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独特の香りを放つ音楽 金山隆夫/シンフォニア・ズブロッカ   

2013年7月13日 @すみだトリフォニー・ホール

ヴェルディ:「運命の力」序曲
ラヴェル:マ・メール・ロア
プロコフィエフ:交響曲第5番

金山隆夫/シンフォニア・ズブロッカ


家ではクーラー使ってません。暑くてへろへろになってるわたしです。体が重くて(食べ過ぎ?)今日の音楽会は止しにしようかと悪魔が囁いたんですけど、招待券もらってるし欠席するのは、人道にもとるのでよれよれと行ってきました。そしてスキップで帰ってきました。

ステージに出てきた人たちを見たとき、若いな。大学のオーケストラを卒業したばかりでしょうか、20代の奏者が多いなって思いました。オーケストラ自体は特定の出身母体を持たないみたいなので、大学にとらわれず気の合うメンバーを集めたのかしら。音合わせをしているのを聴いて、ああ、ほどほどのレヴェルのオーケストラかなぁって失礼なことを思いました。

でも、最初の「運命の力」を聴いたとたん、あれ!っと。なんかプロのオーケストラみたいなんです。と言ったら、ちょっと言いすぎかもなんだけど、でもアンサンブルの作り方に隙がないんです。今までいくつかのアマチュア・オーケストラを聴いてきて、ああ、これはアマチュアだなぁと思うところは、例えば、和音をつけるところで、下の人のバランスが悪いとか、弱音で音に力がなくなってかすれちゃうとか、内側の音に音楽をする緩さを感じちゃうところだったんですけど、それが全然ないんです。確かに管楽器のソロを始めとしてコンサート・マスター(オーケストラはコンサート・ミストレスという言葉を使ってましたが、わたし頑なにヘンな英語のコンサート・ミストレス追放推進友の会の会長でただひとりの会員なので)も抜群に上手いわけではなく(もっと上手なオーケストラはあります)、とちることはあまりなかったけど、ぎりぎりで上手く吹いてる、みたいな感じなのに、全体としてオーケストラから出てくる音は、素晴らしいんです。細かい音まで意思の疎通がなされているし、弦楽合奏のピアノもきれいだし、びっくりしました。よっぽどパート練習で鍛えてるんでしょうか。

「マ・メール・ロア」もここの楽器の色気が足りないものの、全体の雰囲気は音楽に合ってとってもいい。物語の見えるような演奏でした。適応力の良さと言うより、長い時間を掛けて練習してるような気がします。しかもひとりひとりが表現したいことを分かってる。

指揮者の金山さんってプロフィールを見て思いだしたんだけど、ナショナル・シンフォニーでスラトキンさんの下、副指揮者をしていたんですね。ちょうどわたしが、DCの近所にいた頃で、そう言えば、1度か2度、彼が指揮してるのを聴いたのです。

プロコフィエフの交響曲第5番は、鳴り始めたとたん、あれれ?さっきまでの上手さはどこ行っちゃったの?ってびっくりしました。なんかばらばらに分解された感じ。出だしは確かに管楽器のソロが絡むけどそんなに難しそうじゃないのに。プロコフィエフって一筋縄ではいかないのかなぁ。なんかちょっと方向性を失って無重力を彷徨っちゃったみたい。金山さんがどんな音楽をやりたいのかが見えてきたのは少ししてから。わたし、この曲、ほんわか系だと思ってたのよ。日曜日の午後、ビールを飲んでぷはあとするとか、お風呂でのんびり浮かんでいるとか、そんなイメジ。ところが、金山さんの音楽って、戦争前夜みたいな、暗くて、ざらざらしていて、溶けたアスファルトのような、ねっとりと黒い。わたしそんなプロコフィエフは交響曲なら第3番で終わったと思ってた。でも、ここで聴くのは、第2番のような製鉄所の溶けた鉄のような重い液体の音楽。のたりくねる音。ああ確かに、地面を這うトランペットの低音。最後には怪獣まで登場して。
ああそうか。金山さん、ナショナル・シンフォニーの時代に、ロストロポーヴィチの演奏聴いているのかもね。久しぶりに前監督のロストロポーヴィチが帰ってきてこの曲を演奏してる。そのときのことを思い出したら、もちろん金山さんは、徹底して遅めのテンポで重々しく鳴らしてるんだけど、音を重ねるように詰め込んで、整理をせずに全部聴かせちゃうやり方は、ロストロポーヴィチに似てる。そういうことが分かってくると俄然楽しめる。

第2楽章も全然軽快感なくて、心が躍るような感じじゃなくて、空虚な移ろい。乾いた笑い。多分、想像だけど、金山さん、オーケストラに、この曲は戦争中に書かれたとか、作品番号100番の記念碑的な作品だとか、いっぱい説明したのでしょう。そして、オーケストラがそれをしっかり音にするところが凄い。
一番いいと思ったのが第3楽章。オネゲルの交響曲第3番の中間楽章と直結するような重い足取りと音色で、この曲の核心のようでした。
そして最終楽章。遅いテンポで決してはっちゃけない重さ。ヨロコビなんて簡単にはやれないぞ、って感じ。かなり異形の演奏だと思うけど、ずうっと聴いてきてすとんと納得。このテンポだと、第2主題が第1楽章と直接結びつくのがよく分かります。最後くらいは、絶望的にはっちゃけるかなと思ったけど、煽ってたけどちょっとおとなしかったかな。ここで爆発させられると、凄いんだけど。でも、それでも素晴らしい演奏だったことには間違いありません。

金山さんも、的確な指揮で、ときにはオーケストラに任せたり、ステキな音楽を作っていました。オーケストラと共にもっと聴いてみたいです。アンコールはシュトラウスの「南国の薔薇」をねちっと優雅に。最後まで、しっかりと音楽を作っていた良いオーケストラです。ほんと、アマチュア離れしたところがあってびっくりしました。確かに、オーケストラのコンセプトのように独特の香りを放つステキな音楽でした。

ちなみにわたしズブロッカは苦手です。草は好きなんだけど、ポーランド人の友達に勧められて酔っ払いました。でも音楽に酩酊するのは良いな。

by zerbinetta | 2013-07-13 10:56 | アマチュア

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