章には苦悩や闘争っぽいとこあるけど、金管楽器いっぱい鳴らしたかっただけだし〜。というようなこと、考えつつ、とか言っちゃうとブルヲタ的にはダメな演奏だったのかな?、やっぱ、ブルックナーは単純でいいやって思ってました。音が世界に解き放れて天上まで届け〜〜。
わたしのデフォルトのネゼ=セガンさんのライヴでは最後の最後の方で、ネゼ=セガンさんの叫び声が聞こえるんだけど、今日は叫び声が聞こえなくて肩透かし。もはや叫び声までがわたしの音楽の一部だったなんて。ちょっと苦笑い。最後の3つの音をささっと筆を撥ねるようにして終わって、お終いまで仰々しくならない芯の通った演奏でわたし的には大満足〜。

ラニクルズさん、派手さはないかもしれないけど、実力者なのでもっと、ちゃんと評価されるといいのにな。オススメしたいけど、CDがあまりないのでは難しいですね。音楽家は日頃の演奏で評価されるべきだというのが持論だけど、CDとかがないと評価の俎上に上がることもないのが、(特に欧米から遠く離れてる日本では)残念です。ウェブ・ラジオとか、音楽会が積極的に放送されて、世界中で聴けるようになると、少しは変わってくるかしら。良い方向に変わりますように。

一番偉そうにしてる第2ヴァイオリンのトップの人にも再会できて嬉し〜〜♡ と、ラニクルズさん
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by zerbinetta | 2012-08-03 08:13 | イギリスのオーケストラ | Comments(6)

Commented by mogloguk at 2015-08-08 21:32 x
はじめまして。今年のプロムスで初めてドナルド・ラニクルズさん指揮するオーケストラの演奏を聴いて調べていたところ、こちらのブログにたどり着きました。「派手さはないかもしれないけど、実力者」本当にそう思います。にわかファンなので、クラシックは詳しくないですが、また彼の演奏を聴けたらいいな~と密かに楽しみにしております。
素敵な記事、リンク貼らせて頂いてもよろしいでしょうか。更新楽しみにしております^^
Commented by zerbinetta at 2015-08-19 23:58
moglogukさん、はじめまして。
お返事遅くなってごめんなさい。
ブログ見ました(おいしそうな写真ばっかでステキ)。ロンドンにお住まいなんですね。懐かしく羨ましい。

ラニクルズさんをプロムスでお聴きになったんですね。玄人好みというか、派手さがないというか、そんな感じですけど、ほんとにステキな音楽をする人ですよね。もっとメジャーになってもいいくらい。
ロンドンは音楽会がべらぼうに安くて、ものすごく良い団体を気軽に聴けるので(日本で同じのを聴こうと思ったら大変)、お好きならぜひ楽しんで下さいね。

リンクはどうぞご自由に。嬉しいです。
更新するのたまっちゃって。。。
Commented by Bala Cynwyd at 2015-10-18 13:06 x
はじめまして投稿させていただきます。
ラニクルズさん、よくフィラデルフィアに来ますよ。今日のコンサート、URLに貼っておきます。 今日のコンサートは、Johannes Moser に完全にお株を取られてしまった感がありますが。
Commented by zerbinetta at 2015-10-26 00:36
Bala Cynwydさん、はじめましてっ。
ラニクルズさん、USでもご活躍なのですね。嬉しいです。ラニクルズさんの音楽は地味というか滋味豊かなので、あまり目立たないけどたくさん聴かれて欲しいです。
Commented by Bala Cynwyd at 2015-10-27 10:08 x
Zerbinettaさん、ご返事ありがとうございます。 ラニクルズさんは、フィラデルフィアに二週間いました。 二回目のコンサートのプログラムは、下記となります。
PROGRAM
Mozart - Symphony No. 29
INTERMISSION
Brahms - Concerto for Violin, Cello, and Orchestra ("Double")
Strauss - Don Juan

最後のDon Juanは素晴らしかったですよ。 あのフィラデルフィアの誘惑的な弦の音色をしっかり引出してくれていました。 ワーグナーの専門だと理解していましたが、モーツァルトもちゃんとスタイリッシュに裁けていました。 聴きごたえのある指揮者です。プログラムは、こちらからダウンロードできます。
https://www.philorch.org/sites/default/files/concert/pdfs/Book%205%20Brahms%27s%20Double%20Concerto_1.pdf
Commented by zerbinetta at 2015-11-04 23:58
プログラムの情報ありがとうございました。モーツァルトの交響曲第29番大好きです。
Bala Cynwydさんはフィラデルフィアにお住みなんですね。うらやましい。わたし、メリーランドに住んでいたのにフィラデルフィアは一度も行ったことないんですよ。NYCに行くときに素通りばかり。一度くらいフィラ管を本拠地で聴いてみたかったです。

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