声と歌の呪術と愉悦 太田真紀 シェルシ「山羊座の歌」   

2015年10月12日 @スーパー・デラックス 六本木

シェルシ:「山羊座の歌」

太田真紀(ソプラノ)
溝入敬三(コントラバス)、大石将紀(サックス)
稲野珠緒、神田佳子(打楽器)、有馬純寿(エレクトロニクス)

いつか聴いてみたいと思っていた、現代音楽歌いの太田真紀さん。いつか聴いてみたいと思っていたシェルシ。その彼の歌曲の代表作、「山羊座の歌」をシェルシの研究もしている新しい世代のスペシャリストで聴けるなんて。何てステキな機会でしょう。もうワクワクして、チケットも発売日に朝一番で買いました!(チケット争奪戦があったわけでもないのに。しかも自由席だし)

でも実は、わたしは根っからの現代音楽聴きではない。シェルシについてもウィキペディアで読んだような知識しかなく(去年日本でも賑わった、ゴーストライター音楽家の本家というか大家)、会場で解説を書いたプログラムなりパンフレットも配られなかったので(これが今日唯一の不満。せめて、大ざっぱに(というか多分歌詞にあまり意味がないので、本当に大ざっぱに)何を歌っているのかヒントになるような解説があればもう少し音楽に近づけたかな。反対に無垢な状態で音楽に出逢えたのは良かったんですけど、あとで音楽のことを知ったり考えたりするのに、何か手がかりが欲しかったのも事実。太田さんのエッセイみたいなものがあったら最高だったんですけど、それは勝手に望みすぎかな。音楽家は音楽が勝負だし、この音楽会のインプレッション(ごめんなさい。どうしてもピッタリの日本語の単語が思い浮かばなかったので。敢えて言えば刻み込まれた感動かな)は、決して揺るぎないものなんですが。

会場は、100人くらいが入るライヴ・ハウス。久しぶりのライヴ・ハウス(むかーーしヘンなバンドとか変なバンドとか聴きに行ったの)。狭い階段を地下に降りていって暗い空間に入るのもクラシックの音楽会にはない雰囲気でステキ。熱心なファン(なのかな?)で満杯。嫌が上でも気持ちが盛り上がります。

「山羊座の歌」は、全曲(と言っても未完)20曲で1時間ほど。そのほとんどがソプラノの無伴奏の独唱で、何曲かに歌手自身が叩く楽器やリコーダー、コントラバス、サックス(2枚舌のリードを付けて吹いてませんでした?)、ふたりの打楽器、ライヴ・エレクトロニクスがそれぞれ入ります。とてもシンプルに削り取られた音楽。
ただ、わたし、現代音楽が分かる人ではないし、現代音楽クラスタに入る聴き手(現代音楽関係の音楽会に行くといつも同じような顔を目にしますよね)でもないし、それに、実は歌が苦手。音楽界、最後まで楽しめるか期待する反面凄く心配もしてたんだけど、ぜんぜーん、もう素晴らしくて音楽の世界に浸ってしまいました。

始まりは客席袖から、胸に鉦みたいのを下げた歌い手が歌いながら(発声しながら)静かにステージに歩いてきます。何か儀式的な雰囲気もあり、ああそうか、巫女さん。アマゾンのジャングルで訪ねたシャーマンを思い出しちゃった。この音楽ってシャーマンな感じなのかな。3つの曲が組になって構成されていくのかな、なんて一所懸命耳を澄ましながら聴いていたんですけど、予想は崩れて、複雑な展開に。だんだん巫女濃度が下がっていって、かわいらしい音楽もあったり。シェルシの音楽ってステキ。原初の音というか、羊水で鳴っている音が感じられたのもステキ(リゲティの「ロンターノ」にも同じように感じるものがあるのだけど、リゲティの方は民族の根的な集合体なんだけど、シェルシは個人の記憶的)。世界が自在に広がってくる。霊が宿る世界なのかな。歌詞にあまり意味はない(でも多分ときどき聴き取れる単語に点描的に意味が描写されるんだろうな)とは思うのだけど、フランス語のグテ(goût(er))みたいに聞こえる言葉があってなんか大事な意味なのかなと思ったり。でも、よく分からないので雰囲気だけでも楽しんで、でも、それもステキなんですね。シェルシの声の扱いは、もちろんベルカントとか古典的な声ではないのだけど、とても素晴らしい。現代の音楽は、なぞれる旋律を拒否したところにあって歌とは相容れないのだけど、でも、シェルシはこの問題をすっと飛び越えて、声を楽器としてではなく声、歌としてちゃんと扱ってるのがいいのね。

演奏については初めて聴く曲なので、感想でしかないのだけど、太田さん、これはきっと、歌ってて楽しいというか気持ちがいいだろうなって思いました(いろんなテクニックを駆使する曲なのでものすごく難しそうだけど)。だって、歌と共に世界が広がって行くんだもの。そしてその中心に歌が君臨してるの。それと多分きっと、太田さんの「山羊座の歌」は、重々しくないんだと思う。なにかすっと抜けた感じで、魂が純化されたというか、カラフルで透明。おどろおどろしさがなくて、奇異でなく、ものすごく自然に音楽が体に入ってくるの。決して聴きやすい音楽ではないのだけど、親しい感じで。

自分でもびっくりするくらい心に響いた音楽会でした。新しい世界が目の前に広がった、そんな感じがします。広大な音楽の世界。それと、恐山にイタコ見に行きたくなりましたw





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by zerbinetta | 2015-10-12 22:40 | 室内楽・リサイタル | Comments(0)

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