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懐かしい再会   

prokofiev: classical symphony
rachmaninoff: piano concerto no.2
tchaikovsky: symphony no.4
piers lane (pf), alexander vedernikov / lpo @royal festival hall


LPOのシーズン・プログラムで、写真を見つけたとき、あっこのひと見たことある、誰だっけ?ってつたない記憶をたどっていくと、あっそうだ、数年前、演奏を聴いてこの人ただ者ではないって思ったアレクサンドル・ヴェデルニコフさんではないですか。もう一挙に嬉しくなって、今シーズン待ち遠しい音楽会のひとつになったのです。

ステージに上がったヴェデルニコフさんの姿を見たとき、あ〜やっぱりこの人だって懐かしさが込み上がってきて、今日はどんな音楽を聴かせてくれるのだろうってわくわくしました。始まりはプロコフィエフの古典交響曲です。軽く洒脱に演ると思いきや、結構重厚。テンポが遅いという訳ではなく、音が重め。例えば金管楽器の低音を強調したりとか。なので、ハイドン風の音楽よりもプロコフィエフ風の現代感覚が表に出た感じ。わたしは室内楽風な洒落た感じに現代風のウィットが入る演奏が好みだけど、こういうのも想像していなかっただけに面白い。やっぱりプロコフィエフはロシア人なんだなぁと思ったのでした。

2曲目はピアーズ・レーンさんを迎えてラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。これが良かったんですよ。オーケストラが。ものすごくロシア的というか、暗くて情念があって、低弦の動かし方が独特な感じで、オーケストラの音色が指揮者でこんなに変わるとは思いもしませんでした。ピアニストのレーンさんは初めて聴く人。オーストラリア生まれ、ロンドン在住の見た感じは中堅どころのピアニストです。プログラムの写真と違って髪は金髪のカーリー(写真では短髪でした)。(最近なぜかピアニストの髪型を必ずコメントしてない?わたし) テクニックは十分ある感じで、速い部分をかなり速く弾いたりしてうわっと思ったし、音量もたっぷりあるのですが、もうちょっとロマンティックに弾いてもいいかなって思いました。音色がモノトーンだったのはオーケストラに合わせたのでしょうか。わたしには指揮者主導のコンチェルトのように聞こえました。ロンドン在住のピアニスト和香さんのブログによるとレーンさん人間的にとおってもステキな人みたいです。そしてお茶目の極みはアンコール。クワイ河マーチの主題によるベートーヴェンのピアノソナタ風(ほんとの曲目は知らない)。面白い面白い面白い! 会場大笑い。これ音だけじゃなくてピアニストの表情も面白いのよね。そして終わりそうで終わらない最後。笑わせてもらいました。すっきり。

最後はチャイコフスキーの交響曲第4番。わたしはこの曲カラヤンとベルリンフィルの演奏で親しんでるのでどうしてもそのイメジ先行。でも、わたしは最初のホルンのファンファーレを聴いたとたん鳥肌が立って引き込まれました。なんと勢いのある懐の深いステキな音色。ヴェデルニコフさんの音楽は、特にテンポの面でいつもわたしの予想を裏切ります。それはわたしの好みではなかったりもします。今日も第1楽章の主部の入りのヴァイオリンは溜めなしでいきなり快速テンポ、そしてわたし的には雪の中で夢を見るような仄暗い第2主題はさらに飛ばします。でも、それがぴたりとはまるのがヴェデルニコフさんの不思議。わたしの好みではなくても、すっかり納得しちゃうし、これもいいなって思えるのです。コーダのいきなり倍速テンポも、多分楽譜通りなんでしょうけどここまでやるのは初めて聴いた、ぴたりとはまってかっこいい。ただもしかすると、ヴェデルニコフさんのテンポ設定、ちょっと大雑把かもしれません。主題が戻ってくるときのテンポが最初のテンポと違ってたり。これはわざとやってるのかもしれませんけどね。第2楽章はちょっと気になったかな。そして最後、運命の主題が戻ってくるところでは、ファンファーレの終わりを急ブレーキ。そしてヴェデルニコフさんの壊れっぷりがほんとに良かった。現実に運命に打ちのめされた感じ。本当に運命交響曲として演奏してる(確かに運命交響曲ではあるんだけど、表題性には乏しいよね。伝えたいことは弱いし。運命からの解決方法とかさ)。人形遣いがヴェデルニコフさんを指揮台の上で運命の糸を切ったみたい。劇を見てるよう。もちろん最後は群衆の中に紛れて華々しく終わったんですけどね。それにしても、さっきも書いたけど、ロンドンフィルがまさにロシアの音を出している。オーケストラの音をここまで変えてしまうヴェデルニコフさん、やはりただ者ではない。

ヴェデルニコフさんは現在45歳くらい。ボリショイ劇場で活躍されていて、今回の演奏(オール・ロシアもの)は、ロシアではこんな風に演奏されているんだっていう感じのローカルな感じのもの。インターナショナルな水で薄めた感じではない、濃い血が流れてるゆえかえって普遍性を獲得している、そんな感じ。それは彼の経歴がロシアの地に根ざしていたからかもしれない。今年はボリショイ劇場を辞めて、デンマークのオーケストラの主席指揮者になるみたい。これからはますます国際舞台での活躍が増えると思うけど、ぜひずうっとロシアの濃い血の流れる演奏を聴かせて欲しいと思います。こういう指揮者は今では貴重だしステキだもの。

by zerbinetta | 2009-10-30 07:19 | ロンドン・フィルハーモニック

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