雪にも負けず、でも負けた 通奏低音付きベートーヴェン オーケストラヴィンデ第4回演奏会   

2014年2月8日 @東京藝術大学奏楽堂

ベートーヴェン:「フィデリオ」序曲、ヴァイオリン協奏曲、交響曲第5番

平川加恵(フォルテピアノ、カデンツァ作曲)
瀧村依里(ヴァイオリン)
渡辺祐介/オーケストラヴィンデ


朝から降りしきる大雪。これは、交通機関が危ない。音楽会も中止かなと思ったらやるみたい。ツイッターではリハの前のフォルテピアノのチューニング中と。行くのは危険かなぁと思いつつ、この音楽会はぜひ行きたかった。オーケストラヴィンデの「こんなベートーヴェン誰も聴いたことない」「日本初演かも知れない」通奏低音付きの演奏。これが楽しみでなくて何だろう?雪なんて何のその。ちなみにわたし、ベートーヴェンの曲(?)の世界初演を聴いたことあります。「マクベス」序曲という曲。かなりなレア体験。レア体験好き〜〜。

上野公園は、大雪原!懐かしの北海道のよう。遭難しないようによたよた歩いて、東京藝術大学の奏楽堂へ。夜の雪の中に灯る明かりは暖かかった。とてもきれいで、木のホールは居心地もいい。学生さんはここで勉強したり試験したりするのね。ステージでは、フォルテピアノの制作者、深町研太さんがステージ中央にある楽器を調律してて、フォルテピアノの音ってチェンバロに似ているのね。ピアノとは似て非なるもの。ティンパニは、小っちゃいの。トランペットやホルンは現代楽器でした。大雪のせいかお客さんは多くない。このオーケストラ、若いオーケストラ(団員も若い人が多い)で、ヴィンデというのはドイツ語でヒルガオのことだそうです。じみ〜。朝顔だったら愛でられるし夕顔だったら干瓢にできる。昼顔は。。。でもこのオーケストラ、ぶっ飛んでて9人で「大地の歌」を演ろうと結成されたそうなんです。その音楽会が「大地の歌」と伊福部昭、それからもブラームスとブラームスもどきのパーリーとかちょっと変わったプログラムの音楽会をしてるみたい。今日もね。

指揮者の渡辺さんは声楽家。BCJで長年歌っておられます。ちょっとカジュアルな、襟立て風のネル(?)のシャツを裏地が赤のジャケットの下に着てちょっとやんちゃ風。コンサートマスターの人も靴下赤で、このおふたりわざと赤いのを身につけてるのかな。結婚式で赤色を身につけると幸せ夫婦になるとか、勝負パンツが赤、みたいな感じかな。略式とは言え正装に靴下赤は違和感あったけど。そして、今日の特徴はもうひとつ。チェロのトップに、客演で、バロックの通奏低音が専門の山本徹さんが座っていることです。プログラムの解説によると、コンサートマスターだけじゃなくバロック期の合奏をリードしていた通奏低音の人がオーケストラをリードすることによってアンサンブルがより積極的になり上手くいくとのこと。さすがBCJで音楽してる渡辺さんの発想。実際、山本さんの目配りの良さは見ていて分かります。指揮者を見たりコンサートマスターを見たり、常に周りを見ていました。これ、アマチュア・オーケストラの皆さんにも真似して欲しいです。アマチュア・オーケストラを見ていてときどき思うのだけど、じいっと楽譜を見つめててまわりの人とアンサンブルしてないんですね。プロのオーケストラをよく見ていると、みんな実にまわりを見ている。ウィーン・フィルとかパリ、バイエルンのオーケストラなんか、隣の人と体動かしながら合わせたりして、自発的にオーケストラの中でアンサンブルしてるもの。そこまでゆらゆらしなくていいから、視線は常にまわりに動かした方がいいと思うのよ。

「フィデリオ」序曲はいきなりハイスピード、と思ったら、ゆっくりしてるところはゆったりとして、というかトゥッティで宣言するところだけが速いテンポ。オーケストラがまだ発展途上な感じで、まだまだというところが多かったです。で、目玉のフォルテピアノ。今日の3曲ともに入ったんですけど、モーツァルトやハイドンの頃には、交響曲でもオーケストラにチェンバロやフォルテピアノが入るのが普通だったのにベートーヴェンの頃からその習慣が廃れてきたというのがよく分かりました。オーケストラの音量が上がったので(ハイドン、モーツァルトの頃はオーケストラの人数も少なかったし、楽器も大きい音が出せなかった)、フォルテピアノが聞こえなくなるんですね。

ヴァイオリン協奏曲の独奏は、瀧村さん。ウィーンで修行をして去年の暮れから読売日本交響楽団の第2ヴァイオリンの契約(ってなんのこと?)主席奏者。藝大を出てウィーンに留学して帰ってきた若い人。ドレスがステキでした。彼女のヴァイオリンは、音程がとても正確で、アクの強いところはちっともないのだけれども、音がすうっと身体の中に入ってきてカルピスのような清々しさ。うぶな若々しさがあって、伸びやかに上に向かっていくような浮遊感がありました。草原の風のようなベートーヴェン。ただ、オーケストラの方は荒ぶれるところは荒ぶれて(特にティンパニが)、爽やかさと凶暴さの混じり合ったちょっと不思議な感じ。
わたし、この曲の第1楽章の第2主題(?)のメロディが8小節完結していて、終わってるなぁっていつも思っていました。メロディとして完璧で、分解したり展開したりできないなって。ベートーヴェン、何でこんな曲(彼の特徴って動機をいじりまくるスタイルじゃない)書いたの〜?って。なので、あまり好きではなかったんだけど、今日は好きになりました。第3楽章の、たまごクラブひよこクラブのメロディもかわいいしね。
今回新しく委嘱された、平川さんのカデンツァは聴き応えありました。ピアノフォルテのチェンバロ寄りの音色がちゃらららんとヴァイオリンに合ってたし、モーツァルトっぽかったり、ロマン派テイストだったり、ちょっとシュニトケ思い出しちゃったけど、遊び心タップリにティンパニのとんとんとんと上昇する音階のふたつの動機を無尽に展開させて、1曲書いちゃったみたいに。これ聴けただけでも、今日来た甲斐がありました。(3楽章の方は短い簡素なものです)

休憩のあと、最後は交響曲第5番。「運命」という名前は有名だけど、これは曲に付いたタイトルじゃないし(欧米ではタイトルなしが普通)、「運命」という曲にこびりついた曲のイメジを払拭したいので、この音楽会では、チラシにもプログラムにもタイトルなし。指揮をする渡辺さんの楽しく読み応えのある文章がプログラムに載っていて、珍しく聴く前に読んだわたしはとっても期待してしまいました。どうやらとっても速そう。協奏曲を弾いた瀧村さんも、第2ヴァイオリンのトップ・サイドで楽しそうに弾いていました。
で、実際速かったんだけど、もはや速いテンポは古楽器オーケストラで慣れてるし、オーケストラが振り落とされるんじゃないかと心配したほど想定外に速かったノセダさんとロンドン・シンフォニーの演奏を聴いているので、わたし的には想定内の速さのじゃじゃじゃじゃーーんでした。さすがにいろいろこだわりがあるようで、例えば、多分じゃじゃじゃじゃんの4つめの長い音に強いアクセントを置かずに流れを重視してるとか、ティンパニのトレモロの最後の4つの音を強調して運命の動機を強調したり、最後の音のふわりと着地するような抜き方とか、ニヤリとしてしまいました。ただ、少人数のオーケストラ(ファーストヴァイオリンが8人)から導き出された(それに渡辺さんのバロック音楽の経験の深さ)テンポや楽譜を読んで見えてきたここぞという場面で対位法的に絡まる音楽を表現するという意欲は少し空回りしていたように思えました。オーケストラの精度の不足で、じゃじゃじゃじゃんの音がじゃじゃじゃんと聞こえてしまうことも多かったし、最初の休符が(物理的な意味ではなく音楽的な意味で)なくなってしまったり、ホールがとても良く反響するので旋律が思ったほど分離して聞こえなかったようでした。それでもあのテンポに食らいついていったオーケストラは褒められるべきだし、渡辺さんのたくさんのアイディアは聴いてて面白いわたし好み。
第2楽章と第3楽章は、あまり変わったことはしていないように聞こえたけど、大好きな、第2楽章の木管楽器が点描的に音を置く、星々がまたたくようなところは弦楽器を抑えめにした工夫がとてもステキで、前に感動したMTTとサンフランシスコ・シンフォニーの演奏を思い出しました。
第4楽章は、それこそ嵐のような体育会系のような、指揮者渾身の熱い演奏。指揮って格闘技よね、と言いたくなるような、なんか凄いなぁ、わたしが息を切らせるのには至らなかったけど、精一杯やりきった感じの清々しさ。それにしても今日の音楽会ではティンパニが(もともとベートーヴェンの音楽ってティンパニが喧嘩するように叩きまくるのですが)ばしばし叩いていましたね。好きだけど、何でもかんでもティンパニが覆い尽くすようでちょっと単調にも聞こえました。いろんなニュアンスを付けられればもっと音楽が広がるのにっては思いました。
もうこの交響曲(通奏低音が使われたのか使われないのかよく分からないちょうどその中間くらいの時代の曲)ではフォルテピアノは、ときどき静かになったときに聞こえるくらい(あとは第3楽章の最初の低弦のテーマ)で、曲の印象が大きく変わることはなかったです。わたしとしては、古楽器演奏の皆さんがやるようにソロでアドリブを入れるみたいに、突然フォルテピアノが暴走してブランデンブルク協奏曲第5番ばりの長大なソロを弾いて欲しかったです(ウソ)。
実は、「運命」を取り払った交響曲第5番、かわいい系の「誰も聴いたことのない」ベートーヴェンを密かに期待していたのですが、その点では、それほど大きく変わったベートーヴェンではなかったです。疾風怒濤のシュトゥルム・ウント・ドラングのベートーヴェンは、最近の流行りのようにも思えるし。でも、若者のベートーヴェンで良かったと昔若者だったわたしは思いました。こういうにやにやさせてくれる演奏は大好きです。

でも、この発展途上のユニークなオーケストラ、ぜひ、これからも一風変わった音楽会を続けていって欲しいです。せっかく出会った渡辺さんともまた共演して欲しいな。今度は、う〜〜ん、バッハのマタイ受難曲のメンデルスゾーン版なんかで♫

熱くなって会場を出たのに、雪は止まらず。ますます降り積もって止まったのは電車。わたしは、家に帰れず、初めての帰宅難民として上野駅の電車の中で一夜を明かしました。オーケストラの人たち、無事に帰れたのかしら?あっ!夜を徹しての打ち上げだからそんな心配いらないか。充実した音楽会のあとのお酒はおいしそう。うらやましい!
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by zerbinetta | 2014-02-08 00:52 | アマチュア | Comments(2)

Commented by のか at 2014-02-12 02:11 x
ヴィンデのコンマスです。演奏会へのご来場及び記事ありがとうございました。ただ、帰宅難民となられてしまった点については、申し訳なく思います。団員も半数近くは上野で始発を待っておりましたが…。演奏の内容については、詳細にコメント頂いており、本当にありがとうございます。あのホールは特にステージ上と客席の音の感じがかなり異なる事、また座席によっても鳴り方が違うという意味でクセがあり、様々なご意見ご感想頂けるのが本当にありがたいです。どうぞ今後ともオーケストラヴィンデをよろしくお願いいたします。
Commented by zerbinetta at 2014-02-12 23:21
のかさん、
初めまして。コメントどうもありがとうございます。
とても、良い音楽会でした。大雪の中、出かけていってホントに良かったと思います。団員の方たちも大変でしたね。でも、あの充実した時間のあとだったら熱を冷ますのにちょうど良かったかも知れません。

ホールを味方にするのは難しいですね。長年ひとつのホールで演奏していればできるのでしょうけど、演奏回数も少ないし、毎回ホールが違うかも知れないアマチュアではなおのことです。

オーケストラヴィンデのちょっとひねったプログラムが好きです。これからもこの路線で、面白い音楽会を聴かせて下さいね。楽しみにしてます。

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