譜面をめくる音と共に音楽が始まる サントリーホール国際作曲家委嘱シリーズ   

2013年9月5日 @サントリーホール

フランチェスコ・フィリデイ:全ての愛の身振り
細川俊夫:松風のアリア ーオペラ「松風」より
細川俊夫:トランペット協奏曲「霧のなかで」
リゲティ:ミステリーズ・オヴ・ザ・マカーブル

バーバラ・ハンニガン(ソプラノ)
ジェロエン・ベルヴェルツ(トランペット)
多井智紀(チェロ)
準メルクル/東京フィルハーモニー交響楽団


サントリーホールのサマーフェスティヴァルのひとつ、チケットが当たったので行ってきました。テーマ作曲家、細川俊夫さんの音楽会、管弦楽の方です。それにしてもわたしとサントリーホールの相性の悪さといったら。今日も地下鉄間違えてしまった。溜池山王駅ってわたしが日本を離れるちょっと前にできたんですね〜。どうりで。わたしがいた頃は六本木駅からてくてく歩いて行きましたもん。というわけで、音楽会に先立って行われた細川俊夫さんへのインタヴュウは遅刻。途中から聴きました。

今日の音楽会では主役の細川さんの他に、それを挟むように、フィリディさんとリゲティの曲が演奏されました。細川さんのお話によると、細川さんの音楽は生真面目、彼らの音楽には突き抜けた不真面目さがあるとおっしゃっていました(ちょっと記憶が曖昧で正確な言葉ではないのですが)。
始まりのフィリディさんの音楽は、大太鼓と、えっ?なんの音?ヴィオラの人たちの譜面をめくる音で始まりました。要所要所でヴィオラの(そしてときにはチェロも)譜面をめくる音(きっちりと拍を揃えて)が音に加わります。大太鼓の音は弔いの音でしょうか。一定のリズムが心地よいのです。チェロの独奏は多井さん。こういう曲弾き慣れている感じでとても上手い。チェロのパートはオーケストラと対立すると言うより、オーケストラの空気の中に溶け込んで漂うように歌っている感じ。チェロの音は、こんな抽象的な音楽でも人肌のような優しさがあるので好き。曲のタイトルを知らないで聴いていたのですが、わたしには、山の自然の中の音楽。鳥の声とか風の音とかそんな音たちが聞こえていたように思えました。途中、何か大きな力が加わってそれは破壊されてしまうのだけど、徐々に静まるとまた大太鼓の静かな音に自然の音たちが戻ってきて、破壊と再生の物語のように思えました。うん、これは良い曲。でも、作曲者本人によるプログラム・ノートを読むと全然違ったんですけどね。音楽によってわたしの中から紡ぎ出されたものと作曲者が紡いでいるものは、絡まり合うのか絡まないのか分からないけど、わたしにはわたしの聴き方しかできないしそれでいいの。
追伸:フィリディさんは、今どきのちょっとお洒落な芸術家ふうのお兄さんでした。

細川さんのは休憩を挟んで2曲。オペラ「松風」より松風のアリア。ハンニガンさんの歌とベルヴェルツさんのトランペットの独奏が入ります。わたし、細川さんって基本的にオペラティックな作曲家だと思うんですね。例えば、協奏曲の独奏のとらえ方がそうなんですが、独奏に「人」を当てている。これってまさしくオペラの歌ではないですか。オペラの歌は人間そのものですから。「松風」と言うからには和風の音楽を思い浮かべたんですけど、さにあらず。きっちりとした西欧オペラの音楽になっていました。現代オペラにありがちな、歌を意識するあまり、中途半端なメロディ的な要素を持ってくる過ちを犯すことなく、かといって人間の声が楽器的、機械的な音にならずに、ちゃんと歌われていてすごいなぁと思えます。きっと成功したオペラではないでしょうか。残念ながらわたしは、細川さんのオペラを聴いたことがないけど、ぜひ聴いてみたいと思いました。

トランペット協奏曲は、今回の委嘱作品。サントリーホールと北ドイツ放送交響楽団との共同委嘱です。今日が初演。NDRの方は来年の3月に初演です。先にも書いた、インタヴュウでもおっしゃっていたとおり、細川さんは協奏曲を、人(特にシャーマン的な性格を持つ)(独奏)とそれを取り巻き、ときに荒々しく覆い被さる自然(オーケストラ)の対立として関係づけているとのことで、このトランペット協奏曲にもそのような側面があると言います。特に、トランペットに課せられる人声の歌(独奏のベルヴェルツさんがジャズか何かの歌手でもあり声がいいということから使ったそう)は、人間としての楽器に上手くはまっているそうなんです。声は、マウスピースを取った楽器の管を通したり、直接叫んだりだったんだけど、異質なものではなくて、トランペットという楽器の一部のように聞こえました。
「霧のなかで」というタイトルのように、オーケストラは終始静かに曖昧な音でまわりを包み込むのだけど、わたしにはソロとオーケストラが対立ではなくて、和解しているように強く感じました。

最後は、リゲティのオペラ「グラン・マカブル」からの音楽。このオペラは観たことがあります!訳の分からないカオスのオペラですけど、むちゃ力強い傑作。その中の音楽を抽出したものですけど、どの部分かは思い出せませんでした。何しろはちゃめちゃな物語、歌詞、音楽なのですから。オーケストラは少人数のアンサンブル。指揮者はなくて、銀髪のカツラを被ってボンデージ・ルックの歌手のハンニガンさんが、なにやら指揮の真似をしているのは、オペラの演技的なものをかねてかなと思って観てたら、変拍子とかも実に正確に振ってオーケストラを合わせているのが見えて、真似事ではなく本当に指揮していたんですね。そしてその指揮と、歩いたり地団駄を踏んだりの動きがオペラのコミカルさを出していてとても良かったです。まっすぐ立って歌ったら、この曲、はちゃめちゃなオペラから持ってきたこの音楽はとてもつまらないものになってしまったでしょう。歌も素晴らしかった。これはもう八面六臂の大活躍のハンニガンさんが圧倒した世界でした。今日の音楽会、完全にこれに集約されてしまいました。素晴らしすぎ。わたしの観たオペラは、残念なことにハンニガンさんは出ていなかったんですけど、ハンニガンさんでまた観たいなぁ。どこかで上演されないかしら。無理?
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by zerbinetta | 2013-09-05 23:50 | 日本のオーケストラ | Comments(0)

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