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新しい時代の到来の予感 パーヴォ/N響 マーラー1   

2015年2月7日 @NHKホール

エルガー:チェロ協奏曲
マーラー:交響曲第1番

アリサ・ワイラースタイン(チェロ)
パーヴォ・ヤルヴィ/NHK交響楽団


兄ビーことパーヴォ・ヤルヴィさんが、来シーズンからN響の音楽監督になられるという発表には驚かされたけど、今日は一足早く、その兄ビーがN響に客演。プレお披露目コンサート?期待期待。
でも、実は、わたし、兄ビーとはあまり馬が合わなくて、、ついでに今日のソリストのワイラースタインさんとも馬が合わなくて、、、しかもN響はあまり好きじゃなくて、、、、さらに渋谷は電車を降りたとたんにうんざりで。つらい。。。と、へなへなと出かけてきたんだけど、帰りは渋谷の坂をスキップで下りたい心境。いやぁ楽しかった。面白さ抜群。超充実の音楽会でした。結論を先に言うと、熱く感動した演奏ではありません。感動はしたんだけど、もっと知的な興奮で、例えて言えば、深遠な問題が E=mc^2 のようなシンプルきわまりない数式で解決する美しさに感動したみたいな。それをマーラーの最初の交響曲で聴けるなんて。そしてN響の変貌ぶりに大拍手。

プログラムの前半は、ワイラースタインさんのソロでエルガーのチェロ協奏曲。ワイラースタインさんは最近、人気急上昇の若手チェリスト。とても魅力的な音の持ち主です。わたしもそれはすごく同感なんだけど、どうしても音楽がすれ違っちゃうんです。エルガーもちょっと素直な感じですうっと抜けてる、広々とした感じが、何だかイギリスの冬のどんより感と合わなくて(あっ。イギリスでもお天気の日はうんと気持ちがいいんですよ。たまにしかないから尚更)。わたしの好みは、もっとスモーキーで口に残る渋さのある演奏。それが彼女には足りないというか、彼女の良さは別のところにあるというか。ほんと音はきれいで、最弱音でも大きなNHKホールを響かせちゃう(最弱音のまま痩せずに最上階の席に届く)音のコントロールはすごいと思うもの。
アンコールには、バッハ無伴奏チェロ組曲第3番から「サラバンド」。ハミングするような静かなバッハでした。彼女はバッハをどう弾くのかしら?全曲を通して聴いてみたいです。

後半は、マーラーの交響曲第1番。プログラムには、前島さんがこの曲の成立史を書かれていて、最終的な交響曲第1番には「巨人」というタイトルは付いていないと書かれているのに、曲目には敢えて「巨人」と付いていたのが反目してるようでちょっと可笑しかった。わたし的には、最近たまに演奏されるようになった交響曲の前身の5楽章版の「巨人」と区別する意味で、交響曲は単に第1番と呼んでるけど、まあ細かいことを言わなければどっちでもいい。「巨人」といって元になった小説を読んだことのある人はいないだろうし、まさか「進撃の巨人」や野球のチームを思い浮かべる人もいるまい(ちょっとかっこつけてまい)。抽象的すぎてもはや単なる記号のようなものだろうし、ニックネームがある方が親しみやすく覚えやすいという人もいるだろうからそんなに目くじら立てなくてもって感じ。それに、第3楽章についてた表題、「カロ風の行進曲」は、(カロではなくて)シュヴィントの絵を思い浮かべるととても感じがつかめるし。と、長々と書いてしまった。あっちなみに、わたしは、「巨人」のタイトルの付く前の一番最初のヴァージョンが大好きです♥

兄ビーとN響のマーラー、始まりの静かなラの音から張り詰めた引き込まれるような空気を醸し出していました。ゆっくりとしたテンポで楽器の音色やバランスに細心の注意が払われていて、春の始まりの夜明け前というより、革命前夜の緊張感。お散歩するような旋律が出てきてほっとするのもつかの間、なかなか気持ちが晴れない音楽。リピートで2回目を1回目とは違う表情を付けたり、ほんと細かいところにまで目を配ってるのだけど、決してわたしたちを寛がせない音楽。まるで世界を歪んだ鏡で見ているように、いろんな音がデフォルメされたり隠れているものが見えてきたり、歪んでいるけどひとつひとつは異様にクリア。
兄ビーはわざと焦らして、エネルギーを解放させない。一直線に盛り上がるんじゃないかと思うと引っ込めちゃったり、音楽を止めたり、手練手管で焦らしまくるから、わたしの中に行き場のない快感がどろんと淀んできて、もうこのまま春は来ないんじゃないかと思ったとたん最後の最後に音を解放して終わるという、見事な作戦。わたし的には、第1楽章はもっと素直に春、でいいんじゃないかって思うのだけど。。。

第2楽章は、最初ゆっくり初めてアチェレランド。このやり方は前に聴いたことあるんだけど、今日、兄ビーので謎が解けた。トリオを挟んで2回目はアチェレランド無しだから、このアチェレランドの部分(4小節?)は、序奏なのね。この楽章も、木管楽器が色彩的で(今日の木管楽器、ときにオーボエはブラヴォ)素敵。ホルンのゲシュトップでのベルアップもトップの人、あり得ないベルアップして、視覚的にも楽しいの。1楽章を聴いた後なので、わりと普通かなと思ったら、ホルンの消えていく独り言のような合図の後のトリオは、とてもゆっくりと春の日の中であくびをするように、の〜〜〜んびりとした音楽。兄ビーさんのフレーズの最後をすううっと抜いて音楽を止めて、またやり直すのは一瞬危険だけどはっとさせられる。

第3楽章の始まりのコントラバスはソロで。今日の白眉は、闖入者。動物たちの葬送の歩みに闖入してくる陽気な楽隊。その大太鼓の音色にものすごくこだわりがあって雰囲気に合っていて最高。こんなの初めて聴いた!それにしても、突然の闖入者のコントラスト、これがもう唐突で、でもマーラーが描いた世界ってこういうのよね。以前にオランダの街を夕暮れ時に歩いていて、路地を折れたら急に手回しオルガンが目の前に聞こえてきた驚き。もしくは、下北沢の商店街を歩いていたら突然賑やかなちんどん屋さんと邂逅した、時を遡った郷愁。菩提樹の下、雪のように舞う花びらの中で夢を見ていた。

突然のシンバルの強打、この音色が今日の2番目のびっくり。それにしても、兄ビーの打楽器への音色のこだわりハンパない。何と言う色彩的な打楽器群。今日はほんと、打楽器と木管楽器が素晴らしかった。相変わらずの音楽を止めるかのようなフレージングが炸裂して、巨木が倒れるようなつなぎの部分とか、叙情的な第2主題で効果を発揮。面白いったらありゃしない。もう脳細胞をつつきまくられて知恵熱が出るような興奮。最後は、トロンボーンやトランペットの助けを借りずに、譜面通り立たせたホルンでしっかり盛り上がって(と言ってもわたしの理想は、バンダのホルン10本くらいを客席から演奏させて大盛り上がりなんだけど)フィニッシュ。納得の演奏。ではあるんだけど、熱く感動したかというとそうではなくて、面白くって知的興奮の方がはるかに大きな演奏でした。情より知が勝る演奏。もっとストレイトに青い若さで情に訴える部分があればすごい名演になったんだけどな。兄ビーさんはそんな青臭さを出すにはもう老獪すぎる?この曲大好きなのに、心の底からのめり込んで感動したという演奏にはまだ出会えずにいるのよね。多分、わたしの脳内理想音楽がヘンテコな方にいってるからだと思うのだけど。とは言え、記憶に残る間違いなく素晴らしい演奏でした。客席も熱を持って盛り上がり。

それにしても今日のN響、いつもの上手いけどもやもやを感じさせるN響じゃなくて嬉しいびっくり。来シーズンからの兄ビーとN響の結婚、素晴らしいものになるんじゃないかと予感。N響、変われるんじゃないだろうか。全ては、N響が変化することを躊躇わない一歩を踏み出せるかどうか、お客さんが新しい音楽の地平を受け入れられるかどうかにかかっているのですけど。わたしは、楽しみにします。兄ビー、思いきりやってくれーー。

by zerbinetta | 2015-02-07 23:11 | 日本のオーケストラ

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