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部屋を片付けてリア充へ 「死の都」@新国立劇場   

2014年3月24日 @新国立劇場

コルンゴルト:死の都

カスパー・ホルテン(演出)、アンナ・ケロ(再演演出)
エス・デヴリン(美術)、カトリーナ・リンゼイ(衣装)
ヴォルフガング・ゲッペル(照明)、シグネ・ファブリツィウス(振付)

トルステン・ケール(パウル)
ミーガン・ミラー(マリエッタ、マリー(声))
アントン・ケレミチェフ(フランク、フリッツ)、山下牧子(ブリギッタ)、他

ヤロスラフ・キズリンク/東京交響楽団、新国立劇場合唱団、世田谷ジュニア合唱団


もうとっても楽しみにしてたんですよ。わたし的に今年最大の音楽会イヴェントってくらい。観に行った人の感想もちらりほらり耳に入ってきて、なるべく耳を閉じるようにして、やっとこ最終日に行ってきました、「死の都」@新国立劇場。これ書き終えたら、やっと皆さんの評が読める、ものすごく出遅れた感。それにしても、月曜日の公演、ソワレだと思って買ったらマチネだった罠。どんな人が来るんだろうと思っていたら、普段の音楽会と変わらない感じの客層。まあ、オペラのために1日くらいお仕事休めるものね。いいことだわ。

コルンゴルトというとヴァイオリン協奏曲くらいしか聴いたことなくて、あっそう言えばプロムスで序曲みたいのを聴いた気が、あとCDで交響曲を聴いた。退廃的と評された(意味もなくだけど)音楽。今まで聴いた感じでは、リヒャルト・シュトラウスばりの艶やかなロマンの香りのする音楽に、映画音楽のような甘美なメロディ(今日のオペラは、若い頃の芸術音楽の作品だけど、後に米国に亡命して映画音楽の分野で(心ならずも?)活躍してる)。それにしても今日の「死の都」は23歳の作品。天才!と言うのにふさわしい音楽。なんというか、奇跡。これだけの音楽を23歳で書いたとは。ただ、作風からすると遅れてきた天才だったのがある意味、悲劇だったかも。芸術音楽と映画音楽(ほんとに才能あるのに)の間で揺れ動いたというか引き裂かれた後半生。

音楽は、でも、わたしは意外とシュトラウス的じゃないと感じました。シマノフスキの若い作品の方がよっぽどシュトラウス的。バスの動かし方かな(?)、ちょっとシュトラウスとは違うと思いました。でも、豊かなメロディとゴージャスなオーケストレイションはコルンゴルトならでは。3時間、シームレスに(実際には2回休憩が入りますが、繋がってる)魅力的な音楽に酔うことができるオペラです。キズリンクさん指揮の東京交響楽団は、健闘していたけれども、シュトラウスばりのオーケストレイションのグラマラス感がもう少し欲しかったです。日本のオーケストラは今まで聴いた感じだと、マーラーは得意だけど、シュトラウスのゴージャスな音を出すのは苦手に思えます。根が生真面目だからでしょうか。外連味がもっと必要。
一番ステキなアリアが第1幕で早速出てきて、もったいな〜いって思ったら、この歌が最後に還ってきて、この物語の核心が明確に現れる様に胸がきゅんと締め付けられる感じがしました。うーむ、参りました。この歌、(伴奏の)バスが独特の動きをしてると思うんだけど、これって、プロコフィエフの「シンデレラ」の冒頭の曲の変なチューバに似てない?と思うのわたしだけかな?

舞台は、幕が開いたとたん、パウルの神聖な部屋(亡くなった妻マリーの思い出が満ちている)になるのだけど、もちょっと片付けたらって思っちゃった。ちっちゃな品々で足の踏み場がない感じで。思い出が詰まってることの表現なんだけど、そこまで具体的にしなくても分かるよって思う。昔メトの「トリスタン」で舞台にたくさん置かれた小道具を手に持つことで、クーヴェナールの説明的な歌をだめ押しで説明しているくどさを少し感じました。それから、この舞台では、亡くなったマリーが常に舞台にがいて(黙り役のダンサー)びっくりしたんだけど、これは賛否両方ありで、わたしは最初、見えない幻覚(地縛霊?)のようなものだからちょっと違和感あったんだけど、慣れてきたら話が分かりやすくなるし、邪魔でもないのでいいなって思えました。
転換のない舞台はシンプルで、第2幕は街の場面なのに1幕と同じ部屋なのはなに?ってすぐ思ったけど、真ん中にあるベッドが開いて下から(コメディアデラルテの)人がわらわら出てきて自然に舟になったのは、ステキ。部屋の後ろの窓が開かれるとブリュージュの街が鳥瞰で現れてキュビズム的な舞台といい、さりげなく工夫された照明といい、黙り役のダンサーふたりの振付といい、ちょうど必要十分な感じの衣装といい、細やかな上質のセンスがとってもいいです。さすが、フィンランドのプロダクション ←フィンランドの食器好き、ムーミン好きw

歌は、パウルを立ったケールさんよりもフランクを歌ったケレミチェフさんがいいとわたしは思いました。始まりのシーンでふたりが歌うとこ、ケレミチェフさんの方が張りや音量があって、この人の方が主役だなって思ったもの。ただ、パウル役は出ずっぱりで、ペース配分をかなりしっかりしないと歌えないみたいなので、そこまで言うのは酷なのかなと。ケールさんは、パウルをたくさん歌っていて、この役を自家薬籠の中に入れてる方なのですね。最後まで、力を保ったまま歌いきったのはさすがです。
マリエッタのミラーさんもとても良かったし、まわりの人たちもうんと良かった。第2幕に、道化がとてもステキな歌を歌うんだけど、これもとても良くって、うちに帰って確かめたらケレミチェフさんが、2役で道化も歌っていたんですね。気がつかなかったーー。

お話は、地縛霊に取り憑かれたオトコが、半分夢の中で巫女の性的なお祓いを受けて自分を取り戻すってこと?一言で言うと。現代日本に置き換えたら、部屋をフィギュアで満たして引き籠もってる若い男が、突然現れた理想の女と現実とも妄想ともつかないセックスをし夢の中でリア充を体験したら部屋の外に出る決心をした、みたいな(このコンセプトだと最後のシーンはパウルが部屋を片付けてる)。豊穣の過去への別離と歩みだし、といういわゆる世紀末で、マーラーやシュトラウス(はまた過去へ引き戻された感があるけど)が示した音楽世界に通じるオペラ。もちろん、過去に囚われがちの現代のわたしにも。わたしは、まだ過去に囚われてるので、誰か王子さまが未来へ導いてくれないかな、なんてオペラを観て妄想したりして。

これは、本当に観て良かったオペラです。音楽がステキすぎてオペラの魅力に溢れまくってる。オペラを観るのはバレエに押されて少し控えてるんだけど、オペラ熱がムラムラとまた。マズイですね。破産しちゃう。。。

by zerbinetta | 2014-03-24 15:38 | オペラ

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