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なんと言ってもわたしの目玉! シェーンベルク「グレの歌」 サラステ、BBC交響楽団   

12.8.2012 @royal albert hall

schoenberg: gurrelieder

simon o'neill (waldemar), angela denoke (tove),
katarina karnéus (wood-dove), neal davies (peasant),
jeffery lloyd-roberts (klaus the fool), wolfgang schöne (speaker)
jukka-pekka saraste / bbc singers, bbc symphony chorus,
crouch end festival chorus, new london chamber choir, bbcso

誰がなんと言おうとわたしの今年のプロムスの大目玉は、今日のグレリーダーなのです!これはもう一大イヴェント。マーラーの千人の交響曲に匹敵するような大編成(オーケストラはこっちの方が大きいんじゃないかしら)。もう、会場に来る前からワクワク。何日か前に、予定されていたビエロフラーヴェクさんの病気降板になって代役にサラステさんと発表されてちょっとがっかりだったけど(ビエロフラーヴェクさんの演奏大好きだし、この記念碑的大曲をどのように料理するか楽しみにしてました)、でもそれもわたしのワクワク感の障害になるものではありませぬ。もうこの日のために今年があったという感じ(かなり大袈裟)。

ロンドンでこの曲を聴くのは2度目。前回はロイヤル・フェスティヴァル・ホールでだったけど、このはちゃめちゃな大きさは、アルバート・ホールの大きさにふさわしい。プロムスというお祭りイヴェントにふさわしいではないですか。音楽を聴く前から気分が高揚しちゃって、しかも巨大な合唱、巨大なオーケストラの、ワグナー・チューバとかバス・トランペット、コントラバス・トロンボーンなどを見ちゃうとワクワクを通り越してトキメキ。イケメンの森に迷い込んだ少女のよう。と、脳みそお花畑の喜びようなんだけど。

サラステさんに不安がなかったかといったら嘘になります。わたし、サラステさんの指揮で大曲はまだ聴いてないし、シベリウスな透明であっさりした音楽って勝手な印象を持っちゃってたので。グレの歌なんて大丈夫かなぁ、なんてね。でも、短期間で引き受けたからには多分、振ったことがあるはず。と、自分を勇気づけて。
でも、音楽が始まったとたんそれは霧散しました。なんてステキな香り立つ音楽。印象派ふうの点描的な柔らかな色彩。いっぺんに音楽に引き込まれて、引き込まれたまま音楽の中に取り残されたまま、音楽会が終わりました。しばらく、放心して夢の世界にいたようです。ほんと、全く隙のない演奏。サラステさん恐るべし。BBCシンフォニーは、なんでサラステさんを主席指揮者に採らなかったんだろうって思っちゃったほどです(いいえ、オラモさんも凄くステキな指揮者なんですけどね)。それにサラステさんかっこいいし。。。
サラステさんの演奏は、堂々としていて迷いなく、自信に溢れていました。この音楽を完全に自分のものにしてらっしゃる。何も引かず何も足さず、それでいて圧倒的な説得力を持つ演奏に、正直びっくりしてしまいました。ぐいぐいと音楽に引っ張られるわたし。凄かった。
BBCシンフォニーも、いつものことながら実直できっちりと弾いていきます。曲が進むにつれてのざらざらとした肌ざわりの音色、いぶし銀というのでしょうか、そんな音が、サラステさんの剛毅な音楽とピタリと幸せのマリアージュ。お終いにちょっとしか出てこない大合唱もとっても迫力があって良かったです。ホールが巨大な音と化して迫ってくる。

歌手陣は、文句の付けようなし。ヴァルデマールのオニールさんは、最初普通かなと思ったらだんだんと良くなってきて、後半、他の男性歌手も混じると、ここぞとばかりよく歌ってました。トーヴェのデノケさんは、最初、声が軽いかなと思ったんですが、流石にステキでした。カルネウスさんは、メトでちょい役を歌ってたときから聴いているのですが、びっくり。短いけれど重要な役を堂々としっかり歌っていました。前はもっと線の細い声と思っていたんだけど、貫禄が付いてきましたね。ステキです。後半から出てくる、男声陣もとっても良かったです。3人でお互い張り合う感じで、相乗効果が凄かった。語りのシェーンさんは、わたし的にはもちょっと陶酔感が欲しかったんですけど、リアリティのある表現で、これはこれでサラステさんの音楽と合って良かったのではないかと思います。

それにしても、この曲は凄い!もうしばらく頭から離れないでしょう。わたしの方も、CDで聴いたり、より音楽に親しくなっていたので、今まで聴いた3回の「グレの歌」の中で一番、心にぐっと来ました。もちろんそれは演奏の良し悪しというより、わたし側の成熟の具合が大きいのですが、間違いなく第1級の演奏でした。そして、わたしの音楽体験の中でも最も大きなもののひとつとなりました。

シェーンベルクってつくづく天才ですね。この曲の最終的な完成は1911年、作曲家37歳の頃ですけど、第1部の完成と全体の構想は1901年、27歳の頃ですもの。マーラーだったらまだ交響詩「巨人」を書いていた頃。作品のとてつもない大胆さや完成度といったら比べるべくもありません。音楽を聴くとこの頃のシェーンベルクがドビュッシーやワグナーの影響を受けていたのがよく分かります。むしろ、マーラーの影は聞こえないです。多分、シェーンベルクはマーラーを余りよく知らなかったのではないでしょうか。ふたりがアルマを介して合うのは、もう少し後だし。彼の音楽の出自を垣間聴くことができたのも嬉しかったのです。

by zerbinetta | 2012-08-12 07:08 | BBCシンフォニー

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