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佳曲   

sibelius: the wood nymph, six humoresques for violin and orchestra,
symphony no.1
henning kraggerud (vn), osmo vanska / lpo @royal festival hall


友達にバカだと言われた音楽会シリーズの1日目。ヴァンスカさんとロンドン・フィルハーモニックによるシベリウス・チクルスの第1夜。4回にわたって7曲の交響曲がほぼ順番に、シベリウスの割と有名でない曲と共に演奏されます。今日は「森の精」「6つのフモレスク」「交響曲第1番」です。このシベリウス・チクルス、とても楽しみにしてたんです。シベリウス大好きだし、でも有名な曲以外ほとんど演奏されませんよね、イギリスは本国以外でシベリウスを受容している最大の国なので、こういう機会があるのが嬉しい、そして、ヴァンスカさんがいいのですよ。ヴァンスカさんの去年のベートーヴェン、とっても良かったですからね〜。得意のシベリウスと言ったら尚更でしょう。
始まりの曲は「森の精」。初めて聴く曲です。作品15番だから最初期の作品。シベリウスは楽譜を出版せずにお蔵入りにさせたのを何年か前にヴァンスカさんが採り上げて演奏したのがこの曲の再発見だそうです。チャイコフスキーっぽさも残るけど、シベリウスらしい透明感に満たされたきれいな音楽。デモーニッシュな引力はないけど、聴いていて心地のよい音楽。シベリウスって佳曲というかこういうしみじみと聴ける音楽が多いですね。2番目に演奏された「6つのフモレスク」もそう。ヴァイオリンを弾いたヘニング・クラッゲルードさんは、初めて聴く方ですけど、ノルウェイ出身の30代後半の人。聴いた印象は一言で言うと怖ろしく正確に弾く人。こう書くと褒めているんだか貶してるんだか分からなさそうだけど、実はとっても凄いことだと思うんですね。音程、リズム、アーテキュレイション、音量、求められる音色に至るまで全てに正確。テクニックをひけらかせるわけではないけど、基礎的なテクニックが凄いんだと思います。そして、正確に弾くことは決して音楽をつまらないものにするんじゃないということをきちんと証明して見せてくれました。きっと彼が正確な音の上にさりげなくささやかな彼の調味料を加えていたからですね。彼のシベリウスの協奏曲とか聴いてみたいなぁ。

休憩の後はいよいよ、交響曲第1番。実はわたし、ヴァンスカさんのシベリウスってほとんど聴いたことがなかったのですよ。録音では交響曲第5番の初稿とヴァイオリン協奏曲の初稿くらい。なんかマニアックな選曲ですね〜。なので、ヴァンスカさんがシベリウスに対してどんなアプローチをしてくるのか分かりませんでした。最初のクラリネットのソロは、指揮をせず奏者任せ。とてもゆっくりとしたテンポで始まりました。鳥肌立った。どっしりと腰を据えた雄大なシベリウスが来るのかなと思ったら、主部に入っていきなり快速テンポ。かなりアグレッシヴ。トランペットなどの金管楽器にかなり鋭い音を要求していて、演奏がちょっと荒くなったのは残念。シベリウス独特の細かなフレーズをそれぞれ独立の細胞のように演奏していて、めまぐるしく雰囲気が変わります。シベリウスを好きになれるかって、このシベリウス特有の短いフレーズの集合を受け入れられるかだと思うんですね。後期になるほど顕著になってくると思うんだけど、長く歌うような旋律があまり出てこない。ヴァンスカさんはシベリウスをほんとに愛しているんでしょう、ヴァンスカさんのそれぞれのフレーズ群の扱い方にはとても感心しました。対照的にたっぷり歌うところはゆったりと抒情的に歌い込んでいきます。これって、嵐。雷や怒濤の海の嵐ではなくて、空を雲が走り天気が目まぐるしく変わるような。イギリスのお天気みたい。シベリウスがイギリス人に人気なのもこんな郷土の雰囲気に似ているからなのかもしれませんね。それにしても激しいシベリウスだったなぁ。若い音楽。シベリウスにも若い疾風怒濤のときがあったということをあらためて感じさせられました。
そして、この際だった激しさを演出した演奏は、今日の音楽会がシベリウスの交響曲を第1番からほぼ順番に第7番まで採り上げるチクルスの演奏会だからだったせいも加味されているのかもしれません。シベリウスのそれぞれの時代の音楽をきちんと描き分けて聴かせるということが意識されていたようにも思えます。音楽の演奏の仕方って同じ指揮者、同じ演奏者、でも、会場や、お客さん、当日のプログラムなど、いろんな要因で変わってくるものだと思います(実際フルトヴェングラーがそんな発言を書き残していますよね)。これは残念ながら録音されたものを聴いているだけでは分かることのできない、音楽が生まれる瞬間に立ち会える音楽会ならではのこと。だからこそ音楽会に行ってしまうのです。次回の音楽会、次の交響曲をどんなアプローチで演奏してくるのかとっても楽しみです。

あっ今日はフルートのトップが普段見慣れない若くてきれいな女の人でした。ゲスト・プリンシパルにローラ・ルーカス(laura lucas)さん(ウェブ・サイトあり)。彼女、クラシックのフルートも吹くと同時にジャズ・シンガー(プロフェッショナル)でもあるんですね。ポピュラー音楽を演奏するクラシック奏者は今では珍しくもないけれども、違うパートというのは凄い凄い。
佳曲_c0055376_4535811.jpg

by zerbinetta | 2010-01-27 04:52 | ロンドン・フィルハーモニック

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