ヨーロッパの中心でモーツァルトに真っ直ぐつながるチャイコフスキー ブロムシュテット/N響   

2014年9月20日 @NHKホール

モーツァルト:交響曲第40番
チャイコフスキー:交響曲第5番

ヘルベルト・ブロムシュテット/NHK交響楽団


去年、N響に客演したブロムシュテットさんを聴きそびれたことを後悔していました。ブロムシュテットさんは、最長老指揮者のひとり。今聴いておかないと、もう聴くことができなくなるかもしれません。と思ったら、登場したブロムシュテットさんは元気いっぱい。お若くも見えるし(15年ぐらい前に見たときと変わっていないような気がした)、椅子無しの指揮台でずっと立ったままの指揮で、歩くときも矍鑠としてらっしゃるし、良かった。もっとたくさん聴けるように長生きして下さい。

今年のプログラムは、モーツァルトとチャイコフスキーの最後の交響曲群を組み合わせたシリーズ。サントリーホールで行われた初回(第39番と第4番)は、聴きに行かなかったので2回目、第40番と第5番からです。

小編成のモーツァルトは、予想外の展開にびっくり。速い!ヴィブラート少なめで快速テンポのモーツァルトは、ピリオド系の演奏で馴染んではいるけど、まさか、ブロムシュテットさんとN響から聴けるとは思ってもみなかった。ほんとのこと言うと、ブロムシュテットさんの演奏は、あまり聴いたことなくて、どういう演奏をしてきた人なのかは知らなかったんですけど、モダン・オーケストラ畑にいておじいちゃん指揮者ということで、勝手にもちょっとロマンティックな演奏をするんだろうと想像してたんです。ブロムシュテットさんのこの演奏が、昔からのスタイルなのか、ピリオド系の成果を採り入れたものに変わってきていたのかは、分からないんですけど。でもね、これはステキな演奏だと思いました。第2楽章もさくさくと速くて(ここが一番びっくり)、短調のこの音楽に、あの有名な「悲しみは疾走する」という言葉が、(この曲に付けられた言葉ではないにしても)どうしてもピッタリと思い出されました。そして、この演奏は、N響にこそふさわしいと思いました。ロンドン・シンフォニーやウィーン・フィルなんかでは、音色の柔らかさ豊潤さが邪魔をしてこういう音楽にはできないなと思いましたから(器用にやることはできるかもしれないけどそれは、彼らの良さを消すことでもあるから)。ただ、ひとつ、残念だったことは、近所に座ったおじさんが盛大ないびきで寝ていたこと。いびきをかくなら外で寝てよ。

もっとびっくりしたのはチャイコフスキー。わたし的にはブロムシュテットさんって北欧ものとかブルックナーなので(CD持ってるから)、チャイコフスキーは想像できなかったんですけど、始まりの序奏からあまりの展開にびっくり。なんて細かい。デジタル!クラリネットの旋律の強弱をまるでステレオのボリュウムつまみをカチカチと(デジタルなのでカチカチと)回すように細かくでも明確に付けてくるんです。そして、被さってくる弦楽器のテヌートの音符との対比。楽譜通りと言えば楽譜通りなんだけど、ブロムシュテットさんの中に音量や表現の絶対的な基準があって、それぞれが相対的ではなく、ブロムシュテットさんが決めた絶対的な音量や表現で演奏されていたと思います。そして、譜面をなぞって演奏したのにとても熱い。
ブロムシュテットさんが楽譜ばかり見て、チャイコフスキーの残した唯一のテキストである楽譜からのみ音楽を求めたことによって、チャイコフスキーの交響曲が、ロシアを出て、西ヨーロッパの真ん中の交響曲の伝統の大きな幹に、モーツァルトやベートーヴェンに直接つながる交響曲として聞こえました。チャイコフスキーの演奏が常に持っていた甘やかな叙情や、メランコリックな表情、ロシアの民俗的な体臭は、背後に追いやられて。
わたしは、ゲルギーの以前の演奏のような、同郷の人にしかできないようなニュアンスに満ちたチャイコフスキーの演奏が大好きなので、交響曲のうつわを大事にしたブロムシュテットさんの演奏は、好きな演奏とは言えません。でも、ここまで徹底的にやられるともう参ったと言うしかないのです。ものすごく納得。チャイコフスキーの音楽の新しい面を聴かせてくれたと思います。西ヨーロッパの中心を常に意識していたチャイコフスキー。ブロムシュテットさんの演奏は、そんなチャイコフスキーの音楽を徹底的に表現していたとも思えるし、実は最近のゲルギーが秘かに目指している音楽に近いのでは、なんて思いました。
好き嫌いは別にして、すごい演奏を聴いた。稀にみる充実した音楽会でした。次の第41番と6番にも期待が膨らみます。
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by zerbinetta | 2014-09-20 19:56 | 日本のオーケストラ | Comments(0)

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