憧れ、悪魔の甘美な誘い ボーダー/読響   

2016年1月14日 @サントリーホール

シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
リスト:ピアノ協奏曲第2番
ツェムリンスキー:交響詩「人魚姫」

フランチェスコ・ピエモンテージ(ピアノ)
ミヒャエル・ボーダー/読売日本交響楽団


面白いプログラム。関連性がないように見えて、同じような空気の、同じように幻想曲風またはロンド風の緩いソナタ形式の音楽。もしくは、3つの交響詩が並んでます。見事。(リストのピアノ協奏曲は正確には交響詩ではないんだけど、ユロフスキさんの言葉を使えば、ピアノとオーケストラのために書かれた初めての交響詩だそう。わたしも今日は、協奏曲というより交響詩として聴けました。そう言えばユロフスキさんもリストのこの協奏曲とツェムリンスキーを組み合わせたプログラムを指揮していました。「人魚姫」ではなくて叙情交響曲でしたけど)

「ドン・ファン」。勢いよく飛び出した音楽は、フレッシュで爽快。ボーダーさんオーケストラを鳴らすのが上手い。開放的な音はわたしの好み。ただ、なんか落ち着かないというか焦燥感があって、テンポの速さというより、多分、フレーズの終わりとかの音を溜めずにどんどん先に進んでいくからだと思うんだけど、もう少しどっしり構えてよ、と感じました。ゆっくりと叙情的な部分ももう少し色気があったならと。ボーダーさんってオペラ指揮者なんですね。劇場で力を発揮する実務型のマイスターなのかな。良い音を引き出すのは上手な一方、問題をテキパキと捌いて夢を見るタイプの人ではないのかも。

でも、リストの協奏曲では、初めて聴くピエモンテージさんの夢見るようなピアノがとっても良くて、弱音での柔らかなタッチにもう本当にうっとり。強音も十分音が響いていました。もちろん、リストならもっと外連味を発揮して大時代的な演奏を、と感じる人もいると思うけど、わたしはこの曲をソロをひけらかす協奏曲というより、幻想曲か交響詩のように聴いたので、不満はありませんでした。大時代的なところはオーケストラがばんばん補完してくれていたしね。突然の休符で音楽が堰き止められる外連はオーケストラに委ねられていましたから。
でも、交響詩としたらタイトルはなに?何を音楽で描いていたの?わたしは、夢とか憧れだと思うんです。今日の音楽会のテーマ。決して手の届かないもの。それを「ファウスト」のように悪魔が蠱惑的にそそのかして手に入れさせてくれる。でも、何と引き替えに?。。。。
交響詩の創始者、リストの交響詩ってタイトルが文学的というか漠然としていますよね、「前奏曲」とか。だから、この曲もそんなタイトルの漠然とした、タイトル無しでも成り立つ交響詩としてもいいんだと思うんです。わたし、リストの音楽の(特に管弦楽の)大仰な感じが苦手でずっと敬遠してきたんだけど、ディモーニッシュな霧がわたしの中に浸潤してきたよう。禁断の林檎の甘さを知ってしまったのかも知れない。最後には無調にまで行き着いてしまったリストの深い世界に溺れるかも知れない。あなたには聞こえないの?わたしを取り巻いて鳴り渡るこの調べを。この鳴り渡る響きの中に、溺れ、沈み、我を忘れ、この上なき喜び。
ピエモンテージさんは、アンコールに同じリストの巡礼の年、第1年「スイス」から「ヴァレンシュタットの湖で」。ストイックな美しさがピアノから引き出されて、これもステキな演奏でした。ピエモンテージさん、もっと聴きたい人かも。ところで、休憩時間にロビーにアンコール曲名が貼り出されたんだけど、それを見たクラヲタさんたちが係員に詰め寄っていました。優しく指摘していました。巡礼の年、第1年から「スイス」じゃないって。帰るときには正しく直っていました。

最後は、3楽章からなる交響曲のような(実際、作曲家には4楽章を足して交響曲にする計画があったようです)大きな交響詩「人魚姫」。ツェムリンスキーが聴けるの珍しい~って思ってみたら、よく考えるとわたし、ツェムリンスキー意外とたくさん聴いていたのでした。「人魚姫」も初めてかと思ったら2回目。
ボーダーさんと読響の演奏は、始まりが、もう信じられない位に絶品。弦楽器の暗く思い海。フルートやハープの泡。海の底から光りを求めて浮き上がっていくような。憧れ。まさに、物語の始まりであり物語の全てを語っているよう。でももう少しで手の届きそうだった憧れも、バスクラリネットが旋律を歌い出した瞬間、手からこぼれ落ちてしまう。この音じゃない。この音色じゃない。読響ってものすごく良くできるオーケストラだと思うけど、ときどき不用意な音が混じってしまうのがとっても残念。期待に応えてくれるだけに求めるものが大きくなって、だから、少しの疵が全体を大きく損なってしまうのね。もちろん、この滅多に聴かれない曲でこれだけの音楽(実際に全体的な演奏のイメジは大変良かったのです)を聴けたら満足には違いないんだけど。。。惜しいんだよね。もっと出来るのに。
ボーダーさんは、この曲でも的確に音を捌いて、曖昧なところのない堅実な音楽。それ故、夢や憧れみたいな蜃気楼のような儚さには遠いんだけど。音楽が終わって、余韻をあまりとらずにあっさりと手を下ろしたのもそんなマイスターのプラクティカルな音楽作りの表れじゃないかな。ものすごく良い音楽を聴いたと思う反面、もう少し夢を見ていたかったというもやっとした心残りもありました。
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by zerbinetta | 2016-01-14 19:34 | 日本のオーケストラ | Comments(0)

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