カテゴリ:BBCシンフォニー( 43 )   

BBC交響楽団やっと開幕 パパビー降板 サラステ、BBC交響楽団 狂気のタコ4   

4.10.2012 @barbican hall

michael zev gordon: bohortha (seven pieces for orchestra)
mahler: rückert-lieder
shostakovich: symphony no. 4

alice coote (ms)
jukka-pekka saraste / bbcso


最後に、ってロイヤル・フィルさんごめんなさい、BBCシンフォニーのシーズン開幕です。今シーズンのBBCシンフォニーは、前主席指揮者のビエロフラーヴェクさんの退任、次期主席指揮者のオラモさんの就任が来シーズンからなので主席指揮者なしです。ビエロフラーヴェクさんは確か1回振りに来られるんですけど、残念ながら、わたしは聞き逃すことになりそうです。でも、たこよ〜ん。というわけで、ご存じ(?)タコ好きのわたしはとっても楽しみにしてたのでした。シーズン前にアナウンスされていた指揮者はパパビー(何でもヤルビー、じゃなかった、ネーメ・ヤルヴィさん)でした。降板でがっかり、と言いたいところだけど、ごめんパパビー、パパビーとは少しウマが合わなかったのでラッキーって思っちゃいました。サラステさんかっこいいし。

始まりはゴードンさんの「ボホーサ」。ボホーサはコーンウォールの風光明媚な小さな村。BBCシンフォニーが委嘱した新作。初演。副題が示すように7つの小品からなる静かなオーケストラ曲です。次に演奏される「リュッケルト・リーダー」を意識したのでしょうか、マーラーの音楽をちらりと引用していて、耳に親しげな音楽。心に突き刺さる音楽ではなく、ちょっとモダンな前菜みたいな、ケとハレの場面転換を担当するような、それだけでは物足りないけどあとで来るものを期待させるような音楽でした。

2曲目はアリス・クートさんの歌でマーラーの「リュッケルト・リーダー」。クートさんって結構大柄なんですね。オペラでズボン役で観たので小柄に見えたのだけど、女性としてみると大きいんだな。さて、演奏の方。正直言ってわたしの好みではありませんでした。さばさばとザッハリッヒな感じで、テンポも速めで、この曲にもっと甘やかな夢、愛のようなものを求めているわたしとしては(だって、この曲集ラヴ・レターよね)すうっと恋人に立ち去られたあとの後ろ髪を持ち去られてしまった感じ。この曲、男声に歌われる方が好きかも。

でも、最後のタコ4は、サラステさんのザッハリッヒな表現が生きて、クレイジーでとても良かったです。やっぱりタコには狂気がないと。ぐいぐいとノミで削っていく感じ。もしくは、光りを求めて闇雲にトンネルを掘っていく感じ。求心力があるというのが褒め言葉だと思うのだけど、この演奏にはものすごい遠心力があって、しっかり掴まってないと振り落とされてしまいそう。暴れ馬に乗ってるみたいな(想像です)。丸く収めておこうという気配がなくて、外に向かう表現力が凄いです。サラステさんの汗たっぷりのダイナミックな指揮ぶりも惚れ惚れしちゃいます。やっぱりこの人かっこいいです。BBCシンフォニーの重心重めの演奏もとっても良かった。
でも、この時代のショスタコーヴィチって破天荒でアナーキーだけど、音楽の最後には一抹の希望がちゃんとあるのですね。暗く終わったにしても。今日の演奏にはそれを強く感じました。破壊尽くしたあとに(こそ)希望があるということかしら。ちょうどタコ、転換期の音楽。だって、4番はそれまでの純粋共産主義若者路線を捨てて自我の確立に四苦八苦してる作品ですものね。そして若い魂はどんな状況でも未来を信じたいし信じられるんだと思うんです。未来への希望がなくなっていくのは後年の交響曲第13番くらいからかなぁって。そんな音符の後ろまで感じられた演奏でした(それがわたしの独りよがりでも間違っていてもわたしにとって重要なことではありません)。音楽会はこうでなくっちゃ。
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by zerbinetta | 2012-10-04 10:19 | BBCシンフォニー | Comments(0)

お祭り! プロムス・ラストナイト   

8.9.2012 @royal albert hall

last night of the proms

nicola benedetti (vn)
joseph calleja (tn)
jiŕí bělohlávek / bbcsc, bbcso


お祭りです!
プロムスのラストを飾るプロムス・ラストナイト(そのままやん)。とっても人気があってチケットが取れないんです。アリーナとギャラリーの立ち見の当日券もかなり早くから並ばなければ買えないんですね。普通のチケットもくじ引き。プロムスの音楽会を5つ以上買った人には、まず、優先的にチケット購入のためのくじ引きの権利がもらえて(チケットを買うときラストナイト・チケット購入の抽選に参加するかどうか聞かれます。チケットを買ってない人も一般用に割り当てられた席の抽選にあとで参加できます)、ははは〜、今回初めて当たりました!!メイルが来たときにはなんのことか分からずびっくりしました!ラストナイト、テレビで放送されるし、お祭り騒ぎは楽しいとみんなが言うのだけど、実はわたし、それほど興味がなかったのですっかり忘れていたんです。でも、せっかくくじで当たった権利(一生分のくじ運を使い果たしたかも)、もったいないので安い席を2枚(2枚までしか買えません)買うことに。1枚は誰か友達に売ろうと、きっと欲しがる人はいるだろうと買ってみました。チケット売り出しの朝、激戦かなぁと思って1番にサイトにアクセスしたら、すらすらと入れて、チケットもいっぱい残っていて、安くて良い席が買えました。ラッキー♬

お祭りなので演奏の評価はしません。アリーナでは大きな風船がふわふわとはねてたし、鳴り物入りだし、会場にいる人たちは、音楽会ではなくてお祭りを楽しむテンションだもの。でも、演奏はどれもステキでした。手抜きなし。聴くところではお客さんもちゃんと聴いていましたしね。オーケストラは男性は黒の盛装だけど(プロムスではBBCシンフォニーは白のジャケットをいつも着てるんですが)、女性はカラフル。いつもと違って適度に華やか。

でもやっぱり、楽しむべきは、お祭りの雰囲気。しかめっ面で、訳知り顔で、クラシックを聴くという雰囲気は全くなく、みんなが高揚して楽しんでる。大きな国旗を掲げたり(日の丸も何個かありました!)、小さな旗を振ったり。わたしも即席のちっちゃな旗を作って振ってました。なんの旗だって?それはヒミツ。
音楽もポピュラーな小品とちょっとマイナーなのを上手い具合にミックスして、それとちょっぴりビエロフラーヴェクさんのお国ものも、新作も、ヴァラエティに富んでいて、大きな曲は、ニッキー(・ベネデッティさん)をソロに迎えたブルッフのヴァイオリン協奏曲。わたし的には、前にボエームを聴いてときめいてしまったカレヤさんの出番がもっと欲しかったけど、ステキなプログラムだったと思います。カレヤさんもなんか天性の明るさでお祭り気分を盛り上げてたし。ニッキーは文字通り花を添えてたし。このおふたりのゲストはなかなかです。
そしてゲストは他にも。びっくりゲストだったんですけど(情報漏れてた?)、オリンピックのメダリストたちも登場。ジョン・ウィリアムズさんのオリンピック・ファンファーレも演奏されたのでした。ロサンジェルス・オリンピックのとき書かれた曲だけど、かっこいいですよね、これ。ついでに(?)スターウォーズも演奏して欲しかった!

でも、今年のラストナイトのスペシャルは、今シーズンでBBCシンフォニーを退任してチェコ・フィルの指揮者になるビエロフラーヴェクさん。スピーチは下手だけど(失礼。でもそれがかえって飾りのない誠実な人柄を表しているのですね)、オーケストラもお客さんもわたしも彼のことが好きで、もっと長く主席指揮者を続けて欲しいと思っていただけにうんと残念。もちろんこれでビエロフラーヴェクさんとBBCシンフォニーの関係が終わるわけではないどころか桂冠指揮者になることだし、いつまでも良い関係でいてステキな音楽を聴かせて欲しいです。先にCBEに叙勲されているので、メダルをぶら下げて指揮したり。温かな雰囲気で、ビエロフラーヴェクさんを送り出しました。

最後は、プロムスを始めたヘンリー・ウッド、ープロムスの期間中胸像がステージの後ろに鎮座してて、今日はそれに桂冠されました(ラストナイトの行事のひとつ)ーの「イギリスの海の歌の幻想曲」、エルガーの「威風堂々」、パリー/エルガーの「イェルサレム」、「国歌」、と国威発揚コーナー。会場も一緒になって歌うのだけど、わたし歌詞知らないから歌えないしイギリス人じゃないし。まあでも、お祭りということで、にわかイギリス人になって楽しみましたよ(フィッシュアンドチップス好きだし)。最後は隣の人と手をつないで合唱。「蛍の光」が始まったとき、ああ、紅白歌合戦(って確か最後に蛍の光歌うよね?)っても思ったけど、こっちの「蛍の光」、本場スコットランド民謡の、はしみじみしてなくてクリスプ。友達とお酒を酌み交わす歌みたいですからね。

とっても楽しい夜でした。ロンドンにいるうちに1度は経験したいと思っていたので、良かったです。夏が終わったーーって感じです(ロンドンに夏があるのかは別にして)。こんな音楽会、日本にもあればいいのにな。

国旗がはためく会場
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お祭りを楽しむならアリーナ。風船ボールが客席をあっちに行ったりこっちに来たり
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ニッキーとカレヤさん。ビエロフラーヴェクさんが後ろの方に。指揮台も国旗だらけ
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by zerbinetta | 2012-09-08 00:03 | BBCシンフォニー | Comments(11)

美女と野獣 クレア・ブース、BBC交響楽団、オリヴァー・ナッセン還暦音楽会   

25.8.2012 @royal albert hall

alexander goehr: metamorphosis/dance
oliver knussen: symphony no. 3
helen grime: night songs
debussy: the martyrdom of st sebastian

claire booth (sp)
polly may (ms), clare mccaldin (ms)
oliver knussen / new london chamber choir, bbc national chorus of wales, bbcso


なんてったってプチ追っかけですから。クレア・ブースさんが歌はなるべく(というところが軟弱者)聴きたいのです。今日はナッセンさんの還暦祝いということで、ヘレン・グライムさんの新作が初演されました。ナッセンさんのために書かれた曲です。
それにしてもナッセンさん、巨躯。昔から大きかったと思うけど、ますます大きさに磨きがかかったみたい。ってか、足腰、大丈夫かしら。レヴァインさんみたいに痛めませんように。よちよち歩いてきて、椅子に座っての指揮でした。

最初の曲はアレクサンダー・ゴーアさんの変態/ダンス、なんてついうっかりメタモルフォーシスを変態と訳してしまうんだけど(カエルの変態)、変容かな。ゴーアさんも80歳の記念年。ゴーアさんの曲は、40代の、今から40年前の作品。きれいなんだけど、聴いてて心地良いんだけど、あまり心には残らなかったな。

続くナッセンさん自身の交響曲第3番は、何と、20代の作品。はっきりと力の差を感じさせる、20代の若者がこんな作品を書けたのかと、びっくりさせられた充実の作品。ナッセンさん天才だったのね。明るくてきらきらする感じの音楽。ナッセンさんの音楽は、集中して聴いたことがなくて、ぽつりぽつりと聴いて入るんだけど、今まで聴いた(でも数は少ない)なかでは一番かな。プログラムには、この曲を初演した(当時の)若い!MTTさんの写真が出てたけど、彼も当時は20代。あとで知ったことだけど、MTTさん、今日は会場にみえてたそうですね。それなら見たかったなぁ(ただのミーハー)。実は、ナッセンさんの秘蔵っ子、ブースさんがこの曲を歌うのかなと思っていたのだけど、純粋にオーケストラだけの音楽でした。BBCシンフォニーは、来るシーズン、確かナッセンさんの曲をいくつか採り上げる予定だったと思うけど、聴きたかったな。

休憩のあとは、30そこそこの若い、ヘレン・グライムさんからのお誕生日プレゼント、「夜の歌」です。これもオーケストラのための曲。5分くらいの短い曲だけど、なかなかステキ。グルーヴ感があって、うきうきするようなノリ。響きが透明で、グライムさんは自分のイメジしている音を的確に楽譜に書き取ることができる人みたい。とっても良かったです。演奏のあと、ナッセンさんが「多分大丈夫とは思うけど、メガネを落としたのでちゃんと演奏できたか分からない。念のためもう1度」と会場を笑わかすジョークなのか、ほんとなのか分からないことをおっしゃって、今度はちゃんとメガネをかけて繰り返されました。同じように聞こえたので大丈夫だったよ。
ところで、こんなことは書きたくないけど、次の曲のためにステージに上がっていた合唱の人。どこの合唱団の人か分からないけど、ひとり、演奏中に扇子で煽ってる人がいました。黒い目立たない扇子とはいえ、それはないんじゃないかと。丸見えだし。2回目の演奏のときは止めてましたけど。

最後は、ドビュッシーの大作「聖セバスティンの殉教」。オーケストラのための断章ではなくて、1時間あまりの全曲版。この版での演奏は初めて聴きます。ナッセンさんは、オーケストラからドビュッシーらしい澄んだ官能的な響きを引き出していて、指揮者としても実力の高いことを聴かせてくれました。それにしてもドビュッシーのオーケストレイションってなんてきれいなんでしょう。そして、ナッセンさんもグライムさんも、きっとドビュッシーの影響を受けてる。
ブースさんの声は、透明で軽いのでドビュッシーにはぴったり。でも、これは合唱にも言えることだけど、多分、フランス語のデクテイションがフランス語の分からないわたしが言うのもヘンだけど、甘かった気がします。フランス語ってきれいに発音されるとほんとにさわさわときれいで耳に心地良いのだけど、今日のはちょっとべったりしているように聞こえました。
でも、この珍しい曲を、1時間、飽きずに聴かせてくれたのは嬉しい。お客さんの入りは予想どおり少なかったけど、とてもよい音楽会でした。

巨躯のナッセンさんと並ぶとますます可愛らしいブースさん 美女と野獣?
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by zerbinetta | 2012-08-25 03:30 | BBCシンフォニー | Comments(0)

なんと言ってもわたしの目玉! シェーンベルク「グレの歌」 サラステ、BBC交響楽団   

12.8.2012 @royal albert hall

schoenberg: gurrelieder

simon o'neill (waldemar), angela denoke (tove),
katarina karnéus (wood-dove), neal davies (peasant),
jeffery lloyd-roberts (klaus the fool), wolfgang schöne (speaker)
jukka-pekka saraste / bbc singers, bbc symphony chorus,
crouch end festival chorus, new london chamber choir, bbcso

誰がなんと言おうとわたしの今年のプロムスの大目玉は、今日のグレリーダーなのです!これはもう一大イヴェント。マーラーの千人の交響曲に匹敵するような大編成(オーケストラはこっちの方が大きいんじゃないかしら)。もう、会場に来る前からワクワク。何日か前に、予定されていたビエロフラーヴェクさんの病気降板になって代役にサラステさんと発表されてちょっとがっかりだったけど(ビエロフラーヴェクさんの演奏大好きだし、この記念碑的大曲をどのように料理するか楽しみにしてました)、でもそれもわたしのワクワク感の障害になるものではありませぬ。もうこの日のために今年があったという感じ(かなり大袈裟)。

ロンドンでこの曲を聴くのは2度目。前回はロイヤル・フェスティヴァル・ホールでだったけど、このはちゃめちゃな大きさは、アルバート・ホールの大きさにふさわしい。プロムスというお祭りイヴェントにふさわしいではないですか。音楽を聴く前から気分が高揚しちゃって、しかも巨大な合唱、巨大なオーケストラの、ワグナー・チューバとかバス・トランペット、コントラバス・トロンボーンなどを見ちゃうとワクワクを通り越してトキメキ。イケメンの森に迷い込んだ少女のよう。と、脳みそお花畑の喜びようなんだけど。

サラステさんに不安がなかったかといったら嘘になります。わたし、サラステさんの指揮で大曲はまだ聴いてないし、シベリウスな透明であっさりした音楽って勝手な印象を持っちゃってたので。グレの歌なんて大丈夫かなぁ、なんてね。でも、短期間で引き受けたからには多分、振ったことがあるはず。と、自分を勇気づけて。
でも、音楽が始まったとたんそれは霧散しました。なんてステキな香り立つ音楽。印象派ふうの点描的な柔らかな色彩。いっぺんに音楽に引き込まれて、引き込まれたまま音楽の中に取り残されたまま、音楽会が終わりました。しばらく、放心して夢の世界にいたようです。ほんと、全く隙のない演奏。サラステさん恐るべし。BBCシンフォニーは、なんでサラステさんを主席指揮者に採らなかったんだろうって思っちゃったほどです(いいえ、オラモさんも凄くステキな指揮者なんですけどね)。それにサラステさんかっこいいし。。。
サラステさんの演奏は、堂々としていて迷いなく、自信に溢れていました。この音楽を完全に自分のものにしてらっしゃる。何も引かず何も足さず、それでいて圧倒的な説得力を持つ演奏に、正直びっくりしてしまいました。ぐいぐいと音楽に引っ張られるわたし。凄かった。
BBCシンフォニーも、いつものことながら実直できっちりと弾いていきます。曲が進むにつれてのざらざらとした肌ざわりの音色、いぶし銀というのでしょうか、そんな音が、サラステさんの剛毅な音楽とピタリと幸せのマリアージュ。お終いにちょっとしか出てこない大合唱もとっても迫力があって良かったです。ホールが巨大な音と化して迫ってくる。

歌手陣は、文句の付けようなし。ヴァルデマールのオニールさんは、最初普通かなと思ったらだんだんと良くなってきて、後半、他の男性歌手も混じると、ここぞとばかりよく歌ってました。トーヴェのデノケさんは、最初、声が軽いかなと思ったんですが、流石にステキでした。カルネウスさんは、メトでちょい役を歌ってたときから聴いているのですが、びっくり。短いけれど重要な役を堂々としっかり歌っていました。前はもっと線の細い声と思っていたんだけど、貫禄が付いてきましたね。ステキです。後半から出てくる、男声陣もとっても良かったです。3人でお互い張り合う感じで、相乗効果が凄かった。語りのシェーンさんは、わたし的にはもちょっと陶酔感が欲しかったんですけど、リアリティのある表現で、これはこれでサラステさんの音楽と合って良かったのではないかと思います。

それにしても、この曲は凄い!もうしばらく頭から離れないでしょう。わたしの方も、CDで聴いたり、より音楽に親しくなっていたので、今まで聴いた3回の「グレの歌」の中で一番、心にぐっと来ました。もちろんそれは演奏の良し悪しというより、わたし側の成熟の具合が大きいのですが、間違いなく第1級の演奏でした。そして、わたしの音楽体験の中でも最も大きなもののひとつとなりました。

シェーンベルクってつくづく天才ですね。この曲の最終的な完成は1911年、作曲家37歳の頃ですけど、第1部の完成と全体の構想は1901年、27歳の頃ですもの。マーラーだったらまだ交響詩「巨人」を書いていた頃。作品のとてつもない大胆さや完成度といったら比べるべくもありません。音楽を聴くとこの頃のシェーンベルクがドビュッシーやワグナーの影響を受けていたのがよく分かります。むしろ、マーラーの影は聞こえないです。多分、シェーンベルクはマーラーを余りよく知らなかったのではないでしょうか。ふたりがアルマを介して合うのは、もう少し後だし。彼の音楽の出自を垣間聴くことができたのも嬉しかったのです。
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by zerbinetta | 2012-08-12 07:08 | BBCシンフォニー | Comments(3)

5番ホルンに注目! ビシュコフ、BBC交響楽団「英雄の生涯」   

8.8.2012 @royal albert hall

schubert: symphony no. 7
richard dubugnon: battlefield concerto
strauss: ein heldenleben

katia & marielle labèque (pf)
semyon bychkov / bbcso


つい数日前、BBC交響楽団が、ギュンター・ヴァント・コンダクティング・チェアーなるタイトルを創設して、その最初の栄誉にビシュコフさんがなられたというアナウンスメントがありました。BBC交響楽団とヴァントさん?って、って感じだったんだけど、ヴァントさん、昔、BBC交響楽団の主席客演指揮者だったのですね。どうやら、客演指揮者として功績のある人を称えるポストみたいです。ビシュコフさんはBBC交響楽団に正式なポストを持ったことないはずですけど(現在の主席客演指揮者はロバートソンさん)、確かに毎年のように客演してはステキな演奏を聴かせてくれてましたからね。奇しくも今日はそのお披露目。

シューベルトの「未完成」は、弱音を徹底的に強調しすぎてしすぎちゃったかしら、みたいな演奏でした。この曲って、クラシック界の超有名曲だし、名曲だけど、なぜかわたし、この曲のぞくっとする演奏に出会えないんです。いいなって感じる演奏には出会えるんだけど、やっと見つけた!と思える演奏がないの。どうしてでしょう?今日のこの演奏もそう。ちゃんとステキな演奏なのに、とうとう出会えた感がなくて寂しく見送る、そんな感じです。

2曲目は、ラベックさん姉妹を迎えての新しい協奏曲。イギリス初演です。2群のオーケストラと2台のピアノ、ラベックさん姉妹のために書かれた曲です。そしてその通り、おふたりの個性、これがもう正反対な感じで面白いんです、自由奔放のカティアさん、しっかりとペースを刻むマリエルさん、このおふたりの対照がなければ、こんなにも長く第一線でデュオを続けることはできなかったに違いありません。お互いの個性のぶつかり合いが音楽の化学反応を生みさらに自由に飛翔できるんですね。そんな感じを今日のピアノから凄く受けました。そういうふうに作曲されてるから。まさに彼女らのための音楽です。だからピアノ・パートはとても面白かった。でも、オーケストラ・パートはちょっといまいちでもったいない。これがもっと良く書かれていたら2台のピアノとオーケストラのための定番になったかもしれないのにって偉そうに思いました。ピアノのパートだけ耳を集中して聴いていました。
それにしても、ラベックさん姉妹、相変わらず年齢不詳。むちゃ色気のある美人姉妹だわ。ちなみに、マリエルさんは指揮者のビシュコフさんのパートナーなんですね♡美女と野獣??

最後は「英雄の生涯」。大きなオーケストラ。と、見てたら、5番ホルンにあれっ?フィルハーモニアのケイティさん?ゲスト・プリンシパルじゃなくて5番?プログラムを見たら、ケイティさんではなくてキャサリンさん。あれれ?ますます混乱するわたし。似てるけど違う人?でも吹き方ケイティさんだし。わたしの中ではやっぱりケイティさんだって確信したんですけど、あとで調べてみたら、ケイティってキャサリンの愛称なんですね。なぁんだ。と、全く本筋から遠いところで重箱の隅に残ってる栗きんとんのかけらをつついてるわたしですけど、5番ホルンをずっと見てると、意外と大活躍なんですね。ソロも多いし。
ビシュコフさんの「英雄の生涯」は流石と漢字で唸らせるような音楽。盤石ですね。BBCシンフォニーも上手いし、落ち着いて安心して聴ける演奏。わたしとしては、(わざと)ドキリとバランスの崩れる瞬間がある演奏が好きなんですけど、ビシュコフさんはそういう演奏をするタイプではないのですね。しっかりと完成度の高い、繰り返して聴いても崩れないタイプの演奏でした。
それにしても34歳でこの曲を作曲したシュトラウス。もうすでにたくさんの業績があって、引退さえするなんて(曲の中で)いいなぁ。もしわたしが同じような曲を作曲したら、シュトラウスの歳は優に超えてるのになんにも業績ないぞ。ってかふにゃふにゃな曲になりそう。実際、シュトラウスはこの曲を最後に、交響詩を書くのを止めて、オペラの世界に没頭していくのですね。もしかしたら交響詩作曲家としての自分を葬る作品だったのかもしれません。
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by zerbinetta | 2012-08-08 07:26 | BBCシンフォニー | Comments(0)

積み木崩しのシベリウス ヴェデルニコフ、BBC交響楽団   

10.05.2012 @barbican hall

shostakovich: the bolt, suite
kalevi aho: trombone concerto
sibelius: symphony no. 1

jörgen van rijen (tb)
alexander vedernikov / bbcso


BBCシンフォニーのシベリウス交響曲全曲演奏シリーズ、今日が最終回。第1番です。指揮者は何故かウマが合うヴェデルニコフさん(ゾンビ)。楽しみ〜〜。

タコのボルトの組曲は管楽器のソロが大活躍する音楽。ポルカやタンゴなんて楽しげな音楽も混じっていて、この組曲版は、もともとのバレエの物語など関係なく、音楽としてあっけらかんと楽しめるのがいい。それにしても、BBCシンフォニーの管楽器の皆さんほんとに上手かった。アクロバティックなソロを難なく吹いて、スリリングな音楽を楽しませてくれます。オーケストラの質量のある音色がぽんぽん跳ねるのも愉しい。拍手のとき、フルートのムカイさんが立たされたけど、この曲は彼女がソロを吹いていたんですかね。とても良かった。

アホさんのトロンボーン協奏曲は去年の作品でイギリス初演。トロンボーンはロイヤル・コンセルトヘボウの主席、フォン・ライエンさん。アホさんってこの間、打楽器協奏曲の新作を聴いたばかりだから、最近アホさんづいてるんですかね〜。ついうっかりアホやねん、と言ってしまいそうです。アホさんは、ずいぶん前に交響曲第9番という実質トロンボーン協奏曲を聴いたことがあるのだけど、正直言って今日のトロンボーン協奏曲は、それに比べてつまらなかった。重音なんかの技巧的な要求も高いのだけど(しかも高音をかぶせていた)、トロンボーンらしい、グリッサンドやスラーや各種ミュートや、そういうものを引き出してるとは言えなかったし。前の交響曲第9番の方がトロンボーンらしさを上手く引きだしていた感じ。今日の音楽はわたしには退屈でした。トロンボーンのフォン・ライエンさんは、完璧に吹きこなしていました。ちょっとかっこいい。プチ・ヴィジュアル系。

シベリウスの交響曲は、なんかちょっと変な感じ。ヴェデルニコフさんはいつもわたしのツボなのになぁと戸惑いながらおろおろ聴き始めました。何かが違う?なんだろう?
シベリウスの音楽って、息の長い旋律が歌われるよりも、小さな積み木のような音がたくさん組み合わさって出来てると思うんです。それは、後期の音楽になるほど顕著だけれども、この初期の作品(チャイコフスキーっぽいとも言われます)からもその萌芽を聞き取ることが出来ます。ところが、ヴェルデニコフさん、その積み木を上手く組み上げることが出来ずに、積み木と積み木の間に小さな隙間を作ってしまったので(決して音と音の間に隙間を空けて演奏しているというわけではありません。もっと感覚的なもの)、積み木が大きな構造にならないのです。その分、細かな構造が見えてきて面白いのですが、最初のうちは戸惑いました。でも、もともとわたしとヴェデルニコフさんの相性はいいので、そしてそれはえこひいきにもつながるのですが、慣れてくるとこれも面白いな、と。BBCシンフォニーは質感のある落ち着いて輝く銅色の金属のような色彩の音で、シベリウスのどこか明るいのに薄暗いひんやりとしてるのに情熱の熱さが迸る音で弾いてるし、わたしは、いいねボタンを押しました。わたしの評価甘過ぎかなぁ。でもいいの。わたしは楽しんでるから。

そうそう、今日はチェロに見慣れない日本人が。あとで調べたらロイヤル・フィルハーモニックで弾いてらっしゃるハナオカさん。ただの客演かしら?それとも入団へのトライアル?
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by zerbinetta | 2012-05-10 09:07 | BBCシンフォニー | Comments(0)

アリーナ見納め? どっぷり浸かってアルヴォ・ペルト、BBCSO   

28.04.2012 @barbican hall

pärt: symphony no.1 'polyphonic'; no. 3; silhouette;
berlinar messe; tabula rasa

alina ibragimova, barnabás kelemen (vn)
tǒnu kaljuste / bbcsc, bbcso

正直言ってアルヴォ・ペルトがこんなに人気のある作曲家だと知らなかったんです。チケットを取った時点で、おや!意外と売れてるんだなと思ったんですが、一日中ひとりの作曲家に浸るトータル・イマージョン・シリーズのアルヴォ・ペルト、なんと売り切れです! わたしは最後のBBCシンフォニーの音楽会だけ取ったんですが、びっくり! もちろんわたしの取った目的は何たってアリーナ。ロンドンを離れる予定のわたしにとって、多分、これがアリーナ見納めになります。むちゃ悲しい。

もちろん、ペルトさんというと、ティンティナバリ(鈴)様式。静謐な音楽なのだけど、最初の交響曲第1番と第3番はその様式を獲得する前の作品。第1番の方はオーケストラをがんがん鳴らすカラマノフ(実は好き)系音楽。第3番は、グレゴリオ聖歌への傾倒が聴かれて、後期の音楽への橋渡し的な音楽にもなっています。というのが聴いた感想。確かに力強い音楽だけど、この曲だけならペルトさん、人気は出なかっただろうし傍系の音楽家。でも、化けるべくして化けたのよね。

プログラムの後半からはいよいよ、ティンティナバリ様式の音楽。切り詰めた無駄のないシンプルな音、でもミニマリズムにならないのがいいの(ミニマム音楽苦手なわたし)。
2009年作曲の「シルエット」は、副題に「エッフェル塔へのオマージュ」。パリ管弦楽団とパーヴォ・ヤルヴィさんのために書かれた音楽です。短いけれどとても充実した音楽で、作曲家が今でも深化していることを伺わせます。無駄を極限までそぎ落とすとどこまで行くのだろう?

ベルリン・ミサは、ペルトさんらしい宗教曲。弦楽オーケストラと合唱のための作品。合唱団にターバンを巻いた男の人がいてちょっと可笑しかった。ターバンって衣服の一部なんですね。帽子はダメだけどターバンはいいのかな。この曲、わたしには歓喜の音楽とは感じられませんでした。どうしてかいつも不安がつきまとう。演奏のせいかわたしのせいか、曲そのものなのかはよく分からないんですけど、もちろん、ペルトさんは喜びが爆発するような音楽は書かないし、静かに静かに音楽は流れるのでそのせいもあるのかもしれませんが、でもやっぱりわたしにはもっと根源的な不安が横たわっているように感じました。

いよいよ、最後に「タブラ・ラサ」。ふたりのヴァイオリン・ソロ、プリペアード・ピアノ、弦楽合奏のための音楽です。実はわたし、この曲と「フラトレス」を勘違いしていて、音楽が始まったとたんびっくり。ありゃりゃ、違う曲だって。
もちろんわたしは、アリーナ目当てだったのでアリーナのヴァイオリンに聞き耳を立てましたよ。ほんと、彼女の音は透明できれい、そして精確。静謐なのにアグレッシヴ。もう素晴らしすぎ。アリーナの音が聴きたかったのでもうひとりのヴァイオリンはいらないって思っちゃいましたよ。もうひとりのソリスト、ケレメンさんは、わたしにとっては当て馬だったんだけど、音色にもう少し繊細さが欲しかったかな。ちょっと荒っぽかった。
プリペアード・ピアノが鐘のような音色で、前半部分ではヴァイオリンの動的な動きを沈静する大きな役割を担っていて、これが後半の静的な音楽につなげる複線になるのね。演奏は前半はかなりアグレッシヴ。プリペアード・ピアノの分散和音で始まる後半は風のない曇天の湖の湖面のように静か。ときどき、底からあぶくが湧くようなピアノの分散和音。そういえば、前半はピアノはクラスターの和音を弾いてたのに、後半はひとつずつバラバラに弾くのね。

もうわたしはアリーナの魅力に胸きゅん。ロンドンではもう聴くことが多分できないけど、世界を股にかけて活躍していくアリーナ。どこかでまた聴くことができるのを願っています。アリーナの発見が同じ、BBCシンフォニーの音楽会で、リゲティの協奏曲だったので、最後もまた現代曲で締めるというのは巡り合わせでしょうか。

アリーナとケレメンさん
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so cute!!!
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by zerbinetta | 2012-04-28 23:59 | BBCシンフォニー | Comments(2)

闇は栄光の光りを際だたせる アンドリュー・デイヴィス、BBC交響楽団   

23.03.2012 @barbican hall

hugh wood: violin concerto no. 2
tippett: a child of our time

anthony marwood (vn)
nicole cabell (sp), laren cargill (ms),
john mark ainsley (tn), matthew rose (bs)
sir andrew davis / bbcsc, bbcso


今日はエルガーの「ゲロンティアスの夢」を聴くんだぁと勇んで行ったら違う曲でした。ぎゃぽん。メインはティペットの「我らの時代の子」。ティペットはイギリスの作曲家なのに、あまり演奏されません。今まで聴いたのは、「コルレリの主題による協奏的幻想曲」とバレエの伴奏の2回だけ。とっても分かりやすいステキな音楽を書く人なのに演奏されるのが少ないなんて。今日の結論。もっとティペットを! と思ったら、来シーズンBBCシンフォニーはティペットを集中的に採り上げるんですね。

マーウッドさんをソリストに迎えてのウッドさんのヴァイオリン協奏曲第2番は、2009年に初演されていて、今日がロンドン初演。アレグロとかラルゲットとかの速度表示がなされているように、古典的な作品。聴いているときは、聴きやすいしなかなか良いなって思ったんですが、聴いたあとは印象がすうっと抜けてあまり覚えてないんです。わたしの中にすうっと入ってきて、すうっと出て行った音楽。音楽会で遭遇するのはステキだけど、積極的に聴きたいとは思わないなぁ。そういう通りがかりに見えるきれいな風景みたいな音楽。
ヴァイオリンのマーウッドさんは、プロフィールを見るとイギリスの中堅どころのヴァイオリニスト。ソロで活躍すると同時に室内楽奏者としても大活躍で、つい先日解散したフロレスタン・トリオの一員だったんですね。必要十分の上手さだったんですけど、例えばベートーヴェンの協奏曲のようなわたしが知ってる曲で、聴いてみたいです。

ティペットの「我ら時代の子」は、何となく子供のためのカンターターって勝手に思っていたら、そうではなく深刻な内容の作品だったんですね。戦争に反対する受難曲のようなオラトリオで、でもスコアのタイトル・ペイジに t.s. eliot の詩の一部、「the darkness declares the glory of light」という言葉が引用されていて、希望を固く信じる作品でもあります。大きな合唱とオーケストラのための音楽で、ティペットらしい分かりやすい音楽だけれども、とっても力強い充実した作品でした。途中、合唱がどこかで聴いたことのあるメロディを歌い出してドキリ。黒人霊歌が何曲か引用されているんですね。こういう引用もティペットの音楽を親しみやすくしている要因のひとつ。合唱もオーケストラもソリストもみんな高いレヴェルでまとまっていて文句なし。素晴らしい音楽と演奏でした。指揮者のアンドリュー・デイヴィスさんも相変わらずにこやかで、でも演奏後は流石にちょっと疲れて頬がこけた感じ。全身全霊で音楽を演奏したんですもの。
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by zerbinetta | 2012-03-23 20:37 | BBCシンフォニー | Comments(1)

天才には天才。そしてカウベル・オーディション リシエツキ、ビエロフラーヴェク モーツァルト、マーラー   

09.03.2012 @barbican hall

mozart: piano concerto no. 20
mahler: symphony no. 7

jan lisiecki (pf)
jiří bělohlávek / bbcso


ビエロフラーヴェクさんがBBCシンフォニーと毎年ひとつずつ採り上げてきたマーラーの交響曲、第5番、第6番に次いで今日が第7番です。毎回とっても素晴らしい演奏を繰り広げてきたので(特に第6番は良かった)、期待もしていたのですが、あっけらかんとした都会的なスマートなセンスと色合いをこの曲に求めるわたしはちょっぴり不安もあったの。ビエロフラーヴェクさんのごつごつとした感じの手作りの音楽がわたしの好みに合うかなぁって。

答えの前にまずモーツァルト。人気曲(いったい何回聴いた?)、ニ短調のです。ピアノは、ヤン・リシエツキさん。名前も初めて知る方です。出てきたら、若いっ!! すらりと背が高くて、細身の黒のネクタイ(銀色の細い線入り)のルックスが高校生みたい。年齢的には高校生なんですけど。もうすぐ17歳!わたしは学級委員長タイプ(但し、もろ優等生タイプではなくちょっと悪もあるリーダー・タイプ)と思いましたが、小田島久恵さんは子鬼と称していて、ああぴったりだ〜と思いました。
黒雲が湧き上がってくるような不安な気分を音に含みながらオーケストラが弾き始めると、いきなりモーツァルトの短調の世界。モーツァルトは彼の時代に即して短調の音楽をあまり書かなかったけど、いつもこの音楽の冒頭にはドキリとさせられる。ビエロフラーヴェクさんとBBCシンフォニーもとても良い雰囲気出してたしね。
そしてピアノ。びっくり。何も足さず何も引かずシンプルきわまりないモーツァルト。この歳の若者なら自分が自分がと何かをしたくなるような気もするのだけれども、そんなことには一切荷担せず、純粋にモーツァルトと天才同士の会話をしているみたい。だから一見、なんでもない演奏にも聞こえるんだけど、知らず知らずのうちに聞き入ってしまう演奏。わたし味音痴でおいしいものとか分からないのだけど、本当においしいものは、例えば日本に帰ったとき食べるお米のように、おいしいと分からないうちにたくさん食べてしまう、そんなところがあるのだけど、そんな感じの音楽。上善如水というお酒ありますよね。それと同じ(かな)。
音楽は、高校生っぽいところの全くない、なんだか達観したような成熟した大人でしたが、アンコールにモーツァルトをもう1曲と大声で言った声は、まさしく高校生のまだ大人になりきっていない声。おねーさんときめきましたよ。細かいことだけど、カーテン・コールのとき、彼ひとりで2回出てきて最後にビエロフラーヴェクさんと一緒に出てきたからアンコールはなしかなと思ったら、いきなりアンコールを弾きますと言い出して、ビエロフラーヴェクさんも一瞬きょとん。セカンド・ヴァイオリンの空いてる席に座って、オーケストラの人とにこやかに言葉を交わしてる感じは、ほんとにこの人とオーケストラの間が上手く行ってるんだなって感じさせるものでした。
アンコールはトルコ行進曲。超絶の方ではなくてオリジナルのです。こちらは、まだちょっと青いかなって思いました。でも、ステキな若い男、じゃなかったピアニストを発見して嬉しいわたしでした。かぶりつきで見たかったわん。

休憩のあとはマーラーの交響曲第7番。もの凄くマイナーな曲なのに、マーラー・イヤーとも重なって、ロンドンでこの曲を聴くのは、4回目です。人生では6回目。
はじめに書いたように、ビエロフラーヴェクさんの演奏は、ごつごつとした手作り感のある重めの音楽でした。あっこれは、巨大な鉄のかたまりを動かすような、重さとエネルギーのある音楽だった交響曲第5番の演奏のときに感じたものだ、と思い出しました。これは確かにわたしがこの音楽に求めるものではないのですが、真摯な音楽作りに感心したし、納得して、こういうのもステキって思えました。オーケストラは若干ミスが目立ったものの(やっぱりかなり難しそう。しかもその難しさが第6番みたいに素直じゃなくてひねくれてるっぽい)、オーケストラは良く鳴っていたし、聴くじゃまにはなりませんでした。
第1楽章は特に重々しく、主部のホルンの主題なんかは、ゆっくりで、重いゴムを引き切って前に進むような粘度の高さがありました。暗い夜の情感。死に神と隣り合ってる世界。マーラーのチェコでの幼少時代の幻影を引きずっているようです。ビエロフラーヴェクさんもチェコの人、この曲が初演されたのもプラハ、何か共通の根っこというか共感があるのでしょうか。ビエロフラーヴェクさんの演奏は、マーラーの音楽をとても良く知っている人の演奏、という安心感があります。新しい感覚のマーラーではないですが、地道にたたき上げた人のカペル・マイスター的な音楽のように感じます。今どきはかえって珍しい感じで、でも好きです。

第2楽章は元気な行進。タイトルは「夜の歌」だけど、音楽は実際そういう感じではないよね。ということを潔くはっきり聴かせてくれた感じ。音楽の本質をタイトルに惑わされずに捉えてると思いました。ときどき長くて退屈しちゃう演奏もあるけど、これはちっともそうではなかったのも吉。やっぱり良い演奏はぐいぐいとわたしを引き込んでいきます。第3楽章の不気味な感じも第4楽章のマンドリンとギターが良く聞こえた(マイク通してないのに)セレナーデも、奇をてらった感じじゃなくてとっても普通(でも、この曲だと何が普通なのか分からなくなりますね)な感じなのに、音楽に聴き惚れてしまうんですもの。この曲が好きだというのもあるけど、ビエロフラーヴェクさんとBBCシンフォニーの演奏の質の高さゆえでしょうね。

第5楽章は第4楽章に続けてではなくて、咳をする間をあけて始まりました。ティンパニのどんちゃん騒ぎと高らかな金管楽器のファンファーレ。この楽章、脈絡のない、とっても弱いフィナーレという評価もあるけど、今日の演奏はそういうことをちっとも感じさせません。むしろ音楽の圧倒的な大きさがそれを凌駕しているように思えるし、歓喜が自然に爆発しています。多分この音楽に例えば暗から明へみたいなストーリーなんていらない。5つの性格の異なる音楽という古典的な交響曲なのではないかしら。ハイドンやモーツァルト交響曲にストーリーを付けて演奏することがナンセンスなように、マーラーのこの曲だってそういうあり方もありに違いない。そして最後は、喜んで華やかに終わろうよ。

終わったあとのオーケストラとビエロフラーヴェクさんの満足そうな表情が印象的でした。

そうそう、マーラーの交響曲(第6番と第7番)といったらカウ・ベル。珍しい楽器なので理想の演奏家を探すのも大変みたい。ジンマンさんとトーンハレのカウベル奏者探しのドキュメンタリーです。ドイツ語分からなくてもおもしろいよ。
http://www.youtube.com/watch?v=y8RdzgB2Mug&feature=youtu.be
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by zerbinetta | 2012-03-09 07:43 | BBCシンフォニー | Comments(0)

音遊びをする人たち シベリウス、ブニアティシヴィリ、カラビッツ、BBC交響楽団   

24.02.2012 @barbican hall

sibelius: symphony no. 4
prokofiev: piano concerto no. 1
stravinsky: petrushka

khatia buniatishvili (pf)
kirill karabits / bbcso


BBCシンフォニーによるシベリウスの交響曲シリーズ、今日は第4番。重暗い感じの音楽なので、BBCシンフォニーの音色にぴったりだと思っていました。なので、とっても楽しみにしていた音楽会です。それにしてもこの曲が前プロとは。。。
指揮者のカラビッツさんは名前だけ聞いたことがある人。わたしは行かなかったけど一昨年(?)、ロンドン・フィルに客演しているはずだし、現在はボーンマス・シンフォニーの主席指揮者。35歳、ユロフスキさんやネゼ=セガンさん、ハーディングさんと同世代ですね。

その苦汁のようなシベリウスは、予想どおり、曲の重暗さがオーケストラの音色に合っていてにやり。曲とオーケストラの絶妙なマリアージュ。この音のシベリウスは良い! カラビッツさんは、ゆっくり目のテンポで、丁寧にシベリウスの音世界を築き上げていきます。オーケストラをとても良く鳴らして、もともと音量のあるBBCシンフォニーだけれども、すっきりと解き放たれたようにオーケストラが鳴って実に気持ちがよいのです。暗いけれども澄み切って透明な音楽。シベリウスの音楽って不思議な魅力がありますよね。特にこの交響曲第4番って、シベリウスの作法を突き詰めた感じがあって、旋律がとっても断片的で短くて、それが囁き合うようにそこここから聞こえてきて、彼が、流れるような旋律を紡いで音楽の物語を作っているのではないことが分かります。シベリウスは抒情よりも抒景的な音楽を書いてる。それは外の世界の景色の記述でもあるし、心の景色の記述でもあります。とっても客観的な音楽。交響曲第4番も暗い色合いだけど、悲しい音楽ではちっともなく、暗い森の音楽。森の中の音を、耳に聞こえたとおり、心に聞こえたとおり、音遊びのように音楽にしているよう。自然に対する畏怖の念を含めて。カラビッツさんとBBCシンフォニーは、そんなシベリウスの音楽を余すことなく正確に音にしました。とってもステキな演奏だったと思います。カラビッツさんとBBCシンフォニー、どちらにとっても充実した演奏だったのではないかしら。この客演がもう少し早くあったら、カラビッツさんが次の主席指揮者に選ばれてたかも知れないなんて思うほどに。もちろん、オラモさんもとっても素晴らしいので、甲乙付けがたいんですけどね。

今日のもうひとつの楽しみは、最近めきめきと頭角を現していると言うか、話題に上るブニアティシヴィリさんのピアノ。美人だから。いいえ、音楽もとっても良いのです。今まで2回(あれ?3回かな)、聴きましたが、曲と彼女の音楽がぴたりとはまったときの演奏はもの凄いんです。前に聴いたとき、リストとプロコフィエフのソナタがもうとんでもなく良かったので、今日のプロコフィエフの協奏曲はとっても楽しみでした。第1番の協奏曲は何故かあまり演奏されないし、初めて聴く彼女の協奏曲です。今日は背中の大きく空いたセクシーなドレス。美人さんだけに何を着ても映えるんだと思うんだけど、セクシー光線にくらくら。あわあわしているうちに音楽が始まって終わってしまったそんな感じ。正直に言うと、よく分からなかったんです。最初のリズムの繰り返しモチーフが、繰り返されるごとに力なく減衰していくようで、あれれちょっと大丈夫と思ったのが始まり(ここ、1回1回は減衰するけど、繰り返している間は緊張を維持ですよね。そうじゃないと音楽が推進しない)。ブニアティシヴィリさんは、ちゃんと弾けてたと思うし、力強いタッチはプロコフィエフの音楽だったけれども、ちょっとちぐはぐな感じ。わたしの脳みそがセクシー光線に当てられてヘンになっちゃってたせいかもしれないけど。
終わって、拍手を受けているとき、なんだか緊張が解けてよし!やった!という解放された表情をしていたので、もしかするとかなり緊張していたのかも知れませんね。ちょっとだけという指の仕草で、始めたアンコール。プロコフィエフの第7ソナタのフィナーレだったけど、これがもうたたみかけるようなアグレッシヴな音楽で素晴らしかった。この曲はリサイタルでも弾いてるし自信があるんでしょうね。掛け値なしに良かった。この人は、まだまだ演奏回数を積み重ねて良くなっていく人かも知れません。協奏曲も何回も演奏を重ねて良くなっていくのではないかしら。

お終いは、ペトルーシュカ。やっぱり、カラビッツさん、鳴らす鳴らす。ストラヴィンスキーが書いた、複雑な音たちを、どの音もちゃんと独立して聞こえてくるのだけど、楽譜を見透かすように精緻なバランスで演奏するのではなくって、他より大きな音を出せば聞こえる原理で、音を重ねていくの。こういうやり方をしたのは、ロストロポーヴィッチさんとかがいたんだけど、カラビッツさんもその系譜。だけど、うるさくならずにちゃんと全部聞こえるのが秀逸。オーケストラもみんなで気持ちよく音遊びしてなんだか嬉しそう。若くて溌剌とした音楽だし、音浴びして気持ちいい〜。カラビッツさん、ただ者ではないわ。これから要注目デスね。こういう人こそ日本のオーケストラに招聘して、じっくり音楽を育てていけばいいのに。
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by zerbinetta | 2012-02-24 06:23 | BBCシンフォニー | Comments(0)