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もう孤独ではない 新交響楽団@第23回柳原音楽祭   

2015年10月11日 @千寿桜堤中学校体育館

ニコライ:歌劇「ウィンザーの女房たち」序曲
ベートーヴェン:交響曲第1番
シュミット:交響曲第4番

寺岡清高/新交響楽団

えっ?こんなのがあったの?という大変ローカルな音楽祭。東京でもない、足立区でもない、柳原ですよ。柳原商店街。商店街の人がみんなでクラシック音楽を聴こうと企画した下町感。祭といっても規模の大きなものではなく、オーケストラのコンサートが1回。中学校の体育館でパイプ椅子を並べて。音大の学生さんやアマチュアのオーケストラを呼んで。会場のボランティアに学校の吹奏楽部の人が手伝って。地元の皆さんと。これがもう20年以上続いてる。これは手放しに素晴らしい。

今年は、新交響楽団。次の日、定期演奏会もあって(わたしは都合でそれを聞けないのでこちらに来たの)、定期演奏会と同じ曲目。プロのオーケストラでも滅多に聴けない(わたしは去年初めて都響さんの演奏で聴けました)、シュミットの最後の交響曲がメイン・プログラム。商店街の音楽祭としてはぶっ飛びすぎたプログラムじゃないですか。もう少し名曲系、「新世界から」とか「運命」とかみんなの知ってる音楽の方が。。。いいえ。この音楽祭、侮るなかれ意外にマジなんです。呼ばれるアマチュア・オーケストラもレヴェルの高そうなところばかりだし、指揮者だって高関さん(8回も来てる。確か地元の方?)とか下野さん、ヤマカズさんは東京藝大ヤマカズ管弦楽団と参加したり。曲も、「新世界から」(これが一番多いのかな)とか「運命」とか「悲愴」とかもあるけど、「春の祭典」とかシベリウスやマーラーの交響曲とか名曲コンサートでは、なかなか聴けない曲もやられてる。近所のおじいさんおばあさんたち大丈夫かしら、なんてこちらが心配するくらい。

クラシック音楽を聴き慣れていない人が相手なので、楽器紹介があったり指揮者のお話があったり。それにしても楽器紹介でのホルン、定番の「ティル」かなと思ったらその通りというか、ホルンのソロのところじゃなくて、最初の弦楽器のパートを吹いたのは、クラヲタさんならニヤリとするマニアックなジョーク。

今日の音楽会で、一番、ううんと唸らせられたのは、最初の「ウィンザーの女房たち」。プロフィールによると寺岡さんはウィーン在住だそうで、今日のプログラムはウィーンの作曲家(ベートーヴェンは違うけどウィーンには長く住んでた)の曲たち。中でも「ウィンザー」は、ウィーンのお話ではないけれどもウィーン風の音楽。で、これが良かったのは、とても心地良い訛りがあったから。わたしには、それがウィーン訛りなのか、寺岡さんの訛りなのかは、分からないけど、でも、きっとウィーン人はこうするんだろうなぁっては想像しました。それだけ音楽にはまってたから。訛りというのはフレーズの歌わせ方とか伴奏の弾かせ方のことなんだけど、そういう表現を自分のものとして持ってる寺岡さんはいい!って思ったし、それを表現できちゃう新交響楽団ってやっぱ凄いなって思いました。

ベートーヴェンの交響曲は、「ウィンザー」ほどではないけれどもやっぱり訛りがところどころに聴かれて、とても楽しい。寺岡さんは初めて聴く指揮者だけど、どこで活躍しているのかしら?もっと聴いてみたいぞ。

シュミットの前に、寺岡さんから曲の説明があったんだけど、最初、トランペットがたったひとりのソロで音楽を奏で始めて、死地に旅立つ、だったかな、それとも彼岸の世界からお迎えに来るのだったかしら、現世と彼岸の曖昧な境の孤独な世界をイメジする。そして最後にもう一度そのトランペットが還ってくるのだけどそのときは、他の楽器も伴って、孤独ではなく(向こうの世界から)家族が迎えにきた感じ、とおっしゃって(わたしは、ふっと、ギエムさん(マッツ・エク)の「バイ」の最後を思い出しました)、それがとてもストンと理解できたんです。そして、最近、日本のオーケストラを外国の評論家に聴いてもらって日本のオーケストラの問題について話し合ったパネル・ディスカッションで、都響さんのシュミットのこの交響曲の演奏を聴いたある評論家が、オーケストラの問題として、最後オーケストラがソロのトランペットに寄り添えなくて、トランペットを孤独に突き放してしまっていたのが(オーケストラとして)残念と指摘していたのを思い出して、ああ!このことかと思い当たったのでした。とても大事な音楽の帰結だったのに、ですね。
今日の寺岡さんと新交響楽団の演奏は、うねうねとモノトーンで仄暗いこの曲の素晴らしい演奏でした。難しい(わりに演奏効果が上がらないらしい)オーケストラ泣かせの曲だそうだけど、アマチュアでもここまでできるんだというひとつの究極みたいな。それにしてもチェロのソロ、激うまでした。シュミットって、マーラーの指揮してたウィーンの宮廷歌劇場でチェロ弾いてたんですよね(マーラーとは仲が悪かったみたいですが)。このミルクキャラメルのような魅力的なソロは、チェロ弾きだったシュミット自身のラメントだったのかも知れませんね。

最後アンコールに、会場の手拍子と共に「ラデツキー行進曲」。こうしてステキな音楽祭は、楽しく締められたのでした。この商店街の音楽祭が、これからも長きにわたって続きますように。





by zerbinetta | 2015-10-11 14:26 | アマチュア

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