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良くも悪くもわたしは好き   

stravinsky: the rite of spring
bruckner: symphony no. 3
lorin maazel / vienna philharmonic


マゼールさんとウィーン・フィルの第2夜は、ストラヴィンスキーの「春の祭典」とブルックナーの交響曲第3番。どちらもメインになっても十分な曲目です。わたし実は、こういう特選幕の内弁当大盛りみたいなプログラムはどちらかというと面白くありません。曲どおしの組み合わせ自体に何か考えさせられるものがあるのが好きです。でも、マゼールさんが今聴かせたい音楽がこれなのかもしれませんね。
「春の祭典」はドキリとするような雰囲気で始まりました。マゼールさん、インテンポで押すんじゃなく、この複雑なリズムの音楽を、ルバートで作っていきます。ウィーン・フィルもしっかりついていきますが、でも、やっぱり、弾き慣れていない感がある感じ。一流のオーケストラではあるので乱れることはないのだけど、微妙に刻みのリズムがずれたり。わざわざウィーン・フィルで聴かなくてもっていう感じでもありました。こういう曲に慣れてるオーケストラだったらもっと上手に弾けるのにっていう感じです。まぁでも、この慣れのなさは、初演の頃のまるで異星人がやってきたような戸惑いの雰囲気を醸し出していたかもしれません。オーケストラの音色も現代の多機能なニュートラルな音色よりも、ウィーン・フィルのそれは20世紀前半の音に近いのかもしれないし。それはそれで面白いんです。それにしてもマゼールさんの演奏はかなり異形。どろどろした感じで、生け贄の乙女が長老達に弄ばれて死んで、どろどろに溶けていく、救いのないイメジ。と言ったら極端ですけど、でも、上に伸びていく生命力よりも、大地に溶けていく強力なエントロピーを感じました。

ちょっと無理をした感の残ったストラヴィンスキーとは対照的に、ブルックナーはまさにウィーン・フィルの音楽でした。マゼールさんはマゼールさんだったけど。最初は快速テンポで始まったんですよ。ふふっ、普通かなって思ってたら、いきなりユニゾンになるところで急ブレーキ。緩急の出し入れをしっかり付けたブルックナー。でも不思議と心地良いのです。わたしは、ブルックナーの演奏はとにかくかっこいいのが好きなんです。しっかりと音が鳴っていて、ぐいぐいとドライヴされるような、都会的なスマートな演奏。ブルックナーって野人とか田舎者なんてイメジが付きまとってるけど、でもほんとは(素朴な方ではあるけれども)センスのよいスマートな音楽を書く人なんじゃないかと。なんて言うとブルックナー好きの人からは怒られそうですが。第3番の交響曲はスピード感のあるかっこよさでは際だっていますよね。第4楽章の始まりなんかは宇宙の彼方からウルトラマン飛んできそうだし。
今日の演奏で一番びっくりしたのは、その第4楽章。真ん中らへんで、第2主題が4分音符のトゥッティで強奏されるところ、うわ〜〜ずれてる〜、空間が曲がるぅ〜ってびっくりした。同じ音を弾いてるのにリズムがずれてるんですね。ほんとにびっくりして家に帰ってから楽譜を見ちゃった(今はネットで楽譜が見られるんです。もちろん無料。良い時代になりました)。そしたら、ちゃんとずれてる。低音パートは半拍遅れて同じ旋律を弾いているんです。でも、CDでは気づかなかった〜。確かにちゃんと聞き返してみると、ずれてるんですけど、今日のマゼールさんのようにこんなに強調されていない。でも、これがものすごい効果を生むんです。ほんと空間がゆがんで宙に放り出されちゃった感じ。前に聴いたマーラーの交響曲第3番でも2重のテンポになるところで同じように感じたことがあったっけ。マゼールさんほんとにこういう表現上手いなぁ。
今日はブルックナーの音を浴びるように堪能しました。とても良いブルックナーでした。

今日もアンコールがありました。昨日に引き続いてハンガリアン舞曲の第5番。そして第1番も。昨日に引き続いてマゼール節炸裂。そして楽しそうなオーケストラ。マゼールさんとウィーン・フィルはとっても良い関係にあるのでしょう。拍手のときもマゼールさんは一歩引いてオーケストラを讃えていました。
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わたしと視線を交わすマゼールさん。ウソです。

by zerbinetta | 2010-03-03 18:24 | 海外オーケストラ

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