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大絶賛! 東京シティ・バレエ団 ロミオとジュリエット   

2014年7月13日 @ティアラこうとう

ロミオとジュリエット

セルゲイ・プロコフィエフ(音楽)
中島伸欣(構成、演出、振付)
石井清子(振付)

中森理恵(ジュリエット)、石黒善大(ロミオ)
李悦(ティボルト)、春野雅彦(パリス)
加藤浩子(乳母)、高井将伍(マキューシオ)、その他
東京シティ・バレエ団

井田勝大/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


前に、ふとテレビで「バレエの祭典」というのを観ていたら、東京シティ・バレエ団のベートーヴェン交響曲第7番という作品が目を捉えたの。とてもいい。すごくいい。それなら、ぜひ、東京シティ・バレエ団をちゃんと観てみたい。ということで公演を探してみたら、「ロミオとジュリエット」をやるというので早速チケットを手にしたのでした。

東京シティ・バレエ団は、東京シティ・フィルと共に江東区と芸術提携しています。江東区にバレエ文化を根付かせるという大胆な発想で、ティアラ江東での公演の他、バレエ教室などを行ってバレエを区民をつなぐ役割をしています。新国立劇場バレエのようなフラッグ・シップを担うバレエがある一方、市民の身近にあるバレエってステキじゃないですか。バーミンガム・ロイヤル・バレエがバーミンガムのマリインスキー劇場がサンクトペテルブルクのおらが町のバレエ団という意識を市民が持っているようには、日本の新国立劇場バレエは、地元のバレエ団という意識が小さい感じがして、でもそれは野球なんかでも同じ(みんな巨人好きだし。USだと、ヤンキーズのファンは主にニューヨーク関係の人。全国区の球団なんてないのね。チーム名も都市名で呼びますしね)で日本人には地元最強という意識がもともと弱いのかもしれませんね。
そしてテレビで観た限りでは東京シティ・バレエ団ってとっても上手いし、値段を見たらそれほど高くない。ティアラこうとうは、もともと小さな作りなのでわたしの座った一番上の後ろの方でもステージに結構近いんです。これで3000円ならお得感あり(早くにチケット取ると同じ値段でももっと前の方がとれたと思います)。
近くの席に、昨日プリンシパル・ロールを踊って今日お休みの人たちが座っていました。


「ロミオとジュリエット」はもちろん、マクミラン版が有名で、わたしも大大大好きです。中島/石井版の「ロミオとジュリエット」はどうでしょう。ドキドキしながら観はじめると、いきなり組曲版の「モンタギュー家とキャピレット家」の音楽、あの順次重ねられる金管楽器の不協和音で始まってびっくり。序曲はないの?さすがに続いて朝の街のシーンにいったんですけど、ちょっとびっくりした。この和音旋律を悲劇を予想させるライト・モチーフとして使ってるんでしょうか。わたし的にはそこまでしなくても良いと思いました。他にも、音楽の順番変えやカットがあったんですが、プロコフィエフの音楽が物語に沿ってきっちりと充実しているだけにもったいないと思いました。多分、バレエ団の都合によるカット、例えば、3馬鹿トリオの踊り(組曲では「マスク」)などはまるまる削除されているのは、音楽がいいだけにもったいないです。3人の中のペンリーヴォの存在感がほとんどないのは、ここに優れたダンサーを用意できないという事情があったからでしょうか。音楽ついでに、演奏をつとめた、井田さんと東京シティ・フィルは、もう少しがんばって欲しかったです。まとまっていたものの、プロコフィエフの音楽を音楽に集中して堪能できるパワーがなかったです。

振付は、マクミランのをベースにしていると思われたのですが(マクミランもラブロフスキーのをベースにしてると思われる)、細かな部分はだいぶ変わってるし、大きな変更もあります。でも、マクミラン版に親しんでるわたしにも違和感なく十分楽しめました、という程度ではなく素晴らしいと思いました!マクミランよりもこちらが好きという人がいてもいいくらいに。シンプルなセットなどは、予算や設備の都合もあるのかな、とも思いましたが、必要十分だし、何よりも小さなバレエ団でもここまでの作品を作ることができることを示したという点で大満足です。
さっきも書きましたが、もともと存在感の薄いペンリーヴォの踊りを省いたり、娼婦たちを目立たなくしたりしたのは、残念な変更で、これは、街の雑多な人たちをこれでもかというくらいにひとりひとり描いていくマクミランの方が上手いです。シェイクスピアの猥雑さや言葉遊びは、舞台上にひとりひとり生きたたくさんの人を乗せて絡み合わせることで生きてくると思うんです。

東京シティ・バレエ団は演劇的なバレエ団です。
名前のない役のひとりひとりがきちんと顔を持って演技していました。ロイヤル・バレエ流ですね。ロイヤル・バレエでバレエに馴染んだ身としては、こんなバレエ団が日本にもあってとても嬉しいです。もともと演劇であるシェイクスピア原作の作品は、このバレエ団向きの演目と言って良いでしょう。
中島/石井版で特筆すべきは、お終いの方でジュリエットの心象風景を表す黒子の骸骨たちが登場したこと。これはとってもステキと思いました。ジュリエットとの踊りは、ジュリエットの内面をとても象徴的に的確に表していましたから。反面、神父に託された手紙を持って行く僧が途中、伝染病騒ぎに巻き込まれてロミオにそれを渡せなかったことを示すシーンは、物語を知っている人ならば分かるとは思ったけど、知らない人は分からないなと思いました。物語を追う演出、すれ違いのシーンはロミオとジュリエットの悲劇に向かう重要な鍵かもしれないけど、表面的に物語を追うことで、かえって散満になったという印象を受けました。マクミランの大胆な取捨選択に軍配、かな(物語を簡素に集中させて、ロザリンデや娼婦など登場させた脇役ひとりひとりの描き方が凄いから)。

中森さんのジュリエットは、パリスを紹介されたときちょっと興味を示してみたり、初めての男に対して初心だけど冒険してみたいような思春期の少女を少し現代的に演じていたと思います。ただ、決定的な瞬間、例えばロミオを見て一目で恋に落ちるところとか、滑らかでシームレスに流れていたような気がして、それが少し物足りなかったです。一瞬で容赦なく変わる運命が悲劇ですから。感情が平坦なのは、日本人っぽいのです。でも、これらは、中森さんなのか、演出がそうなっているからなのかは、1回観ただけなので分かりません。違うキャストでも観たかったし、もっと何回も観たいと思いました。この公演キャスト違いで2回しかやらないなんてもったいなすぎ。
石黒さんのロミオも中森さんのジュリエットと息ぴったりで、バルコニーのシーンの喜びに満ちた踊りは美しかったです。若いおふたりがこれから成長してスターになっていくことを期待しましょう。敢えて若いキャストの日を選んだんだけど、わたしにとっては正解でした。(でもやっぱり違うキャストでも観たい!)

まわりを固めるダンサーたちもそれぞれに良かったです。突出したオーラを放ってる人はいなかったけど、舞台を楽しむには十分。というか、ひとりひとりしっかりしていますね。舞台の中にまとまっていました。全体としてみたときのまとまり方がちょうど良いというかとてもバランスがとれていて舞台に集中できました。

それにしても、予算の少なそうな小さなバレエ団でもここまで素晴らしいものができるという驚きと喜び。自分の文章を読み返してみると、斜め目線で批判的な書き方してると自分でも思うけど、ほんとは見終わってめちゃくちゃ感激したのですよ。わたし絶賛です!それに、中島/石井版は、シンプルで上演しやすそうなのでもっといろんなところで上演されればいいな、と強く思いました。上質なバレエを見せてくれる東京シティ・バレエ団は、これからは外せないバレエ団に決定。応援します。

by zerbinetta | 2014-07-13 11:11 | バレエ

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