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たくさん捧げられてきました BCJ 音楽の捧げ物   

2015年2月8日 @佐倉市民ホール

バッハ:オブリガートチェンバロとヴァイオリンのためのソナタ BWV 1016
バッハ:オブリガートチェンバロとフルートのためのソナタ BWV 1030
バッハ/鈴木雅明:「われ天の高きところより来たりぬ」に基づくカノン風変奏曲 BWV 769a
バッハ:音楽の捧げ物 BWV 1079

鈴木雅明(チェンバロ)、若松夏美(ヴァイオリン)
荒木優子(ヴァイオリン、ヴィオラ)、管きよみ(フルート・トラヴェルソ)
武澤秀平(チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ)


バッハが苦手です。それは、のだめが告白するように「バッハは正しすぎる」と感じるから。なにか、不完全でダメダメなわたしには、近づきがたいものを感じてしまうんです。ところが、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の演奏を聴くとそんなこと思わなくなるんですね。正しさよりも温かさを感じるバッハ。

今日は「音楽の捧げ物」。ものすごく不思議な感じのする良い曲なのにあまり演奏機会がないらしいの。バッハがフリードリッヒ大王を訪問したとき、王が示した主題をバッハが即興演奏したものを基にさらに書き足してカノンやソナタの曲集としたもの。この’王の主題’自体がとても不思議な感じのする旋律で、わたしは、これ、昔ラジオでよく流れていた(確か「現代の音楽」のテーマ曲)、6声のリチェルカーレのウェーベルンによるオーケストラへの編曲によって知ったの。バッハのオリジナルのを聴いたのはずいぶんあと。ウェーベルンのは点描的なオーケストレイションと旋律の現代曲っぽさで、元はバッハの曲なのに現代音楽のように聞こえます。暗い空の彼方から聞こえてくるような音たち。

音楽会は雅明さんの短いお話付き。これが、聴くポイントをしっかり教えてくれてとても良かった。特に「音楽の捧げ物」の解説は、迷うことのない地図になりました。チラシには「音楽の捧げ物」としか書いていなかったので、それだけの短い音楽会かなと思っていたら、前半にはソナタとかあって終わってみたらものすごく充実した内容。いろいろ捧げられまくり。

前半は、ヴァイオリンのためのソナタとフルートのためのソナタ。そして、カンタータの中のカノンを今日のアンサンブルのために雅明さんが編曲したもの。
ヴァイオリン・ソナタは、ビヨンディさんとアレッサンドリさんの演奏のCDで親しんでいて、それがものすごくスタイリッシュでかっこいいんだけど、今日の若松さんと雅明さんの演奏は、もっとソフトで親しみ易い感じ。ティアーデって感じかな。この曲の明るい楽しい雰囲気と合っていて、凄みはないけど、寛いで音楽を聴けるのがステキでした。

フルート・ソナタは初めて聴く曲。やっぱり好きだ〜フルート・トラヴェルソ。ソット・ヴォイチェというか、高音楽器だけどメゾという感じで、キーのない木管楽器の音色は、上質のタオルの肌触り。人肌の音。管さんのトラヴェルソは、まさにそんな音の優しい歌。難しい曲なのかもしれないけど、そんなことは微塵も感じさせない軽やかな演奏でした。

カノン風変奏曲は、さっきまで雅明さん(チェンバロ)の譜めくりをしていた女の子が、オルガンで参加。オルガニストだったんですね。プログラムに名前のクレジットがなく、雅明さんがさっと紹介しただけなので名前は覚えてないんですが。今日一番の大編成(?)で、有名なルターのコラール(賛美歌でよく歌いました)をカノンで飾ってるんだけど、ときおり前面に出てくるコラールの旋律が、あっ来たか!って感じで喜び倍増。

「音楽の捧げ物」は、トラヴェルソ、ヴァイオリン、ヴァイオリン/ヴィオラ、チェロ、チェンバロの5人編成(曲によって変わるんですけど)。最初に「王の主題による各種のカノン」5曲が奏されて、3声、6声のリチェルカーレ、ソナタとカノンへと続きます。この音楽、どういう編成で演奏するのか、どういう順番で演奏するのか、演奏者の考えで違うんですけど、今日のは、最初にシンプルな単品のカノンがあって徐々に複雑に発展していく感じで良かったです。テストの簡単な計算問題から文章題に進むみたいな順番。締めのソナタは、華々しい音楽だしね。
各種のカノンでは、雅明さんの解説があったので、螺旋カノンが面白く聴けたし、バッハの仕掛け(予想外の音を闖入させてどっきりさせるとか)が明確に聞き取れて面白かったです。バッハって’正しい’人だと思っていたけど、わざと‘正しくない’ことをチラリと入れて舌を出したり、意外と茶目っ気のある人なんだな。
ひとつの主題から、楽器を変えたり、部品の組み合わせを変えたり、旋律をちょっといじったり、まわりを変えたりで生み出される多彩なカノンの音楽。カノンって、厳密な規則があったりものすごく完璧な音楽だけど、バッハの手技はそれ以上にものすごくて畏れ入るばかり。でも、それが演奏されるともう本当にステキな音楽なんですね。BCJの人たちは、完璧な上に寛いだ雰囲気まで付け加えて、いつも一緒に演奏しているお互いの信頼感がなせる業ですね。そして、みんながバッハをずうっと演奏してきて、バッハがそばにいる。わたしにはまだ威厳のある怖い(正しい)人のバッハも、彼らにとっては親しい友達なのかもしれません。バッハって意外にツンデレ。わたしも早くツンを卒業してお近づきになりたい。万華鏡のような音楽はあっという間。そしてその充実感。ものすごく精巧に彫られた掌中の象牙細工の美しさをじっと見つめていたみたい。ほんと音楽って素晴らしい。バッハがまた好きになりました。

by zerbinetta | 2015-02-08 23:35 | 日本のオーケストラ

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