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懐かしい人の故郷の音楽 ビエロフラーヴェク/チェコフィル「我が祖国」   

2015114日 @NHKホール


スメタナ:連作交響詩「我が祖国」


イルジー・ビエロフラーヴェク/チェコ・フィルハーモー


わたしがロンドンにいた頃、BBCシンフォニーの主席指揮者だったビエロフラーヴェクさん。故郷のオーケストラの指揮者に返り咲いて、そのチェコ・フィルとの来日です。そして曲目は、チェコ・フィルのソウル・ミュージック、「我が祖国」の一本勝負です。海外オーケストラにはあまり興味がないわたしだけど、ビエロフラーヴェクさん、懐かしいし、チェコ・フィルはまだ聴いたことがなかった!ので聴きに行きました。あれ?もしかして、今年唯一の海外オーケストラ聴き?


指揮者のお顔を見たときから、懐かしさ全開。BBCSOとはほんとにいろんなステキな音楽を聴かせてくれていたんですね。チェコものも、スメタナの「売られた花嫁」とかマルチヌーの交響曲全部とか「ジュリエッタ」とか。今日は、指揮者、オーケストラ、音楽が三つ巴のお国もの。ローカルの極み。そして、それが本当に良い味わいになったのでした。ローカルこそがインターナショナルの基(もとい)なんですね。ナショナルってローカルのことだから、ローカルの間をつなぐインター(間)ナショナルは、ローカル無しにはあり得ない。そして今日のチェコフィルの演奏は、ローカルであると同時に、それを超えてインターナショナルにわたしを感動させたのでした。


最初のハープから管楽器に旋律が受け渡されて、経過句を経て弦楽器に旋律が戻ってくるところ、ああこの音なんだわ~と思いました。何だか久しぶりに聴くヨーロッパの田舎の音。チェコ・フィルは初めてだけど、ウィーンとかスコットランドとか、ゲヴァントハウスとか、素朴な音がまだ残っていてチェコ・フィルもそれをとても良い形で保ってるんだなって嬉しくなりました。音色だけで優しくなれる、心が満たされるオーケストラです。トライアングルもめちゃくちゃいい音出してたね。チェコ・フィルも一時は、国際化を目指したこともあったみたいなのですが(その結果、ビエロフラーヴェクさんの第1次政権は短く終わって、チェコ・フィルは、外国人の指揮者をしばらく迎えることになります)、


ビエロフラーヴェクさんの音楽もBBCSOとのときから変わらず、誠実で素朴、とても自然な音楽。しっかりと手綱を締めつつも、強引にぐいぐい押すところや恣意的なところがないいつもの彼の音楽に加えて、オーケストラの全員が深く音楽を知り尽くしてる。もう、ちょっとしたリズムや音程、強弱のニュアンスが流暢に楽器の間を受け渡される。そしてプライド。彼らのアイデンティティ。それがモルダウ川に通じる湧き水のようにしみ出してくるの。わたしは、心からその清廉な水を味わうだけ。そして何も引かない何も足さない音楽。ある意味、普通すぎて言葉にするのが難しいんだけど、そう、お米。それも、例えば同じお米オーケストラのウィーン・フィルが魚沼産コシヒカリだとすると、チェコ・フィルは、同じ特Aの会津産ひとめぼれかな。主食なのにそれ自体あまり主張しないでおかずを際立たせる、みたいな。この音だけでご飯3杯いっちゃう。(ちなみに同じくローカルというかドメスティックな日本のオーケストラはサトウのご飯みたいな)。


方言でおしゃべりするような懐かしさと自然さを醸し出す音楽は、言葉と同じように標準語では駄目で方言でしか伝えられない味わいがある。もちろんわたしは、その方言を話者がするようには解し得ないのだけど、心に浸み込んでくるように、共鳴する音となって聞こえてくる。それがきっと、ローカルとローカルの間の音楽のコミュニケイションなんだ。と、温かな水分でわたしが満ちて、目からこぼれていく。


アンコールのドヴォルザークのスラヴ舞曲も同じ。チェコの友達を思い出して、チェコのビールで乾杯したくなっちゃった。






by zerbinetta | 2015-11-04 23:25 | 海外オーケストラ

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