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姫始め〜、きゃっ変態、やっぱ愛よね アウローラ管弦楽団第10回定期演奏会   

2014年1月5日 @すみだトリフォニーホール

リャードフ:魔法にかけられた湖
スクリャービン:交響曲第4番「法悦の詩」
リムスキー・コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」

田部井剛/アウローラ管弦楽団


来年まで新年にはならないだろうとのんきに高をくくっていたのに、うっかりあっさり勝手に新年が明けてしまいました。あわあわ。今年も、忙しい世の流れにすっとぼけてぼんやり更新していきますので、ほどほどにお付き合い下さいね。よろしくお願いいたします。

今年最初の音楽会は、まだ松のとれない5日に、アウローラ管弦楽団。去年聴いて、あまりのロシアへの偏愛ぶりに、アマチュア・オーケストラはこれを聴け!とひとつの座標を教えてくれた大好きなオーケストラです。演奏する音楽への偏愛、誰にも負けない愛を聴くのがアマチュア・オーケストラの楽しみ方の一番のひとつだって。前回は「大地の歌」の特別演奏会だったけど、今日の定期演奏会は、またオール・ロシア・プログラム。どんな音楽を聴かせてくれるのでしょう。楽しみ。トリフォニーホールへの道も慣れてきました。おいしそうなお店もいっぱいあるのも気分を盛り上げる〜。
オーケストラの人たちが出てきて、あっ!いつもと雰囲気違うと思ったら、女性は、カラフルなドレス。新年だからかな〜、華やいでいました。いいね。

最初の「魔法にかけられた湖」は、新年のご挨拶とのこと。平和で美しい曲。印象派っぽい音楽で、ただ、だから、隠れ里のように、夢のような、印象がぼんやり残る感じの音楽かな。何回か聴いたことあるけど、はっきり思い出せないんですね。今日の演奏も、とても美しかったけど、すうっと消えちゃうかな。そんな音楽だから。

打って変わって2曲目はこってり残っちゃう音楽。スクリャービンの交響曲第4番、というより単に「法悦の詩」と言った方が通りが良いかな。エクスタシーの音楽。今日の音楽会、なんだかこの曲に異様に力が入ってた。宣伝もそうだしプログラム・ノートも。絶対、オーケストラの中にスクリャービン・マニアがいる。
マニアの謙遜なのかよく分からないけど、プログラム・ノート、何だかスクリャービンの変態性が強調されていたような。確かに、神になったり、変態じみた音楽書いたり。スクリャービン好きのわたしも変態仲間ってこと?
「法悦の詩」はエクスタシーの音楽です。でも、正直わたしは、セックスのエクスタシーなら「トリスタンとイゾルデ」の方が感じるし、ただエクスタシーといえば、80分間エクスタシーで満たされてる「トゥランガリーラ」をとるんだけど、「法悦の詩」は、規模は大きいけど短いのでちょっと欲求不満を感じるのね。エクスタシーに達する前に終わっちゃうというか。むしろ交響曲第3番「神聖な詩」の方が好き。これもある意味いっちゃってる系の宗教的な音楽だけどね。スクリャービンの神性(しんせいと読まずにかみせいと読んで下さい)は、今日プログラムを読んで初めて知ったのだけど、いっちゃってる系の宗教はワーグナーの「パルジファル」の延長上にあるように思っていたし(「神聖な詩」には「パルジファル」からの引用がある)、いっちゃった感(エクスタシー)の先には、同じように移調の限られた旋法的な音楽を書いたメシアンがいて、スクリャービンは異彩を放っているというより、その中間を歴史的な必然によって橋渡ししているように思えるの(多分メシアンは、スクリャービンの直接的な影響をあまり受けてはいないと思う)。スクリャービンは、メシアンに比べればまだ調性的だし、そもそも交響曲には後年の神秘和音はまだほとんど聞かれないから、まだ絶頂に達していないというか。と、うっかりスクリャービンについて語ってしまいそうになったわたしだけど、そ、そ、演奏演奏。
演奏は一言で言うと凄かった。すごいじゃなくて、漢字の凄い。オーケストラから放たれる放射熱が半端なく直接伝わってきて、寄せては返す波のように律動する。正直、何だかよく分からないこの曲を有無を言わせず聴かせてしまう強引さが心地よくて、汗まみれで音のシャワーを浴びてむしろ晴れやかなエクスタシー。トランペットのソロも上手くて、ステージの右寄りで吹いていたのも立体感が出て良かった。完璧な姫始め。今年良いことありそう。どっしりと聴いて、ここで休憩、後半があるなんて。そう言えば、前に聴いたゲルギーの演奏でも、この曲、休憩前でどっぷり疲れちゃったな。フランス料理のムニュを頼んで、アミューズのあとにいきなりメインディッシュ、しかも大盛りお肉が来てしまった満腹感。次にまたメインが来るのに。まっ、フルコースだったらメインは2皿だからいいんでしょうか。

「法悦の詩」が熱い力の入った演奏だったので(この曲がプログラムの前半だなんてゲルギーのプログラミングみたい)、ここで燃え尽きて休憩後の「シェエラザード」は、大丈夫かなって心配もあったの。音楽会の途中で力尽きるって、プロでもありますからね〜(気がつかれないこと多いけど。そこはプロ)。それにこの曲って、ヴァイオリンはもちろんのこと管楽器もソロが多くて、よっぽどトップ奏者が上手くないと崩壊してしまう危険を孕んでる。トップの人たちはお正月返上でカラオケボックスに走り練習したんだろうなぁ。なんて余計な想像。
そんな心配を他所に、とても充実した演奏。ソロはドキドキしながら聴いたけど、みんなとても上手い。むしろ、木管なんかは、オーケストラの中に入ったとき、最初の頃音がばらばらで少し違和感を覚えたくらい。でも、音楽が進んでいくにつれそんな感じも霧散してオーケストラに色彩を加えていました。「シェエラザード」は、ソロも多いし、色彩感の豊かな曲ですから上手なオーケストラの演奏は聴き応えがあるでしょう。確かに、超一流といわれるオーケストラの演奏で聴いたことがあるけど、それらはステキな記憶です。今日の演奏はそういう意味では太刀打ちできないでしょう(そんなところで一流のプロとアマチュアを比べるのは無意味です)。でも、シェエラザードの物語ということで考えると、今日の演奏が、心を打つ演奏であったことに間違いありません。アラビアン・ナイトのお話は、女性不信に陥って国中の若い女と一夜を共にしたあと殺していた王様を改心させるために自ら花嫁になって、夜話を語り継ぎ、とうとう王様を改心させたシェエラザード姫のお話。一夜一夜、王様の興味を引く夜伽ができなければ殺されてしまう苛酷な運命。そんなシェエラザードをヴァイオリンのソロが演じるのだけど、そんな命がけの心境がコンサートマスター(女性:コンサートミストレスという言葉は変な感じに聞こえる英語なので使いません)のソロから聞こえてくる。音楽も凜として、力強い音色で、知的な強い女性を弾ききっていました。というか、彼女こそがシェエラザード(だとしたらオーケストラはシャフリヤール王??)。最後、王のわだかまりが解けて物語が解決するところは、とうとう話し終えたシェエラザードと音楽を弾き終えた彼女のほっとした気持ちが重なって、涙。わたしも涙にふさわしい演奏だと思いました。素晴らしい。カーテンコールで、座ったまま足でばたばた指揮者を讃えるところでうっかり立ってしまって苦笑いして座ったのも微笑ましかったです。

アンコールはリャードフの「音楽玉手箱」。これはフルートとクラリネットとグロッケン(ハープも入ってたかしら?記憶が曖昧)による編曲版。それともうひとつ、グラズノフのバレエ「ライモンダ」から賛歌。バンダのトランペットとホルンがオルガン席からも参加。派手ハデ。

指揮者の田部井さんは、わたし的には、何だか指揮者に見えない人なんだけど(失礼!)、オーケストラから良いところを無理なく引き出してまとめるのが上手いですね。スクリャービンでは、散満な感じの曲をとても上手に中心に向かってまとめていたのが印象的。な反面、一段と高いところからぐいぐいと自分の音楽を押しつける個性もあればいいのにと思いました。

相変わらず、プログラム・ノートも充実して、愛に溢れて読み応えあるんだけど、せっかくこんな素晴らしい解説なんだから、記名にすればいいのにって思いました。書いた人のお仕事もちゃんと讃えるという意味で。(もし、複数で推敲して書いているのでしたらごめんなさい)

新しい年の初めにこんなステキな音楽会を聴けて今年は良いことあるっ!!

by zerbinetta | 2014-01-05 22:58 | アマチュア

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