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第1楽章の呪詛からの解放! シャイー、ゲヴァントハウス・オーケストラ マーラー6   

2.9.2012 @royal albert hall

messiaen: et exspecto resurrectionem mortuorum
mahler: symphony no. 6

riccardo chailly / leipzig gewanthaus orchestra


シャイーさんとゲヴァントハウス・オーケストラの第2夜は、メシアンとマーラー。マーラーの交響曲第6番は大きな作品だから、それ1曲だけで良さそうだけど、その前に、管楽器と打楽器で、メシアンの「われ死者の復活を待ち望む」です。メシアン・フェチの癖して、フランス語のタイトルが覚えられなくて、聴いたことある曲かしらと思ったのだけど、編成を見て思い出した。去年、ラトルさんとロンドン・シンフォニーで聴いたことのある曲でした。大きな銅鑼がトレードマーク。昨日も目立っていた、フルートの美人さんが、管楽セクションのリーダーなんですね。音合わせを指示してました。
実は、わたし、メシアン好きの癖に、ああ、この曲余計だわ、なんて不遜なこと思ってました。だって、この曲とマーラーの大曲じゃ金管楽器死んじゃうもん。メシアンで力が尽きて、マーラーではへろへろになっちゃうんじゃないかって心配になったのでした。実はそれには前例があって、アバドさんとベルリン・フィルの音楽会で、マーラーの交響曲第9番の前に、ノーノのプロメテウスを演ったとき、ノーノで(精神的に)疲れ切って、マーラーの前半はちょっと普通の演奏になってしまったのを目の当たりに聴いてしまったんです。今回は精神的ではなく肉体的な心配ですけど。
ラトルさんの演奏がまだ記憶の隅に残ってたので、聞き比べたんだけど、かなり違ってました。シャイーさんの演奏は、曲と曲の間に少し長い間を取った、それだけが理由ではないと思うのだけど、余白の大きな演奏。音が減衰していくのを待ってから次の音を出しているからかなぁ。音の後ろに大きな空間が広がっている感じ。そして、その大きな存在にどうしても心が吸いこまれる。でも、それが宗教的とかではなくて、むしろ、実体として在る空間的な広がりをオーケストラの後ろに感じるんです。何だか不思議な体験。オーケストラの音色が渋めに揃っていて、モノトーンに聞こえるんだけど、でもよく聴くと、音の混ざり具合、グラディエイションが多彩で、しっとりとカラフル。

マーラーの交響曲第6番は、予想外に速めのテンポで始まりました。シャイーさんの振る同曲は、ロイヤル・コンセルトヘボウとの録音をずっと前に聴いたことがあって、それとはまるっきり違う音楽です。今回のは全体的にかなり速め。CDの演奏では、第1楽章なんてかなり遅い部類だったと記憶してるんですけど、今日はびっくりするくらい速め、というか凄い推進力。時間を計ると多分、標準的な速さかもしれないけど、予想外でした。ガシガシしているけど、決して重くならずに、重心は高く前に前に進んでいく感じ。でも、こせこせしているわけではなく、納得のテンポ。異様さはないけど、力のこもった素晴らしい演奏。オーケストラもとっても上手く、何より、音色がステキ。つるつるとしてないところが、この音楽に合ってる。シャイーさんの目も、細かなところまで行き届いていて、どの音をとってもきっちりと大きな音楽の中に収まってるし、集中度の高さは素晴らしい。あんなにダイナミックにぐいぐいと指揮されたら、そりゃあオーケストラはついていくしかないよ。いや憑いているかな。
第2楽章は、アンダンテ。さらさらと静かに流れる、淀みのない音楽。つるりとした人工的なところがなくて、とっても素朴で、でもそんなところが飾らない自然みたいでステキ。ホルンやオーボエの音色もわたしの好みにピタリなのも佳。シャイーさんの音楽は全体に、余分な感情や慟哭は控え目で、透き通った秋空みたいな爽やかな空気に満たされてるんだけど、それが狂わんばかりの闘争や悲劇をこの曲に求める人には物足りないと思わせるところかもしれない。でもわたしは、哀しみを浄化していくようなこのマーラーの交響曲第6番が好き。「悲劇的」なんて勝手なタイトルがついたりしていることがあるけど、泣き叫ぶことばかりが悲劇の表現じゃないし。

びっくりして膝を打ったのが第3楽章のスケルツォ。うわ!速い!!第1楽章とこのスケルツォの近親性がよく言われるけど(実際マーラーもそれを心配してたしね)、テンポを極端に変えることによって、第1楽章とは全く別の音楽になってる。この楽章が初めて第1楽章の呪縛から解かれた瞬間。ステキすぎる!あとでラジオでシャイーさんのインタヴュウを聞いたら、まさしくこの点について語ってた。第3楽章に置かれて、アンダンテを挟んだことで、独立した楽章になったスケルツォ。この解釈は慧眼だわ。もうこれを聴いただけで、わたしはスキップして踊り出したいほど。音楽の見方が変わった瞬間。
フィナーレもすらすらとテンポ良く勢いを持って進んでいく。本当に美しい音楽。悲しさっていろいろあると思う。わたしがこの曲と本当の意味で出逢ったのは、高校生の最後の頃。病気をして、死生を彷徨ったわけではないけど、長くは生きられないのかもしれないとぼんやりと絶望してた(死に対して現実感がありませんでした)ときに、この曲を病院のベッドで何回も聴いたのです。涙が溢れて。でも、不思議に絶望ではありませんでした。この曲は、闘いの末、最後は暗く終わるけど、わたしはそこに絶望を感じません。もちろん、心がぽっと明るくなるわけではないけれども、希望の小さなかけらがあるように思えるんです。シャイーさんの演奏は、それを強く感じさせました。この曲って、楽譜どおり丁寧に弾くと、心の中にある濁った哀しみを浄化して透明な涙に流してくれるような気がします。それはわたしだけの特別な感覚かもしれないけど、でも、シャイーさんのマーラーは哀しみの中にも凛とすっきりと明るいものがあるように思えます。

シャイーさんの音楽の充実ぶりは尋常ではありませんでした。20年の時を経て全く姿が変わったように深化した音楽。一見ガシガシと前のめりになるような勢いのある音楽だけど、それでいて、細かいところまでとても丁寧。オーケストラの音色のパレットを混ぜてカラフルな色彩を作るマジックは健在で、特に木管楽器の音色の混ぜ方がステキでした。見た目的にもワクワクするようなハンマーも、ずどんとお腹に来るような音で、やっぱりあれは視覚の効果と相まって思いっきり音楽を演出しますね。シャイーさんとゲヴァントハウスのマーラー、ぜひもっと聴きたいです。

目を見張るハンマー
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充実したシャイーさんの笑顔
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by zerbinetta | 2012-09-02 01:27 | 海外オーケストラ

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