マーラーの青春は熱くなきゃ 葛飾フィルハーモニー第46回定期演奏会   

2013年12月1日 @かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 K466
マーラー:交響曲第1番

菱沼恵美子(ピアノ)
田中祐子/葛飾フィルハーモニー管弦楽団


恥ずかしながら罪を最初に告白させて下さい。実は今日の音楽会、全く期待していませんでした。地域つながりのアマチュア・オーケストラは、仲間で音楽を演奏することが主眼で(でもそれはそれでとってもステキなことだと思うんですよ)、つながりのないところにわざわざ聴きに行くことないと思っていたんです。今日、聴きに来たのは、指揮者の人に興味があったから。三ツ橋敬子さんに続いて、2009年のブザンソン国際指揮者コンクールで入賞した女性(ちなみにその年の優勝者は山田和樹さん。田中さんは山田さんとタメです)(過去には松尾葉子さんが同コンクールで優勝しています)。気になりました。
オーケストラは、年齢層高め。わたしもう、ヘンケンのかたまりで、アマチュアで年齢が高いとお仕事とか忙しくなって若いときと同じように練習時間が取りづらくなって、レヴェルを維持するのは難しいな〜、このオーケストラは大丈夫かなぁ〜って思ってしまったんです。

でも、モーツァルトの協奏曲が始まったとたん、ヘンケンは払拭されました。わたしが馬鹿でした。
まずオーケストラはわたしが思っていたレヴェルを超えて上手かったです。特に弦楽器がいい音を出していました。モーツァルトってシンプルすぎて誤魔化しがきかないというか、譜面通りに弾いても音楽にならないと思うんですね。それは、マーラーとかショスタコーヴィチとか難しいけど、譜面通りに弾けば一応なんとかなるという音楽ではないと思うんです。でも、葛飾フィルは(わたしの好みではないけれども)ちゃんとモーツァルトの音楽を弾いていました!
わたしの好きなモーツァルトは、市民権を得て学術的世界から芸術を表現するようになった古楽の演奏か、現代オーケストラでやるなら豊かで柔らかな響きででもその中に悲しみの芯があるような(今日のような短調の音楽は特に)演奏なんです。後者では、ピレシュさんがハイティンクさんとロンドン・シンフォニーのバックで弾いた演奏が心の中に残っています。葛飾フィルの演奏は、そこまで豊かな響きがなかったです。思うんだけど、特に弦楽器のヴィブラートが弱点のアマチュア・オーケストラは(一般論です)、古典作品の場合、古楽器的なアプローチをする方が、彼らの持っている音色に合ってるんじゃないでしょうか。そういうやり方をする指揮者がいてもいいと思うんです。
田中さんと葛飾フィルの伴奏はとても誠実で真面目でした。それがちょっと裏目に出ちゃったのは、第2楽章の伴奏の刻みが、しっかり縦ノリのリズムを踏む音になってしまって、そこは少し曖昧にしないと音楽の雰囲気を壊しちゃうよってとこです。でも、そういう音楽の話ができるところがうれしい。だって、(譜面ではなく)音楽を演奏してるんだもん。
ピアノの菱沼さんの音は、わたしのモーツァルトには重すぎました。モーツァルトと言うよりロマン派の音楽を聴いている感じ。重いと言っても、心の闇に沈み込むような深さがあればいいのだけど、べったりとした平面的な音になっていたように思えます。和音が濁って聞こえてきたところがあるのもマイナス点。あと左手の音がちょっと雑に感じられるところがいくつかあったように聞こえました。
それでも、このモーツァルト、好感が持てて涙が出そうでした。

葛飾フィルハーモニーって、葛飾区のアマチュア・オーケストラだけど、区からの支援を受けていて、練習場所、音楽会の会場がしっかりと確保されている恵まれた団体なんですね。トレーナーも10人くらいいて、それも他のアマチュア・オーケストラよりも恵まれてる様子。だからこそ、安心して音楽に打ち込めるし、区がそのような文化事業を支援するのって良いことだと思う。地域とホールとオーケストラの結びつき。プロのオーケストラにも欲しいところです(これについてはあるよとの反論を受けそうですが、いつか思うところを書いてみたいです)。

休憩のあとは、マーラーの交響曲第1番。この曲、中学時代にたくさん聴いて、わたしの青春とマーラーの青春が重なってめちゃ思い入れのある曲なんだけど、なかなか良い演奏に出逢えていないんです。どうも最近の指揮者って老いも若きもかっこつけちゃってと言うか、なんか、きちんとスマートな演奏が多い気がするの。はちゃめちゃな感じがもっと欲しいなって、ライヴは。
音楽は、シーンとした緊迫感から始まりました。弦楽器のこの雰囲気、ドキリとしてとてもいい。全体を通して、木管楽器と弦楽器のバランスが悪いところがいくつか聴かれたけど、そんな玉の疵以上に凍ったような朝の雰囲気がステキ。ゆっくり目のテンポで入るファンファーレ(トランペットは舞台袖で吹いてました)やホルンの牧歌がのどかなお日さまを呼び覚まして、水緩む春。丁寧な雰囲気作りに好感度大。たっぷりとアゴーギグを付けて旋律を歌わせながら音楽を進めていくの。日が陰るような冷たさの再来も三寒四温の季節の営みの前ではなすすべもなく、最後は春が完全に支配するんだけど、ここはちょっとおとなしかったかな。
第2楽章が一番ユニークで面白かったんだけど、最初のチェロとコントラバスの前奏、かなりゆっくり目のテンポで元気のいい長い音符をテヌート気味に音を伸ばして弾かせて、ああ、ここはマーラーはティンパニを削って正解だったな、っていうことをはまるように実感できて目から鱗(音が急速に減衰するティンパニが入っていればこんな表現はできないから)。旋律の始まりに向かって加速するんだけど、思い切った加速でなく、終始遅めのテンポ。でもそれが素朴でのどかな田舎の気分満載で良かったん。トリオも随分遅いテンポで、春のぽかぽかの中お昼寝しそう。
第3楽章は、ここに来てわりと普通。最初のコントラバスのソロは、半分の4人のパート・ソロ。新しい版に準拠ね。でも、これをアマチュアで揃えるのは至難の業。パート全員の音がひとつになって音楽を奏でれれば奇跡的な音になるんだけどね。オーケストラの力を考えるとここはひとりのソロでも良かったかも。中間部の切なげなオーボエは、オーボエくん、ここにかけていたなって思わせるようなステキなソロ。
第4楽章は、わたし的にはもっと大嵐のように荒れて欲しかったけど、でも必死に棒に食らいついていくさまは、つい手に力を入れて応援したくなっちゃう。そして、叙情的な旋律が歌われるところが、今日のクライマックス。白眉。田中さんは、ここを大きく歌わせて盛り上げていたし、彼女の持ち味の歌がとっても生きていました。田中さんポルタメントをとても効果的にかけるんですね(ここだけではなく曲全体で)。反面、あとでこの旋律が切れ切れに再現されるところは、あっさり目のインテンポ気味で、わたしのこの曲のピンポイント・ラヴのオーボエのソロがちょっとつっけんどんで先を急ぐようで、ここだけはもっとたっぷりと歌わせて欲しかったです。このあたり、粘って盛り上げてもいいんじゃないかな。ここから一気に最後まで(ヴィオラがぴたりと入ってきてしてやったり)、勢いを付けたテンポ感で押していくのが、小細工なしのストレイトな感じで、テンポをいじくって推進力を失う過ちが避けられて良かったです。ふたりのティンパニの交互のトレモロの推進力も素晴らしかった。ホルンが全てを圧倒して立つところは、ほんとに全てを凌駕する音量が欲しかったけど(トランペットが1本加わってました)、そこまで求めるのはさすがに酷かな。プロのオーケストラでも(音楽的なバランスを考えてというのもあるでしょうが)聴けないことなので。

それにしても、田中さんのこの曲に対する思い入れ、自信の凄さ。上体を大きく使った指揮でオーケストラをぐいぐいコントロールする手腕は並外れたもの。左手の使い方がもう少し上手くなればとは思ったけど、素晴らしい才能の指揮者を発見できて嬉しい。そしてそれに応えるオーケストラも。最後、指揮者とオーケストラの充実した表情はわたしにもずんと心に来た。もしかしてわたしも同じような表情をしてたかも知れないね。熱い、思いを込めまくった素晴らしいマーラー。
そして、アンコールに「花の章」。音楽会が始まる前、ステージ裏でトランペットの人が、「花の章」のソロを吹いて練習してたのはこのことだったのね(5楽章版やるのかなと思ってプログラム確認しちゃったよ)。未完成の音楽なので、演奏で補わなきゃいけないことがたくさんあって難しいと思うんだけど、そこはまあそこそこ、だったけど、この音楽会のまとめ方は本当に粋でした。一本とられた感じ。

さて、このオーケストラ、次回の音楽会は、今日の田中さんと去年の東京国際コンクールで1位、2位なしの入選を分かち合った石﨑真弥奈さんが振るんですね。これも今から楽しみ。
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by zerbinetta | 2013-12-01 02:27 | アマチュア | Comments(0)

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